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元外資系プロディーラーが本音で語る「老後に 2000 万円が必要」の真実

老後2000万円問題の世間の見方

先日発表された金融庁報告書で、「老後資産に 2000 万円が必要」だということが明らかになった。夫が 65 歳以上、妻が 60 歳以上の無職世帯(矢口注:有職期間に年金保険を払い続けた後、定年となり受け取る側に回った世帯)が年金だけで暮らす場合、毎月約5万円の赤字が出ると試算した。この後、30 年間生きるには約 2000 万円が不足するとした。


一方、麻生財務相は、「老後資産に 2000 万円が必要」はとんでもないガセネタだとし、報告書の撤回を求め、年金制度は安泰だとした。
また、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)がまとめる 2020 年度予算案の編成に向けた建議(意見書)では、1年前の建議に明記した私的年金などでの「自助努力」との文言は削除する方向だという。自助努力を促すことは、公的年金制度の失敗を意味するとの「誤解」を避けるものらしい。


この問題については、代表的な経済紙、経済誌が取り上げている。


参照:人生 100 年時代、2000 万円が不足 金融庁が報告書
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45636720T00C19A6EE8000
参照:老後資金問う「2000 万円」 家計どう対処すべきか
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46101080U9A610C1PPE000
参照:老後「2000 万円不足」問題、平均値が独り歩き
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46163990V10C19A6EA3000
参照:残念ながら「老後資金 2000 万円必要」は歴然とした現実である
http://cl.diamond.jp/c/aegyajmLlo4fsfab
参照:年金「繰り下げ受給」は本当に得か?ポイントは健康寿命
http://cl.diamond.jp/c/aegyajmLlo4fsfak
参照:「年金だけで死ぬまで遊んで暮らせる」と日本人をミスリードをしたのは誰か
http://cl.diamond.jp/c/aegyajmLlo4fsfap
参照:老後に本当に必要な金額は一体いくらなのか?
https://toyokeizai.net/articles/-/286838

世に明かされない老後2000万円真実

実は、私は上記の記事のどれも読んでいない。読むまでもなく、日本の年金行政は机上の空論にすがっているとしか思われないからだ。
2000 万円という金額はともかく、麻生財務相が豪語するように、民間の自助努力がいらないほど、本当に日本の年金で日本人が生活して行けるのだろうか?いくらあれば生活できるのかは、人それぞれだとは思うが、需給額は以下の通りのようだ。


参照:実際に支給されている国民年金の平均月額は 5 万 5 千円、厚生年金は 14 万 7 千円
https://seniorguide.jp/article/1001439.html
参照:2019 年最新|年金支給額の平均は国民年金 5.5 万円・厚生年金 14.7 万円
https://avenue-life.jp/blog/money/pension/
これは実際に支給されている金額なので、ひと昔前の今より高額の分から、現在支給が始まった分までの平均ということになる。今後の平均額は、非正規雇用の増加だけを見ても、おそらく下がっていくと思われるが、今回の話の筋とは逸れるので、そこには触れない。

仮に、現在 65 歳の人が 10 万円受け取ることができるとする。ここで、繰上げ請求して、60 歳で受け取るようにすると、30.0%減額される。一方、繰下げ請求して、70 歳から受け取ると 42.0%増額される。上記の記事の見出しに、「年金『繰り下げ受給』は本当に得か?ポイントは健康寿命」とあるのは、このことの損得についての考察だ。

ところで、金利7%はマジックナンバーと呼ばれているのをご存知だろうか? 元本を年7%複利で回すと、10 年でほぼ2倍となるからだ。
確認してみよう。

7万円X1.07=7万 4900 円
7万 4900 円X1.07=8万 0143 円
8万 0143 円X1.07=8万 5753 円
8万 5753 円X1.07=9万 1756 円
9万 1756 円X1.07=9万 8179 円
9万 8179 円X1.07=10 万 5052 円
10 万 5052 円X1.07=11 万 2406 円
11 万 2406 円X1.07=12 万 0274 円
12 万 0274 円X1.07=12 万 8693 円
12 万 8693 円X1.07=13 万 7702 円
13 万 7702 円X1.07=14 万 7341 円

確かに、約2倍(7万円X(1.07 の 10 乗)=14 万 7340 円)となる。
65 歳で 10 万円受け取ることが決まっている人が、繰上げ請求して 60 歳で受け取ると、30.0%減額され7万円となる。一方、繰下げ請求して 70 歳から受け取ると、42.0%増額され 14 万 2000 円になる。このことは、資金を7%で運用することが前提となっていることを意味する。

「年金『繰り下げ受給』は本当に得か?」は、こうしたことを勘案してみてもいい。労力をかけずに7%以上で運用できる人は、寿命や健康寿命を考えなくても、損なのだ。(自分で運用しても、年金行政を信じてもリスクはある)

私が、日本の年金行政は机上の空論にすがっているのではないかと疑う根拠の1つが、この7%という運用金利だ。運用金利にはリスクフリーと呼ばれるものがある。自国の短期国債の金利だ。財務省のデータでは、6月 10 日時点の1年国債の利回りは-0.18%となっている。これで、7万円の資金を 10 年間運用してみよう。7万円に 0.9982 を 10 回掛けてみると、6万 8750 円となる。


年金は長期資金なので、より利回りの高い 10 年国債のー0.12%ではどうか? 6万 9165万円になる。但し、債券の場合は必ず 100%(この場合は7万円)で償還されるので、マイナス利回りになるのは、7万円以上で購入することを意味する。


また、年金資金を侵食するのは国債のマイナス利回りだけではない。資金を受け取る時にインフレになっていれば、実質受け取り額が減少する。そこで、我々が消費する際の物価の上昇率も見てみる。

