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魅惑のペンタトニック・スケール

日本のポップス史に残るペンタトニック・スケール名曲選を編んでみたいと思います。

ペンタトニック・スケールって何?という方のために書くと、ペンタ=5、スケール=音階ですから(トニックとは何かということはとりあえず措いといて)5音で構成された音階です。

誰もが知ってる普通の音階(これをイオニアン・スケールと言います)はドレミファソラシの7音からできていて、そこからファとシを除いた5音からできているのが、ペンタトニックスケールです。

ファが第4音、シが第7音であることから「ヨナ抜き音階」などと呼ばれたりもします。

ここまで読んで「なんか難しい話になってきたぞ。音楽理論なんてほとんど分からんし」と思った方もあるかもしれませんが、大丈夫です。

私だって若い頃に我流でちょっとギター弾いてた程度で全然大したことなくて、今バリバリ音楽やってる人が読んだら嗤うんじゃないかなとビクビクしながら書いてるんですから(笑)

私が書こうとしているのは難しい理論の解説じゃないんです。

このペンタトニック・スケールはとても綺麗な音階です。もう十年以上触れてもいないギターでも、小学校時代の縦笛でも何でも良いですから、もしお手許に何か楽器があればドレミソラドと弾いてみてください。

ね?とても特徴的な旋律でしょ?

♪ドーーレミソラド/ドーーレミソラド…と4回続けて弾くと、それはザ・テンプテーションズの『マイ・ガール』の前奏になります。

同じように ♪ドーーーーーーーーーレミソーラドレミーミミミミー とこのヨナ抜き音階を駆け上がって行くと、北島三郎の『函館の女』の冒頭の ♪はーるばる来たぜ函館へー になります。

ま、『マイ・ガール』は 1964年の、『函館の女』は 1965年のヒット曲ですので、まだ生まれてないよって人もいるでしょうが、ま、YouTube かなんかで聴いてみてください(笑)

ちなみに『函館の女』はこの5音以外は全く使っていなくて、完全にペンタトニック・スケールだけで構成されたメロディになっています。

あと、甲斐バンドの『安奈』のサビの部分も、ペンタトニック以外の音はたった1回(♪お前の愛の灯はまだ燃えているかい の「て」のみ)しか使っていません。

ね? こうやって聴き比べると、似てるでしょ? 『マイ・ガール』の前奏と『安奈』のサビが。

そして、ペンタトニック・スケールって5音しかないから耳に親しみやすく覚えやすいだけじゃなくて、弾きやすいんですよね。

ギターを弾き始めたころ、とりあえずファとシを避けて(つまりペンタトニック・スケールで)適当に弾いているとそこそこまともなアドリブが弾ける、などと教えられたもんです。

さて、上に挙げた例からも分かるように、世の中にはメロディにこのペンタトニック・スケールを使った名曲というのがたくさんあるんですよ。大変特徴的な節回しになるので楽器ができない人でも聞けば「ああ、そういうメロディか」とピンと来るはずです。

何曲か並べると特徴も掴みやすいと思います。

私自身も一時このスケールの虜になって一生懸命曲作りしてみたりもしたのですが、残念ながら駄作揃いなので、ここでは日本ポップス史に残るペンタトニック・スケールの名曲をいくつか紹介したいと思います。

もちろん、ペンタトニック・スケールというのは全世界的なものであるし、ポップス/流行歌に特有のものでもなくて、例えばお正月によく聞くお琴の名曲『春の海』(宮城道雄:作曲)とか、あるいは『めだかの学校』みたいな童謡に使われていたりもします。

ここで取り上げたのはとりあえず第2次世界大戦以降の日本の歌謡曲/演歌/フォーク/ロック/ニュー・ミュージック/Jポップの中から私が選んだものです。

長調のものだけではなく短調のペンタトニックもあります。

全編を通じてペンタトニック・スケールだけで構成された曲もあれば、出だしをペンタトニック・スケールで始め、サビでは第4・第7音も加えて幅を広げた作品、あるいは逆に頭は7音階で始めておいてペンタトニックの特徴的なサビを持ってきたものもあります。

曲全体としては第4・第7音も結構使ってはいるんだけどメロディの一部に非常に巧くペンタトニック・スケールを取り込んだものも含めています。

なにはともあれ下のリストをご覧ください。『タイトル』(歌手)作曲者、発表年──という順で記載しています。魅惑のペンタトニック・スケールを思い浮かべて満喫していただければと思います。

なお、ご覧いただくとお分かりのように、やけに昭和の歌が多くて、平成以降はスカスカになっています(笑)。

それはもちろん私の歳のせいであって、古い歌ばかり聴いているということも大いにあるんですが、一方で 21世紀に入ってからはこんなにシンプルでキャッチーなメロディを持つヒット曲が却々ないというのも事実だと思うのです。

お読みいただいて、「この曲もそうだよ」というのがありましたら、コメント欄にでもお書きいただけると嬉しいです。私が知っている曲であれば、この文章に加筆させてもらうかもしれません。

