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白川町商店街の魔女【4】

第4話 弟子としての最初の課題

「という訳で、最初の課題言うね。なりたい私、幸せな私、というワードからイメージする事を100個、明日までにノートに書いてきて」
「え、あの、幸せな私からイメージって、どういう事ですか?」
「具体的に言うとね、幸せな生活をしている自分は何をしてて、どんな生活をしてて、誰と一緒で、どのような気分で生きているのか。それを書いてきてほしいの。例えば私やったら。自然豊かな場所に家を持つ。周りに小さな畑をつくってなるべく自給自足する。周りの人達と、農作物や海の幸を物々交換する。行きたくなったら海外に旅に出る。恋人でも友達でもいいので、気の合う人と一緒に暮らす。カードやトリートメントで人の気持ちや体を楽にするサポートをする。そんな感じかな」
「え、いやでも、100個も思いつかないです……」
「できるできる、大丈夫。ほな、今日はここまでにしよっか。明日、また今位の時間に来てな」
「は、はい。わかりました。……ありがとうございました」

 タロットカードでみてもらう話はどうなったんだろ。そして、100個考えるとか、無理なんじゃないのかな、と思いながら。私は魔女のお店を後にした。

 これからどうしようか、と迷いながら商店街の細い路地を進むといくつか飲食店が並んでいた。

 あ、あそこ、魔女さんが言ってたお惣菜屋さんかな。

 昔ながらのお店の佇まいというか。決して小綺麗とは言えない店舗だけれど、手書きの『添加物不使用』等の案内に歴史を感じる。
 ショーケースには、魚の煮物、野菜の煮物、マカロニサラダや肝のしぐれ煮、ハンバーグ等が並んでいる。
 私は、色んなおかずが少しずつ入っているお弁当を買うことにした。

「おおきに、ありがとうね」
「……有難うございます」

 少し背が丸くなったおばあさんから、お釣りを手渡しで受け取り、商店街を後にした。
 商店街を1本東にある小さな川、白川沿いをブラブラと歩きながら、先程の魔女との会話を思い起こした。

 なんで私、魔女の弟子とかなったんだろ? そもそも、あの人はどういう人なの? って言うか、私もう魔女さんの事で頭がいっぱいになってる。

 ついさっき家を出たときは、憂鬱な気持ちだったのに、今はこの非日常な出会いを面白がっている自分がいる。

 なんだか、おかしくなって、笑ってしまった。

 私って、けっこう強いのかも。
 そう思うと、心がフワッと軽くなった。

 私は一目散で家へ帰り、美味しくお弁当を頂いた。
 それから、課題に取り組んだ。

 幸せな私というお題で100個考える。

 30個位まではわりとスラスラ出てきたけれど、50個を過ぎると、なかなか思いつかなくて。
 自分が何を求めているのか、具体的にどんな幸せな生活をしたいのか、何が私にとって幸せなのか。 
 案外自分の事だけどわかっていない、ってことがわかった。

 夜は、すごく眠くなり、ぐっすり眠った。こんなに深く眠れたのは久しぶりだ。

「海早紀《みさき》ちゃん、いらっしゃい。昨日言うた課題、やってきた?」

 翌日、魔女さんのお店に行くと、食い気味でそう言われた。
 私はノートをバッグから取り出した。

「こんにちは。はい、一応100個、書きました。なんか、似たような内容の事も多いかもしれませんが」
「ちゃんと書いたんや。偉いね。じゃあ、最初の5個、なんて書いたのか教えて」
「最初の5個は……。えっと、素敵な彼氏がいる、30歳までに結婚してる、子供は2人いる、仕事ができる人になってる、広い綺麗な家に住む、です」
「ほな、50から55個目は?」
「50から55個目、ですか? ……カフェをひらく、犬を飼う、落ち着いた大人になる、自分に自信が持てるようになる、一人旅で海外に行く、です」
「なるほどね。ほな、最後の10個は?」

 最後の10個は全然思いつかず、本当に無理やり書いたので、ちょっと言うのは恥ずかし気がした。

「最後の10個はですね……。色んな経験をして強い大人になってる、感情をコントロールできる、自分の選んだ道を後悔しない、冷静な思考と正しい目をもつ、言いたい事をがまんしない、褒められ上手、自分が大好き、親友と一緒に美味しいもの食べる、家族みんなが健康に暮らせてる、一人の時間を楽しむ、です」
「自分の選んだ道を後悔しない、褒められ上手、自分が大好き。ええやん。ところで海早紀みさきちゃん、今は言いたい事言えてないの? 言いたくてがまんしてることって、どんな事?」
「え……っっ……」

 思ってもみなかった質問に、何かが胸の奥で急にこみ上げてきた。

「……がまん、してること、ですか?」
「そう、幸せな自分、《《なりたい自分》》は言いたい事をがまんしないんやろ? それって、《《今》》はがまんしてるってことちゃう? 何をがまんして、本当は何を言いたいのか、聞きたいなって思って」
「……多分、本当は……」

 そう、本当はずっとがまんしてた……。
 私は、彼にずっと言ってやりたかったんだ……。

「……元彼に、言いたかったんです。その態度は、私に失礼なんじゃない、あんまりにもバカにしてるんじゃないの、って。メッセージを既読スルーばっかりしたり、話しかけても返事しなかったり……。そんな人だと思わなかった、私に会いたくないならそう言ってよ、無理して会ってもらわなくってもいいよ……。本当はそう言ってやりたかった……。でも、嫌われたくなくて、じゃあ別れようって言われるのが怖くて、そういう気持ちをずっとなかった事にして、胸のなかに押し込めてた……。……私、彼にしがみついてたんです……。惨めですよね、もう相手にされてないのわかってたのに、私……。言ってやればよかったのに、じゃあもう終わりにしよう、今までありがとう。さよならって、こっちから……」

 次から次へと、色んな感情がこみ上げてきて、私は自分で自分を止められなかった。
 干からびたと思ってたのに、涙がどんどん溢れてくる。

 気づくと私は、魔女さんの前で大泣きしていた。


~続く~

お読みいただき、おおきにです(^人^)
イラストはAIで生成したものを使っています。

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