直近の数値、4月の全国消費者物価指数は前年比+0.9%だった。生鮮食料品を除くコア指数も+0.9%だった。インフレ率がプラスだと、将来の貨幣価値が下がるので、0.991 を掛けてみる。7万円が6万 3949 円となる。つまり、短期国債の運用で 1250 円やられ、インフレで 6051 円なくすことになる。日銀の狙い通りにインフレ率が2%になったらなどとは触れない。現時点の現実の数値がこれだ。

このことは、現実の数値では7万円が10年後には実質6万2699円になってしまうものを、7万円を受け取らずに運用して貰うと 10 年後には名目だが 14 万 2000 円になると、年金当局は約束しているのだ。主要国のリスクフリー金利で、最も高い米国ですら(6月 10 日時点の1年国債の利回りが)2.03%の時代に、利回り7%で運用してみせると。

「老後資産に 2000 万円が必要」というのは、利回り7%で計算しても、2000 万円足りないと言っているに等しい。私がどのコメントも読む気がしない理由はそこだ。


【考察】政府が援助するから大丈夫?

年金が大丈夫だとする人の根拠は、不足分は政府が援助するからだとされる。これが、年金行政は机上の空論だと思える理由の2つ目だ。

歴代の政権は、単年度の財政赤字、プライマリーバランスの黒字化を約束してきた。安倍政権も例に漏れず約束はしたが、達成時期を後へ後へと「繰下げ請求」している。ところが、これも冷静に現実の数値を判断すると、黒字化は不可能なのだ。

安倍政権は消費税率の引き上げを決定した。ところが、消費税を上げると、その見返りに所得税や法人税が減ることが分かっている。下のグラフで分かるのは、消費税を導入した平成元年度に法人税収がピークをつけ、2年後には所得税収がピークをつけたという事実だ。

そして、税率を5%に引き上げた9年度には名目GDPがピークをつけ、所得税収は未だにその時の水準さえ超えられないでいる。理由は、消費税が利益ではなく、売上にかける税金であるため、経済成長が止まるからだ。

参照:一般会計税収の推移
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.pdf
このグラフが教えてくれるのは、消費税は経済成長を阻害するので、所得税収、法人税収を減らすため、消費税収と引き換えに、総税収(棒グラフ)がかえって減ることになることだ。つまり、消費税を導入したために、これだけの金融政策やアベノミクスを行ってさえ、平成2年度の総税収 60.1 兆円を未だに超えられないでいるのだ。


平成 21 年度からは、歳出約 100 兆円時代が続いている。ところが、この 10 年間の税収は最少では 40 兆円に満たず、最大でも 60 兆円に届かない。当然、累積赤字や穴埋めのための公的債務は膨れ上がる一方だ。

参照:日本政府債務、深刻度は大戦末期並み
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO2842922022032018000000
参照:世界の政府総債務残高(対 GDP 比)ランキング
https://ecodb.net/ranking/imf_ggxwdg_ngdp.html
消費税は安定税収だと言われている。グラフを見ても分かるように、景気後退期でも安定して税収がある。このことは同時に、景気拡大期でもそれほど増えないことを意味している。

一方、所得税や法人税は(少なくとも平成元年の税率であれば)景気さえよければ、大きく上振れするのだ。このことは、40 兆円という赤字幅を埋めるには、消費税を撤廃し、経済成長を促すことで、所得税収、法人税収を増やすしかないことが分かる。一方、ここでの消費税率の引き上げは、政府は財政再建をもはや放棄したことを意味しないか?

仮に税収を上げずに財政再建を進め仮に税収を上げずに財政再建を進めるとすると、社会保障費を含めた歳出を 40 兆円規模で削るしかない。しかし、これは景気悪化、更なる税収減を生むので、黒字化には削減幅を
50 兆円、60 兆円と、歳出を半減以下にしなければならないことを意味する。破滅的なシナリオだ。

年金が大丈夫だとする人の根拠は、不足分は政府が援助するからだとされる。ところが実態はまったく逆で、財政赤字、公的債務が大き過ぎるために、社会保障費、年金が危ないのだ。

また、日本は債権国なので、公的債務が大きくても大丈夫という人がいるが、世界はそうは見ていない。例えば、日本国債の信用格付けは低い。

参照:格付け一覧 世界の主要国
https://lets-gold.net/sovereign_rating.php


平均値で、老後「2000 万円不足」ということの意味は深刻だ。もともと資産の少ない人、支給額の少ない人は、もっと不足するからだ。仮に、日本の対外資産や金融資産の大きさが役立つとすれば、富裕層から貧困層への大幅な所得移転が必要となる。

自助努力が問われる時代

私は、そんな革命的な政策よりは、消費税を撤廃し、経済成長を促すことの方が先決ではないかと思う。みんなで豊かになって、何が悪いのか?

「繰り下げ受給」の損得に関すると、労力をかけずに7%以上で運用できる人でない限り、「繰り下げ受給」が圧倒的に得だ。もっとも、早死にすると大損するとは言えるのだが。


その場合は、若い世代に寄付したと思えばいいのだ。死んだ後に使えないものを悔やむより、生きている人たちに使って貰えばいいではないか。
そう考えて、私自身はどっちに転んでも損はないと、繰下げ請求を選んだ。もっとも、将来大幅減額というような騙し討ちも、現実的なので覚悟の上だ。


また、どう見ても口先だけの政府を当てにするよりは、自分が生きているのだから、自助努力は不可欠だ。資金運用に関しての自助努力ならば、私でも皆様のお役に立てられると私は思っている。


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