  • 『ここに幸あり』(大津美子)飯田三郎、1956年

  • 『蘇州夜曲』(渡辺はま子)服部良一、1959年

  • 『上を向いて歩こう』(坂本九)中村八大、1961年

  • 『北帰行』(小林旭)宇田博、1961年

  • 『函館の女』(北島三郎)島津伸男、1965年

  • 『若者たち』(ザ・ブロードサイド・フォー)佐藤勝、1966年

  • 『骨まで愛して』(城卓矢)川内康範、1966年

  • 『ノー・ノー・ボーイ』(ザ・スパイダース)かまやつひろし、1966年

  • 『君こそわが命』(水原弘)猪俣公章、1967年

  • 『恋の季節』(ピンキーとキラーズ)いずみたく、1968年

  • 『グッド・ナイト・ベイビー』(キング・トーンズ)ひろまなみ、1968年

  • 『白いサンゴ礁』(ズーニーブー)村井邦彦、1969年

  • 『もう恋なのか』(にしきのあきら)浜口庫之助、1970年

  • 『X+Y=LOVE』(ちあきなおみ)鈴木淳、1970年

  • 『さらば涙と言おう』(森田健作)鈴木邦彦、1971年

  • 『さらば恋人』(堺正章)筒美京平、1971年

  • 『お世話になりました』(井上順之)筒美京平、1971年

  • 『潮風のメロディ』(南沙織)筒美京平、1971年

  • 『ともだち』(南沙織)筒美京平、1972年

  • 『純潔』(南沙織)筒美京平、1972年

  • 『芽ばえ』(麻丘めぐみ)筒美京平、1972年

  • 『私は忘れない』(岡崎友紀)筒美京平、1972年

  • 『ひとつぶの涙』(シモンズ)瀬尾一三、1972年

  • 『喝采』(ちあきなおみ)中村泰士、1972年

  • 『五番街のマリーへ』(ペドロ&カプリシャス)都倉俊一、1973年

  • 『グッド・バイ・マイ・ラブ』(アン・ルイス)平尾昌晃、1974年

  • 『はじめての出来事』(桜田淳子)森田公一、1974年

  • 『恋のインディアン人形』(リンリン・ランラン)筒美京平、1974年

  • 『岬めぐり』(山本コータローとウィークエンド)山本厚太郎、1974年

  • 『年下の男の子』(キャンディーズ)穂口雄右、1975年

  • 『乙女のワルツ』(伊藤咲子)三木たかし、1975年

  • 『心のこり』(細川たかし)中村泰士、1975年

  • 『となりの町のお嬢さん』(吉田拓郎)吉田拓郎、1975年

  • 『たえこMY LOVE』(吉田拓郎)吉田拓郎、1976年

  • 『セクシー・バス・ストップ』(浅野ゆう子)Jack Diamond(筒美京平の変名)、1976年

  • 『嫁に来ないか』(新沼謙治)川口真、1976年

  • 『未来』(岩崎宏美)筒美京平、1976年

  • 『乙女座宮』(山口百恵)宇崎竜童、1978年

  • 『雨に泣いてる…』(柳ジョージ&レイニーウッド)柳ジョージ、1978年

  • 『安奈』(甲斐バンド)甲斐よしひろ、1979年

  • 『ユー・メイ・ドリーム』(シーナ&ザ・ロケット)鮎川誠、1979年

  • 『風を感じて』(浜田省吾)浜田省吾、1979年

  • 『別れてそして』(渡辺真知子)渡辺真知子、1979年

  • 『ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ』(鹿取洋子)Pim Koopman、1980年

  • 『悪女』(中島みゆき)中島みゆき、1981年

  • 『北酒場』(細川たかし)中村泰士、1982年

  • 『ラヴ・イズ・オーヴァー』(欧陽菲菲)伊藤薫、1982年

  • 『情熱☆熱風🌙セレナーデ』(近藤真彦)筒美京平、1982年

  • 『矢切の渡し』(細川たかし)船村徹、1983年

  • 『そんなヒロシに騙されて』(高田みづえ)桑田佳祐、1983年

  • 『お久しぶりね』(小柳ルミ子)杉本眞人、1983年

  • 『君に、胸キュン』(Yellow Magic Orchestra) Yellow Magic Orchestra、1983年

  • 『渚のはいから人魚』(小泉今日子)馬飼野康二、1984年

  • 『ニュアンスしましょ』(香坂みゆき)EPO、1984年

  • 『涙の茉莉花LOVE』(河合その子)後藤次利、1985年

  • 『おどるポンポコリン』(B.B.クイーンズ)織田哲郎、1990年

  • 『壊れかけのRadio』(徳永英明)徳永英明、1990年

  • 『夏祭り』(JITTERIN' JINN)破矢ジンタ、1990年

  • 『春よ、来い』(松任谷由実)松任谷由実、1994年

  • 『フラワー』(Kinki Kids)HΛL、音妃、1999年

  • 『桜坂』(福山雅治)福山雅治、2000年

  • 『CRY NO MORE』(中島美嘉)Lensei、2006年

  • 『Flavor Of Life』(宇多田ヒカル)宇多田ヒカル、2007年

  • 『Baby Don't Cry』(安室奈美恵)Nao'ymt、2007年

  • 『恋するフォーチュンクッキー』(AKB48)伊藤心太郎、2014年

  • 『若い広場』(桑田佳祐)桑田佳祐、2017年

見てくださいよ、この作曲者の顔ぶれ。どうです? 昭和の日本のポップス界を代表する作曲家たちが皆一度はペンタトニック・スケールで名曲を書いていると言っても過言ではないでしょ?

演歌も結構含まれているところが面白いと思いませんか?

こうやって並べて検討すると、『セクシー・バス・ストップ』と『嫁に来ないか』が妙に似通ってたりするでしょ? そう言われれば『おどるポンポコリン』と『恋するフォーチュンクッキー』のサビは似通ってるでしょ?

え? それでも古すぎて分かりませんか?(笑)

(この文章は私が2007年6月に自分のホームページに書いた文章に、その後何度かにわたって手を入れたものです)


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