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その10 コピー練習 Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化

 今回は「コピー練習」です。②のハコの「ジャズイディオムを身に付ける」に入ってますね。前回の「トランスクライブ」は人のソロを譜面にするところまででしたが、今回はそれを練習して、まさに「身に付ける」プロセスになります。キーワードは Internalize かな(使ってみたかった)。最近は、自分でトランスクライブしなくても、商用のコピー譜は勿論、インターネットやらYou Tubeやらにいくらでも"Transcription"の譜面が落ちているので、それをどの様な心掛けで練習するといいか、ということを中心に考えてみます。


10.1 コピー練習は何のために行うか

 勝手に「コピー練習」と名付けてみたが、先ずは定義を考えると「自分自身、または自分以外がトランスクライブした素材(譜面)を再現できるように練習すること」くらいになるだろうか。改めて目的を考えてみる。

(1) 目指せそっくりさん

 まあ、曲芸的に人のソロ(またはサウンド)を再現してウケる、というのはあるだろう。ロックの世界のコピーバンドはそれが最終目的だ。もう少し凝る人たちだと、例えばSteely Danのkid charlemagneのラリーカールトンのソロのそっくりさんコンテストなどということもやっている。
 ジャズの世界でも、例えば、コルトレーンのGiant Stepsのソロをそのまま吹くとほぼ(素人の世界では)間違いなくウケるだろうw  最近You Tubeでよく見る「吹いてみた」動画はこれの一種ですね。
 同じ再現でも「そっくりさん」という世界もある。実際、ジャズテナーサックス業界は一時期ブレッカーそっくりさんだらけだったし、私はグロスマンそっくりさんになりたかった(なれなかったけどw)。 

(2) フレーズやイディオムのパクり

 ジャズの世界で一般的なのはこれだろう。パクり、というのは若干過激な表現であるが、先人の残したソロを分析して、その方法論や表現方法を真似る、あるいは、そこからの学びを自らのプレイに応用する、というのが最終目的で、そのために、手段として一旦そのまま吹いて感覚を得る、ということだろうか。前項の「そっくりさん」は特定のプレイヤーに関してそれを突き詰めるとそうなる感じ。
 パクる材料も実はいろいろあって、よく話題に出るのは音列、いわゆる理論から考える音使い(ここはドミナントを何とかと解釈してナントカのテンションを云々)だろうが、他にも音色、タイム、リズムパターン、ソロの構成等々様々な要素がパクり可能と思う。

 まあ、小難しく考えなくとも、著名プレイヤーの格好良いソロをそのまま吹けたら気分がいいだろうし、あまり考えずともその経験は自分の音楽に反映されていくはずだと思っている。改めていうと、他人のソロを真似るプロセスから、そのフレーズやアイディアを「モノにしていく(Internalize)」 と考えるとよいだろう。というわけで、つべこべ言わずにとりあえず練習しようww

10.2 何を意識するか

 目的が上記のどれだとしても、やはり、何を意識するか、要は、何を真似るか、というのは明確にしておいた方が良い。というわけで、前回「トランスクライブ」の時に列挙したポイントを再掲する。

  • 音の並び(いわゆるフレーズ)

  • アーティキュレーション(タンギングの有無、強さ、テヌート、スタッカート等)

  • リズムパターン(いわゆるシェイプ的なもの)

  • タイム感(前ノリ、後ノリ、ジャスト等)

  • 八分音符の「跳ね」具合

  • 音色(サブトーン、リアルトーン、グロートーン等)

  • 音量(ピアノ、フォルテ、クレッシェンド、デクレッシェンド等)

  • 装飾音(ベンド、運指による装飾)

  • ソロの構成・展開

 いろいろあるw まあ、言いたいのは、音の並び≒運指だけ練習するのではなく、アーティキュレーションや音色、細かい装飾音等もよく聴いたうえで、どうやったら再現できるのかを考えながら練習するということだろうか。まあ、初めのうちは運指を再現するだけでいっぱいだろうから、まずはそれに集中して、ある程度できるようなったら他の要素も考えてみるとよいのかもしれない。

10.3 どうやって練習するか

 とりあえず、自分でトランスクライブしたものでも、どこかから引っ張ってきたものでも、手元に楽譜があるとする。基本的には「楽譜見て100回繰り返せ!以上!」ということだと思うのだが、まあ、それもイマイチなので、何かしら工夫できないかと思って考えてみた。なお、以下の方法は頭で思いついたもので、まだ検証できていないので、誰か試しにやってみてくださいww

(1) コピー譜練習で陥る罠

 私自身が典型的な例だと思うのだが、なまじ楽譜が読めるばかりに、とにかく楽譜をさらうのに一生懸命になってしまう。まあ、それでもそれなりに目的は達成できると思うのだが、ある意味エチュードとかビッグバンドの譜面をさらうのと同じプロセスになってしまい、練習終わったらあっさり忘れて譜面が無いとできないので、"Internalize"されたとは言い難い。絵にかくとこんな感じか(一度いらすとやのイラストを使ってみたかったので無理に使ってみたw)。

