見出し画像

その13 アンサンブル Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化

 構造化の図で示した重要項目(赤字にしたもの)で最後まで残っていたのが、右上「③譜面通りに吹く」の箱の中に入っている「アンサンブル」だ。わかりやすく言うと「(ジャズの)ビッグバンドなどに参加して譜面を吹く」ですね。なんで「アドリブ練習論」なのに「譜面通りに吹く」なんてのが出てくるのかも含めて、考え方をまとめてみます。


13.1 なぜ「アンサンブル」なのか:私の体験から考える

 多くの皆様は「アドリブの練習論なんだから、アンサンブル関係ねーだろう」と思われただろうし、私自身も半分そう思っているw  そういわずに、敢えて理由を考えてみると、ジャズのアンサンブルに参加する意味は、特に管楽器奏者にとって、ジャズイディオム、フレーズ、アーティキュレーション、タイム、グルーヴ、そして最も重要な「周りを聴く」技量を身に着ける(体感する)のに一番効率的だ(ろう)から、ということになろうか。以下、私自身の体験的なエピソードから紐解いてみる。

(1) ブラバンの時代

 私は、小学校四年生の時(50年前!!)小学校の吹奏楽部に入ってサックスを始めた。サックス担当になった理由については面白いネタがあるのだが、ここでは省略。
 以降、高校三年生までブラバン少年だったので、私にとってサックスとはアンサンブルの一員として吹くものだった。ブラバンでサックスソロなんて滅多にないしね。それがイマイチで、高校の半ばからサックスが目立てそうなジャズに目移りしていったわけだが。
 話を戻すと、ブラバンでは、配られた譜面を読んで、同じクラブの数十人のプレイヤーと「合わせる」のが日常だった。ここで「合わせる」とは、音を出すタイミングだったり、音程だったり、ダイナミクス(強弱)だったり、色々あるが、重要なのは、そのために「音楽の構造(全体像)を知る」ことと「他人の音を聴く」ことだろうか。
 音楽の構造というのは、例えば、ある曲のある個所では、どのパートが主役で、どのパートがわき役か、とか、音量はどの程度上げたり下げたりすればよいか、みたいなことであり、基本的には楽譜に書いてあることを指揮者・指導者が解釈して指導する。直接的な指導は無くても、指揮者があるパートの方向いて「カモン!」みたいな顔したらそれはそのパートがもう少し前に出ろ(音量を上げろ)、みたいな意味だ。
 さて、その解釈は指導者が行い伝えるわけだが、実際に演奏する方としては、その意図を忠実に再現しないといけない。再現するためは、個々の楽器テクニックも必要だが、何よりも「周りの音を聴く」ことが重要だ。聞こえてなければ「合わせ」ようがないのだ。
 これは発音のタイミングとかよりも、音程やほかのパートとの音量バランス、みたいな点で必要になるのかもしれない。いずれにせよ、ブラバンにおいては、自分のテクニックもさることながら、いかに周りの音を聴いて(ついでに言えば、指揮者を見たり見なかったりして)合わせていくか、に意識を集中していたような気がするし、いつの間にか鍛えられていたんだろうと思う。

(2) ジャズのビッグバンドの時代

 さて、大学に入って、いよいよ面倒くさいブラバンから脱却しwコンボ演奏中心のジャズ研に入ったわけだが、ほぼ同時に、別の大学のビッグバンドサークルにも顔を出すようになった。兄貴が入っていたサークルのお手伝いということで、ある意味私の後の人生を決定づけるようなネタが発生するのだが、ここでは省略。
 いわゆる典型的なジャズのビッグバンドということで、ベイシー、サドメルあたりの王道曲や、もう少し小さい編成の曲などいろいろやった。アンサンブルという意味では、高校生までやっていたブラバン(クラシック音楽)における緻密さに比べるとずいぶん緩いもんだなとは思ったが、特に、ジャズのイントネーションを学ぶ(真似ぶ)という意味では、後々まで非常に役に立っていたと思う。
 特に、サックスセクションでのソリなどは、いわゆるジャズの八分音符を若干盛り気味に(三連で、ベタテヌートで、裏に妙にアクセント付けて)吹くことが必要で、コンボだけやっていては身につかない感覚を得られたと思う。同時に、そのソリや、全体のアンサンブルを「合わせる」ことに関しては、ブラバン時代に培った「聴く力」や「合わせる力」が役に立っていたはずだ。
 さて、大学二年生ぐらいになると、ジャズ関係の人脈ができてきて、いろんなビッグバンドに誘われて演奏した。当時の私は「譜面が初見でもそこそこ読める」「音がそこそこでる」「アンサンブルもそこそこできる(音程やアーティキュレーションのの調整が効く)」「ソロも何かしらできる」「でもギャラが発生しないw」というプロファイルの人で、便利に使ってもらっていたのだろう。グレンミラーオタクの人のバンド(グレンミラーしかやらない)、自己アレンジの曲しかやらないバンド(Mad Hatter Rhapsody とかやった)、そして、ビッグバンドじゃないけど、サックスセクション+リズム隊でSuper Saxのコピーをやる"Hi-Fi Sax"などなど。それぞれ、素晴らしいメンバー、特に、いいリードアルトの下で演奏すると、それだけで上手くなったような気がするし、実際、いろんな気付きがあったんだと思う(40年前の話なので覚えてないけど)。

