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「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」に何て返せばいいのか分からなくて、いつもフリーズする。
スーパーで豆板醤を探している時、ふと通り過ぎた店員が「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
「いらっしゃいませ」への返事は何なのか。
「あはぁ」と曖昧に口角を上げて、首を痛めているのかと誤解されるような中途半端な角度で頭を下げて止まってしまう。
返事を必要としていなのは理解している。
何かを言われて、何も返さないでいるのが違和感なのだ。
やる気のない「いらっしゃいませ」だったら流せるが、私がよく出くわすのは心を込めていると感じるようなトーンの「いらっしゃいませ」なのだ。。
毎日色々なことがあるだろう。楽しいことだけではないはずだ。なのにあなたは、豆板醤を血眼になって探す女にニコニコして元気ハツラツなウェルカムをくれるのか。
「あなたの働きで私は生きることができています!」という意味の挨拶はないのだろうか。
いちいち、あなたの働きで私は生きることができています!と言って回っても良いのだが、困惑と恐怖を与えることは予想できる。
百貨店やお高めのスーパーにうっかり開店時に行くともう冷や汗ダラダラだ。
従業員がズラッと並び、次々と「いらっしゃいませ」を発しながらきっちりお辞儀をしていく通路を長距離歩くことになる。
いたたまれない。私もペコペコして「よろしくお願いします!お願いします!」と返しながら進みたいが、道場破りみたいでとっても変だ。
目立たないよう、浮かないよう、短く浅いお辞儀を赤べこのように繰り返しながら進むしかない。どっちにしろ変だ。
どうして皆サッサッと歩いていけるのだろう。王族なんですか?すみません、私は一般家庭の出なもので……。

答えが出ないまま、もう何年も経った。
私の反応は少し微笑む程度に収まった。
それ以上の気持ちがあるが、全て分かりやすく出すことが相手のためになるとも限らない。
私の気持ちは私がきちんと把握して持っていればいいのだ。
明るい「いらっしゃいませ」をくれる全国の人へ。
あなたのおかげで私は生きることができています。

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