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【71】お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~

71 第二章⑥ これって、昼ドラ的な展開になりますか?


 ゴージャス氏の言葉に、これまた王をはじめ、お偉い方が声にならない叫び声をあげた。いや、実際には声は聞こえてないけど。

(そりゃあ、シャムスヌール大帝国の王族様が、公爵令嬢とはいえ平民と既に結婚済みの女性に、離婚して自分と結婚しないかと誘うなんて、まあご都合主義な物書き志望サリューの妄想作品でもあり得ない設定よね)

 なんて事をコンマ1秒で考えた後、私はつい本能的に答えてしまった。

「この場を和まそうと高度な冗談をおっしゃるなんて、さすが偉大なシャムスヌール帝国のヌンジュラ様。お気遣い下さりありがとうございます。ですが、お陰様で私と夫は両親や兄が赤面するほどの超絶仲良し新婚夫婦なので、冗談でも別れるなんて考えられませんの。本当にわたくし達、魂レベルで互いを愛しているのです。もう、わたくし、ライガが大好きで大好きで大好き……」
「わ、わかった、わかった! ……あなた方が離れがたい夫婦だという事はよくわかった。先程の冗談は忘れてくれ」
「……かしこまりました。わたくしこそ、余計な事まで申し上げて失礼しました」

 とりあえず、相手に冗談だと言わせた事に、ホッとしたのだったけれど……。

「では、本題にはいろう」

 ゴージャス氏はニヤリとイヤな笑い方をした。

「ジェシカ嬢、いや、ジェシカ殿。せっかくあなたに会ったのだ。神鳥の予言の話をぜひ聞かせてくれないか。ここは人が多いな。ゆっくり静かな場所で話がしたい。私の部屋に行こう」
「……は、はい……?」
「お、お待ち下さい。ヌンジュラ様、さすがにお部屋へは……」
「何を慌てている? 私はただ、彼女と二人きりで話がしたいだけだ。まさか、私が不埒な行いをするとでも思っているのか? 心外だ」
「あ、いえ、その……」
「私は遠路はるばる婚姻を申し込みに御国にやって来たのに、既に相手は結婚していたのだぞ。その哀れな男に、話をさせる位の温情があってもよいのではないか? それとも、ヨーロピアン国は、私のような道化には、どうでもよい扱いをするような非情な国であったか?」

(ん~~、完全に脅しモードになってるわね。どうしたものかしら? お兄様も王も、予想外の事態に、完全に固まってるし)

「ヌンジュラ様、ではせめて、私の同席をお許し頂きたくお願い申し上げます」

 フランツ王子が、最後まで食い下がってくれた。
 本当に良い人だ。

「フランツ殿、心配には及ばぬ。私は静かに話がしたいだけだ。ゆえに、貴殿の同席は必要ない。これ以上、同じことを言わせないでくれ」

 そう言って立ち上がるゴージャス氏は、バックに黒いオーラを纏わせて、この場を支配した。
 誰も、何も言えない。他者の発言を拒否する、圧倒的な強い圧。

(……仕方ない。腹を括るか)

「かしこまりました、ヌンジュラ様。……お部屋へまいりましょう。正直、わたくしが神鳥の神託を受けたのは幼少期でしたので……。どこまでお役に立てるかわかりませんが、わたくし、精一杯存じておりますことをお話致します」

 にっこりと、無垢な感じに見えるよう、素直に微笑んだ。
 ゴージャス氏は、満足そうに頷いた。

「……ジェシカ……」

 すれ違い様に、真っ青な顔のアーシヤの手をギュッと握る。

「お兄様、私は大丈夫よ。ちょっと行ってくるわね」

 そう、小声で彼を励ました。また、倒れられたら大変だ。
 私はその場にいる全員からの、言葉にならない無力感を背中に感じながら、広間を後にした。

 私はゴージャス氏の滞在している来賓室へと招き入れられた。
 国賓扱いだから、王城で一番豪華な部屋だ。

 5つ星ホテルのスウィートのような、広々としたリビング兼執務室。来客用の高級感漂う応接セットと、その向こうには重厚かつ豪奢な執務用のデスクが設置されている。
 部屋の奥には、これまた丸太で押し入っても壊れなさそうなごつい扉が見える。寝室へ続いているのだろう。

 彼は、私をソファーに座らせ、自らお茶をいれてくれた。

「ヌンジュラ様、そのような……。わたしくしにお茶をいれさせて下さいませ」
「あなたは、私の客人なのだから、ただ座っていてくれればよい」

 私はディーカップに口をつけるフリをしながら、あらためてゴージャス氏を観察する。
 まずは、相手をよく見て、憶測でなく、事実を突き止めると事が大事よね。

 彼の衣服は本当にテンプレ王族的な華やかさだ。銀色の三つ編み長髪、鼻筋の通った、一見線の細い美形男性なのだが、先程の言動からして、意外と肝の据わった武闘派な臭いもする。
 他国に一人で乗り込んで、こうして好き勝手しているところをみると、剣の腕に覚えがあるのだろう。

 私に求婚するつもりできて、それが無理だとわかると、すぐに違う手を出してきた。
 行き当たりばったりではなく、計画は複数プラン立てるタイプなのだと思われる。

 また、既婚女性と密室で二人きりになるというのは、不貞行為を疑われる行為だ。勿論、この世界でもいわゆる道ならぬ恋はあるらしいけど、あくまでこっそりやるものだ。それを、大勢がいる前で望むなど、一般的にはあり得ない。
 あえて、その非常識な状況にもってくるとは、いったい目的は何なんだろうか?

 そして、不埒な行いはしないと明言していたけど、信用していいのだろうか? ここで、まさかの昼ドラ愛憎劇場みたく、『奥さん、好きなんだ』とか迫られることはないとは思うけれど。

 いつでも即座に動けるよう、用心しながら身構えていると、意外な言葉が聞こえた。

「先に、あなたには謝っておく。このような不名誉な状況に追いやったこと、申し訳なく思う」

 そう詫びるゴージャス氏の表情には、ほんの少しではあるが、済まなさそうな、本意ではないというような気持ちが浮かんでいた。

(何々、どういう意味? 本当は悪いと思っていながら、仕方なくやってるって事?)

 彼の意図がわからず、私は困惑する。
 もしかしたら、こちらが考えていたのと、全く違う事情がからんでいるのかもしれない。

 もっともっと、情報が必要だわ。
 私は、気合をいれて口角を上げながら、目の前の得体のしれない男をじっと見つめた。


~続く~

お読みいただき、おおきにです(^人^)
イラストはAIで生成したものを使っています。

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