見出し画像

証人尋問に向けて② (ヤジ排除国賠第9回期日報告)

これまでのあらすじ

2019年7月15日、札幌駅前で安倍首相の街頭演説中に批判のヤジを飛ばした個人が、北海道警によって強制排除された。事件から7ヶ月後、道警は排除の法的根拠を示したものの、ひどいこじつけで意味不明。排除された当事者二人は、道警を相手取った国家賠償請求訴訟で警察の責任を追及している。


次回の裁判期日は、7月16日(金) 11:30からとなりました。
また抽選が入る可能性がありますので、傍聴希望の方は11時までに札幌地裁にお越しください。

また、警察官等の尋問については9月9日、9月10日、9月13日に行うことが暫定で決まっています(時間未定)。よろしくお願いします。


証人の採否について


 初回から数えて通算9回目となるヤジ排除裁判期日が無事に終わりました。いま現在裁判で展開されているのは、今後の尋問に向けたやりとりで、それに向けて、原告・被告の双方から書面が提出されました。

 ヤジ排除裁判では、その日起きていた出来事に関して、原告であるヤジポイ側と、被告である道警側で主張が食い違っています。
 具体的には、道警側が「大声(ヤジ)を上げる者に対する周囲の反発から、犯罪行為が発生しそうな危険な状況だった」と主張し、こちらが「そのような差し迫った危険性がなかったにも関わらず、道警は予防的に介入することで、ヤジという言論を制限した」と主張しています。
 この主張の真偽を見るために、実際に現場にいた当事者・目撃者・警察官などを法廷に呼び、話を聞くということになっています。

 しかし、問題は誰を呼ぶのかということにあります(証人の採否)。道警側は、一人目の原告である大杉に関して警察官2人、そして二人目の原告である桃井に関して警察官2人の計4名を呼ぶと主張し、そのような申請書を提出しました。

 対するヤジポイ側では、「現場での対応について報告書を提出した警察官は20名以上もいるのに、4人ではあまりに少なすぎる」として、22名の証人を呼ぶように求め、申請書を提出しました。国賠訴訟では、そこに関わった公務員等による行為のうち一件(一人)でも違法であると認定されれば、賠償請求が認められます。そうであれば関係者(警察官)が一人も欠けてはいけない、というのが原告側の主張です。

 結局、証人の採否については確定しませんでしたので、次回以降の宿題ということになりました。

画像1

(報告集会の様子)

尋問の日取りについて


 また、尋問の日程については9/9、9/10の二日間があらかじめ設定されていましたが、今回はそれに加えて9/13という三日目の予定が追加されました。これは、「証人として出廷する警察官の人数が増えた場合に、日程が決まっていないと困るだろうから、仮押さえしておきたい」という原告側の希望によるものです。

 道警のヤフコメ弁護人こと齋藤隆広は、これについて「いや、別に今入れなくてもいいでしょう…」といつものヘラヘラした態度でお茶を濁そうとします。期日が多く押さえられてると、その分認められる証人が多くなるかもしれないと危惧したのかもしれません。広瀬孝裁判長も、まさにそのような意見を述べますが、ヤジポイ側代理人の神保弁護士らの押しに負けたのか、「では、証人の採否(何人呼ぶのか)とは全く切り離して日にちを確保しましょう」と慎重なコメント。ともかく、ヤジポイ側の要望が通ったと言えます。このやり取りは、横で見ていてもちょっと面白かったです。

傍聴は支援


 それにしても裁判というのは地味なものです。映画や漫画とは違い、そのほとんどは書面の交換が主だからです。法廷でのやり取りは、その確認なので短い場合は数分で終わることも珍しくありません。
 さらに、これまでの事実認定をめぐるやり取りとは異なり、「どの証人を呼ぶのか」という話は特に地味です。少なくとも「このような理由で排除したのだ」「いや、その主張はおかしい」というような議論に比べると、「結論だけ教えてよ…」と思われる方がいてもおかしくありません。

 それでも、裁判に継続して来てくれる方がいるのは、裁判に取り組む原告側としてはありがたいことです。傍聴人がいることで、道警や裁判所に対して、「見ているものがいるぞ」というアピールになりますし、また原告にとっても勇気づけられることです(誰も傍聴人がいなかったら寂しい…)。いわば「裁判所に駆けつけることが支援」なのです。ということで、今後ともよろしくお願いします。


画像3

(ヤジ排除裁判の傍聴案内。札幌地裁)


クマの出没とヤジ排除の共通点


 ここからは余談です。

 この裁判の日、札幌では市街地にクマが出現し、通行人などを負傷させるというとんでもない出来事がありました。札幌がいかに自然豊かで山から近いといっても、このような中心部にクマが進入してくるというのは、極めて異例のこと。札幌市民を震撼させるような出来事でした。

住宅街でクマに襲われ4人けが 札幌・東区 猟友会が駆除
北海道新聞(06/18 15:43 更新)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/556830


 この一見ヤジ排除となにも関係がないように見えるニュースをあえて取り上げるのは、二つの問題に意外な共通点があるからです。

 というのも、ヤジ排除もクマの駆除も、どちらもその法的根拠は「警察官職務執行法第4条」なのです。

 警察官職務執行法(警職法)4条は、身体や生命に差し迫った危険な事態がある場合に警察が避難や対処を指示するための法律です。警察が猟友会のハンターに指示して市街地のクマを射殺させるのは、この法律に基づくスタンダードな対応。

 この法律がクマやイノシシなどの猛獣に対して使われるというのは全国的な傾向で、警察庁もそうした運用の通達を出しています。

(警察庁通達)熊等が住宅街に出没した場合における警察官職務執行法第4条第1項を適用した対応について

 しかし、その適用について指示を出す警察官は「本当にこの場面で指示を出して良いのか」と判断にはかなり慎重になるといいます。市街地で猟銃を発射させるのだから当然で、警職法4条はそれだけ「取り扱い注意」の法律と言えます。


 以前、北海道議会で共産党の菊池葉子議員が、警職法4条に基づく措置の件数について道警に問いただしましたが、記録に残っているここ数年では、ほぼ全てがクマの駆除についてのものでした。

 そして、その唯一の例外がヤジ排除問題なのです。道警は、安倍晋三に批判的なヤジを飛ばした人間を排除した根拠としてこの法律を挙げます。いわく、「ヤジを飛ばした人物が周囲の自民党支持者に襲われかけていたので、ヤジを飛ばした人物を警察官が『強制避難』させたのだ」と。これが今回の裁判でも一貫して主張していることです。猛獣を駆除するためにしか使われることのない法律を、「市民を避難」させるために適用した、ということだそうです。

 さて、今見たような事情を踏まえた上で道警に聞きたいのは、「自民党支持者というのはクマ並みに危険なんでしょうか」ということです。即座に緊急避難させないと食い殺してくるような危険な存在なんでしょうか、と。これについては、ぜひとも自民党支持者の意見も聞いてみたいところです。

 以上、クマの出没事件を通して、あらためて道警の無理筋な主張に呆れる思いがしたので記録を兼ねて書き残しておこうと思った次第です。


(参考)警察官職務執行法 4条1項

警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼすおそれのある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受けるおそれのある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ又は自らその措置をとることができる。」

e-govより引用)


ヤジポイの会はカンパ(寄付)を集めております。いただいたカンパは、この「ヤジ排除」の問題に取り組む際に使わせていただきます。民主主義を守るための闘いを支える、あたたかいご支援お待ちしております。