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友情と真実のあいだに。

30年来の友人曰く、私はよく嘘か真実か微妙絶妙なネタ話を持ってくるらしい。
確かに全て実在する話なのだが「またまた」「ホンマかいな!」など友人達に華麗に流され挙げ句の果てには「騙そうとしてるやろ!」と、ブロークンハート級の暴言を吐かれた事さえある。

一部をご紹介すると、

ロープ式巨大ジャングルジム。今でこそ全国にあるらしいが、25年ほど前に我が市の巨大公園に彗星の如く現れたスリリングな遊具。高さはビル2階建位は優にあろう。可愛らしい小猿と化した子供達、少年の心を忘れないお父さん達がこぞって登る。一度、老朽化によって立て直されており初代は更に高さがあった。

鉄砲注射。学校で集団予防接種を行なっていた時代に一時期、一部の地域で使用されていた。見た目は完全に銃。その本体に小瓶に入った薬液を装備し、トリガーを引くとコンプレッサーの力で薬を体内に注入。映画でよくある「バシュッ!」とサイレンサーを付けたような銃の音を繰り出し子供達の恐怖心を煽る。打たれるのではなく撃たれると錯覚しそうになる。

ドライブスルー宝くじ売り場。隣の市にあり、見通しの良い広い道の脇に支線が延びその途中に販売所があり購入後そのまま広い道に戻れるという、ピットイン、アウトの動線も見事なラインを描くF1サーキットのピットばりの店舗。ただひっそりとあるからか存在感は薄い。

等々。

ジャングルジムはそんな危険な代物、この平成の世にあるわけがないと認知度の低さが仇となり信じて貰えず、鉄砲注射は同じ県内であっても未だに同市出身以外で知っている人にお会いした事がない。余りにも否定され過ぎ、ネットが普及し確認するまで「あれは幻だったのか?」と自分を見失う程。
うっかり医師の前で話した際には「聞いたこともない」と鼻で笑われるという曰く付きのネタでもある。
宝くじ売り場に至っては通勤でいつもその道を通るという友人にさえ「あったかな?」と一蹴されていた。信じて頂ける率は一割にも満たないと思う。打率一割以下。プロ野球なら即刻解雇である。

「みんなが食いついてくれそう珍ネタ」としてあったこれらは、いつしか「困った時の一か八かネタ」と私のネタ帳(使用頻度:低)のカテゴリに移動していた。

数年後、私は子どもの幼稚園で有難いことにとても気の合う友人達が出来た。私の奇行や謎発言も菩薩並みに受け止めてくれる大きな器を持った友人達である。子供が小学生になり少し手が離れ「時間を作ってランチでも」と、更に色々な話を存分にする仲となった。

そんな折、ふと皆の会話が途切れた時に「このメンバーならイケちゃうんじゃナイ?」と、天使か悪魔か分からぬが私の耳元で囁いた。そして「本当なんやけどさ〜」とちょいちょい明るく前置きし、禁断の「一か八かネタ」をぶっ込んだ。

ロープ式ジャングルジムはその頃には認知度も高く完全にボツネタとはなっていたが、その他のネタに友人達は「嘘なんて思ってないよ!」と、大笑いをしながら喰らい付いてくれた。
それまでの私に放たれた疑いの眼差し、暴言の一覧表が一瞬で消え去る程の充実感だった。

有難うマイフレンズ。ホームラン級のアナタ達の笑顔プライスレス。

そして最初の出会いから10年以上、今も彼女達との関係は続いている。ここ数年はみんなバリバリ働き、仕事が忙しくなりランチ会の頻度は減ったが。

そんな貴重となったランチ会。久しぶりにフルメンバーで揃う事になり車を持つ友人が車を出してくれる事になった。場所を聞くと例のドライブスルー宝くじ売り場を通る。私は「実物の宝くじ売り場を見て貰えるチャンスだ」と企んだ。
きっと彼女達はまた大笑いをして弾ける笑顔を見せてくれるに違いないと確信した。想像しただけで私の心は踊った。

当日、駅前で集合し田舎道を走り例の見通しの良い広い道路に入る。そして私は「ほら、見て見て!左前方!いつか話したドライブスルー宝くじやで〜」と車内で高らかに声を上げた。
その直後、運転手以外の友人達は左前方を凝視し「いやっ!ホンマにあるやん!ナニコレ?!」「ええ??!」と笑顔どころか"信じられない!"という驚嘆の声を上げ、運転手の友人は「ち、ちょっと待って!!観たいけどよそ見できん!代わりに観て教えてぇー!」と叫んだ。

君らも信じてなかったんかーい。



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