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3期目になった習近平体制を理解するための必読書『戦狼中国の対日工作』

 中国社会を日本人が持ちがちな誤解を解き、実証的に伝えている筆者の本は興味深いものが多いです。本書はその中でも際立って価値が高いと思いました。多くの日本人にオススメしたいです。

 共産党独裁体制をしっかりと維持しながら、資本主義経済を導入して、経済大国となった中国は、自由主義や民主主義、表現の自由などが大きく制限されたまま、国際的に大きな影響力を持つようになりました。西洋型の民主主義や自由の考え方を前提とする日本人には理解しがたい国になっています。同時に、隣国で歴史的にも影響を受け、文化的な共通基盤も持ち、経済的に密室な関係がありますから、日本にとって中国を理解することは非常に重要です。

 経済的に大成功を収めたことで、中国国家は、自国メリットの最大化を露骨に目指す姿勢を見せるようになりました。その姿勢に対した感情的な嫌悪感を示す人も多いですが(僕も気分は悪いですが)、ただ嫌っているだけでは意味がありません。どういう背景があっておきているのか理解することが一番大切でしょう。
 本書は、丁寧な取材に基づき、具体事例を紹介しながら、著者の感覚や個人的な思いも隠さずに書いているので、非常に理解しやすいです。深い洞察無く、中国のプロパガンダに踊らせる日本人の例などは構造理解の助けになるでしょう。
 個人的に出逢う中国人には友情に厚く、信頼できる人も少なくありません。これからの日本人は信頼できる中国人の友人を持っているかどうかが重要になるだろうと思いますし、きちんと付き合っていきたいです。
 同時に、マクロ的な中国の捉え方は、著者の見解に共感、賛同します。 

七十歳の習近平は、今後すくなくとも十年は政権を握り続ける意志を持っているとされる。ただ、合理性を無視した部下たちの忠誠合戦と、西側社会に対する戦狼主義に彩られた硬直的な政権が、中国経済の低迷のなかでハードランディングに陥ることなく存続できるかは極めて不透明だ。

安田 峰俊. 戦狼中国の対日工作 (文春新書) (pp.159-160). Kindle 版.

 ロシアのウクライナ侵攻以来、不安が高まっている台湾有事も、習近平という指導者の存在が前提になっています。それは大げさにしても、僕ら日本人にとって迷惑なのは、巨大な官僚主義国家でもあるこの国での役人の忖度=「合理性を無視した部下たちの忠誠合戦」に巻き込まれることです。

──粗にして野だが卑でもある。だが、強大な爆発力を持つ。現代の戦狼中国はそうした存在である。ならば、日本は彼らとどのように向き合えばいいのか。

 著者は、こう問いかけ、以下の処方箋を示しています。

日本や西側世界が中国に対しておこなうべきは、彼らの攻勢をのらりくらりとかわしながら、しばらく我慢して待つことだろう。
戦狼中国の弱みは、持続可能性が薄い点にある。彼らの近年の体制は、習近平というキーピースが欠けるだけで、緊張が大幅にほぐれてしまう可能性がある。
往年のソ連や中国では、スターリンや毛沢東の死後に社会の空気が大きく変わったが、習近平の場合はこれらの「先輩」と比べても無理矢理に自己の権威を押し上げたきらいが強い。現在七十歳の彼の健康寿命が尽きるまで待たなくても、中国経済が継続的に悪化したり、往年のゼロコロナ政策のような失政を再びおこなったりしただけで、その権威は意外とあっさり崩れるように思えてならない。中国共産党の組織はそれでも強靱なはずだが、習近平体制のレジリエンス(回復性)は、おそらくさほど高くない。

安田 峰俊. 戦狼中国の対日工作 (文春新書) (p.179). Kindle 版.

 これからの日本の最大の価値である「文化力」は、漢字文化圏を祖にするものです。経済的には、製造におけるバリューチェーンでの中国外しの動きは広がっているようですが、距離的、文化的に近い巨大な消費市場を無視するビジネスプランは合理的ではありません。韓国、ASEAN,インドを含めたアジアの存在感が高まっている中、日本は「アジアの国」であるということをアドバンテージとして活かしていくべきでしょう。

 そんな状況の日本人にとって本書は有益です。一読をお薦めします。

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