13.2 アンサンブル(ビッグバンド)の勧め

(1) アンサンブルの経験はサックスのアドリブソロにどう役立つか

 というわけで、ようやく本題である。ジャズのアドリブを演奏することを目的としたときに、アンサンブルを体験して得られることは、下記かな。

・音楽の全体像を理解する能力
・他人がやっていることを聴いて、自分の演奏にフィードバックする能力
・(特にジャズのビッグバンドで)ジャズ特有のアーティキュレーション
・アドリブの真似事(書き譜ソロ含む)

 特に、「他人がやっていることを聴いて自分の演奏にフィードバックする」ことは、コンボ演奏だけやっているとなかなか体得するのが難しいのではないかと思う。これは、テンポ、音程、ダイナミクス(強弱)などが典型的だが、さらに、ジャズにおいては人が出した音やフレーズに反応して、その場で自分のフレーズを作る、みたいなことも必要になってくる。そのためには、自分の演奏に集中しつつ、同時に人の演奏も聴いている、みたいなマルチタスクが必要で、その癖をつけるためにもアンサンブルは重要だろう。
 あと、特にサックスに限って言えば、セクションでの演奏は、ジャズ特有のアーティキュレーションを身に着けるための一番の早道だと思う。但し、これには条件があって「上手いリードアルトのいるバンド」でないといけない。 この条件が合わないと、かえって逆効果になると思う。というわけで、バンドは選びましょうw

(2)書き譜ソロについて

 おまけになるが、いわゆる「書き譜ソロ」についてひとこと。
 ビッグバンドでは(もしかするとブラスバンドの「ポピュラーの部w」でも)ソロが回ってくることがある。ジャズのアドリブを追及するものとしては、ぜひそのような機会には飛びつきたいものだ。
 で、曲によっては、書き譜、すなわち、アドリブパートと言いつつ、すでに出来上がっている譜面が用意されていることも多い。さて、これはどう考えればよいか。素直にそれを演奏するのか、それとも、軽く無視して自分のアドリブを演奏するのか。
 まあ、結論から言えば「曲による」かなw といいつつ、アドリブ初心者はできれば書き譜を、それなりの精度でできるようになっておきたい。理由は下記。

・上記した「演奏しながら周りを聴く力」を磨くため
・書き譜ソロを題材に、アーティキュレーション、音程、ダイナミクスなどフレーズの細かい表現を身に着けるため

 特に、お手本(元の音源)がある書き譜は、いわゆるコピー譜の練習だと思えば力も入るというものだ。元の音源をよく聴いて、細かいニュアンスを理解し、可能な限り真似てみるとよいと思います。書き譜が無くても、お手本がある場合は自分でトランスクライブしてそのまま演奏してみるというのも良い練習になろうかと思います。

 さて、書き譜をそのまま吹くのが嫌だとか、そもそも書き譜やお手本ががないソロだというケースもあるが、その場合の選択肢はふたつ。①ガチのアドリブで勝負、②自分でソロをあらかじめ作っておいて再現する、ですかね。
 結論から言うと「お好きにどうぞ」なのだがw アドリブ初心者の場合は一度②を考えてみるとよいかもしれない。理由は「素人のガチなアドリブはたいてい格好悪い」からw。特に、短めのソロだと顕著だw  まあ、練習だと思ってやってみるのは手だが、折角人前でソロを披露する機会なので、いろいろ考えてからやりたいですな。例えば、入りのフレーズだけ決めておくとか、肝心なところのフレーズだけ決めておく、だとかなんてのもありかもしれません。これは、コンボ演奏でも同じことだけどね。

【補論】Super Saxの勧め

 上にもちょっと書いたが、学生の頃、大友義雄さんのサックス教室門下生(OB)の皆さんで結成されたHi Fi Saxというバンドに入れてもらったことがある。これはサックス4-5人のアンサンブルで、何回かライブもやった(リズムセクションはその都度プロの人たちにお願いしてやってもらっていた)。要は、ビッグバンドからサックスセクションとリズムセクションだけ抜き出したバンド、な訳だが、そのバンドの主なレパートリーが当時話題になっていた米国のグループ、Super Saxの譜面だった。
 最近話題にならないが、Super Sax、要はチャーリーパーカーのソロをその5管のサックスソリにアレンジしてブリブリ吹く、というコンセプトのバンド。この譜面を演奏するのは、いろんな意味で勉強になったし、面白かったなあ。譜面吹いてるといつの間にかチャーリーパーカーのソロ、フレーズとかアーティキュレーションが覚えられるし(A Night in Tunisiaの例の ”Famous Alto Break” もこのバンドで知った)、曲にも慣れるし、たいていの場合ソリパートが終わると各自のソロ合戦になるのだが、そこで、アドリブの経験も積めるし。リードはともかく、機械的にアレンジされた4th Tenorの譜面とかやたら難しかったけどw。最近、あまり聴かなくなったが、学生さんとかやらないのかな。ハードルは相当高いけど、アマチュアのライブでこれやったら大ウケだと思うんだけどなあ。練習という意味でも、人に披露するネタという意味でもお勧めです。誰かやらない?

<名盤:Super Sax Plays Bird ブリブリです> 

 さて、今回はここまで。一応、構造図で重要と思われる項目は今回までですべてカバーしたと思います。次は何を書こうかな。リクエスト求むw

続き(その14)はこちらから。

本連載の一覧(マガジン)はこちらから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?