コピー譜をさらう練習

 海外のプレイヤーのオンラインレッスン等を受けると、宿題で課題曲のトランスクライブをやって、さらにそれを「暗譜して再現すること」を求められるらしい。スタジオプレイヤーになるのであればともかく、アドリブをするのが目的であるならば「楽譜を読んで再現する」ではなくて「頭の中に浮かんだ(あるいはメモリーしてある)音符を再現する」ことを目指すべきということであろう。

目指すべき姿

(2) コピー譜練習の方法案:ソルフェージュ化

 上記を改めて意識しつつ、特に、あまり慣れていない人、譜面に強くない人向けのコピー譜練習のやり方を考えてみた。
①トランスクライブした譜面に、音名(ドレミファ)を書き込む。
 こんな感じだ。これは、先日トランスクライブの素材例として紹介したSonny Rollins の On a Slow boat to Chinaのアドリブの一部を某所からパクってきたものだが、その楽譜に音名を書き込んでいく。

On a Slow boat to China/Sonny Rollins

②書き入れた音名を元の音源に合わせて、大きな声で唄う
 音源を再生し、それに合わせて大きな声で、
「シラシ(b)ドレファラファソソッ(#)!!」
などと唄ってみる。ここでは、(a) 大まかに音源のメロディをなぞる。正確でなくてもいいが、音程の上下ぐらいは合わせてみる (b) いわゆるアーティキュレーション的なものも真似てみる (c)シャープやフラットは口に出さなくてよいが、なんとなく自分の唄でそれとわかるように工夫する (d)口が回らない場合、なかなか真似ができない場合は、音源のスピードを落としてみる(例えばYou Tubeの再生速度調整とか)、などを心掛けるとよいと思う。
 これ、可能な限り、できれば隣の家に聴こえるぐらいのw大きな声で唄うのが良いと思う。理由は、とにかく自分自身に聞かせてメロディと音名を合わせて"Internalize"する、要は、脳に叩き込むためである。
 慣れてくると、必ずしも声に出す必要はなく、例えば通勤・通学電車の中で脳内で練習、みたいなこともできるようになってくるとは思うが始めはとにかく声に出して練習してみよう。
 改めて考えてみると、実際のアドリブフレーズを使ってソルフェージュの練習をしているようなものだな。これをしばらくやっていると、読譜力もついてくるような気がします。

③覚えたフレーズを楽器で練習(再現)する
 ここでようやくサックスの登場だ。譜面は最初のうち見てもよいが、できれば脳内にInternalizeされた(覚えたもの)ものをそのまま再現するようなつもりで取り組むのが良いかもしれない。
 当然、以前の「タンギング」の「タンギングしない派」で採り上げたBob Raynoldsが映像で主張していたように"Slow, Straight, Slurred"、要は「ゆっくり、イーブンで、タンギングせず」練習してみるというのも一案だ。遠回りだが、こちらの方が再現性を高めるという意味では有効だと思う。当然、メトロームフェチとしては、必ずメトロノームを使いながら練習することをお薦めしたい。
 以前紹介したBob Raynoldsのビデオ(あまりこなれていない日本語訳がついてるバージョンがあった)を再掲しておこう。

 ついでに、メトロノームに合わせてゆっくりとしたテンポ(BPM=60!!)で練習することの大切さを説いている映像も。このTシャツ欲しい。

10.4 まとめ:ジャズイディオムを身に付ける

 前回の「トランスクライブ」に続き、今回はその練習についての考察を書いてみた。改めてだが、これらの目的は他人のソロを真似るプロセスから、そのフレーズやアイディアを「モノにしていく(Internalizeする)」ことだと思っている。まさに図のハコのタイトル通り「ジャズイディオムを身に付ける」ということですね。
 その意味で、本来であれば音楽理論的なアプローチ(音使いの音楽理論的な意味の分析)も重要ではあると思うが、私自身あまり分かっておらず、ほぼやったこともないwので、ここでは男らしく省いたのはご承知いただきたい。まあ、それはいろんな人がいろんなメディアでやってるので、そちらを参考にしていただければと思います。

おまけ:手持ちのコピー譜を晒す

 折角こんな記事を書くので、昔買って家に置いてある商用コピー譜を引っ張り出して並べてみた。こんなにあるとは知らなかったw
 改めて、ほとんど練習してませんねwww 真面目にやったのは大学時代に買った左下のColtraneのブルートレインと、大友師匠にやらされた右下のCharlie Parker Omni Bookぐらいかな。あと、Giant Stepsも練習したことがある気がする。あとは、、、買って満足しちゃうんだよな。
 コルトレーンの下の真ん中の本に至っては、ほとんど練習したことないのになぜか二冊あるww 誰か欲しい人いたら差し上げますww

家にあったコピー譜集。ほとんど使っていないw

 というわけで、今回はここまでで。

その11はこちらから。

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