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お薬のお話〜ワクチン接種で超過死亡は減ったのか?

こんばんわ!

ワクチンを推進する方から論文を紹介頂いたので、読み解いてみたいと思います。

世界各国で行われた「ワクチン接種者」と「ワクチン非接種者」で患者背景等を揃えた上で、新型コロナによる重症化や死亡、あるいは全死因死亡率を比較した研究」等では、いずれも重症化や死亡リスクは【ワクチン接種者の方が低い】ことが
示されている、というのです。

こちらの論文です。Vaccines (Basel).2023 Jul 28;11(8):1294.
Assessing the Influence of COVID-19 Vaccination Coverage on Excess Mortality across 178 Countries: A Cross-Sectional Study. 

(178カ国にわたった横断研究で超過死亡へのコロナワクチン接種の影響の評価)

よく読んだら超過死亡のデータは2020年から2021年の期間になります(WHOのwebsiteより得られたもの)。

また、ワクチン接種率に関してはJohns Hopkins UniversityのwebsiteのCoronavirus Resource Centerから得られたものを使用したとのこと。ワクチン接種率のデータは2023年3月10日まで含まれている。(※超過死亡のデータ期間とワクチン接種率のデータの期間にズレがあるのが気になります)

それから平均寿命も超過死亡に影響を与えるかもしれないということでWorld Bank websiteからデータを得たようです。

以下、178カ国の内訳。G7の国を赤丸で囲っています。

Oliver Mendoza-Canoら(2023)、Materials and Methodsより一部改変.

日本も含まれています。
日本で超過死亡が問題になっているのは、2022年からで、残念ながら今回紹介する論文では日本の2022年以降の超過死亡のデータは含まれていません。

日本では、高齢化により毎年1〜2万人ずつ超過死亡が増えていたのが理由は不明ですが2020年は減りました。
2021年の超過死亡は2019年までの推計値の範囲に戻るような形になっています。

2022年からが問題であり、10万人以上が超過死亡の推計値から外れています(増えています)。
なぜこうなったのか、政府には調査して頂きたいと思います。

元国会議員秘書の藤江成光さん作成のグラフを拝借

さて、論文に戻りまして、各国の超過死亡とワクチン接種率の相関は、ニ変量または重回帰分析で行ったようです。

その前に大事な散点図!


Oliver Mendoza-Canoら(2023), Fig.3より抜粋.

横軸;ワクチン接種率(コロナワクチンを少なくとも1回以上接種)
縦軸;超過死亡(10万人あたり)

ワクチン接種率中央値;64%(四分位範囲40〜82%)
超過死亡中央値;63人/10万人あたり(四分位範囲33〜131人/10万人あたり)

散点図からは、ワクチン接種率低い国の超過死亡が高くないんですよね。逆に、接種率が高い国の一部で、超過死亡が多く出ている。(一方、日本はこの時期2020年〜2021年は横ばいでしたね)

Oliver Mendoza-Canoら(2023), Table 1 改変.

この論文の結論としては、コロナワクチン接種率も平均寿命も二変量解析では超過死亡との相関は出なかったけど、多変量解析したら弱い相関があったとしているんです。

コロナワクチン接種率では、負の相関、つまり、ワクチン接種率が高い国で超過死亡は低いという相関(※因果関係ではない)があると。
平均寿命では、正の相関、つまり、平均寿命が高い国は超過死亡も多いという相関があると。

もちろん考察では、他の多くの要因が評価されていないこと、Spearman’s rhoでは弱い相関である(-0.2, 95%Cl -0.33 to -0.05, p=0.009)としています。

ここからは私の考察になるのですが、弱い相関であると言われているように、散点図では、ばらつきが目立ちます。

確かにワクチン接種率が40%〜100%のところだけを見れば、接種率が高くなるにつれて右下の方(超過死亡が少ない方向)に点が傾いているような傾向はありますが、接種率30%以下ではそのような傾向はありません。
それどころか、散点図のワクチン接種率を0〜40%と見ていくと、ワクチン接種率が高い国で超過死亡が多いという見方もできます。

また、多変量解析というのは、変数同士でも影響を及ぼすため、超過死亡に影響しそうな変数は思いつく限り組み込んで単変量解析してそこから多変量解析に持ち込んだほうが良いと思うのです。

どちらにしろ今回解析に使用された説明変数(超過死亡に影響すると想定されるファクター)が少なすぎて、、という感じもあります。

私だったら、ロックダウン政策の有無や、その国の経済発展度合い、医療提供体制、感染者数、民族間の差異などを組み込むと思いますがいかがでしょうか?

解析にかけて有意差が出たから論文にしました、というような論文に思えて、得られたデータや当時の背景の考察が少ないように思いました。

この論文を持って、「ワクチン接種者の方が死亡率が低い」とは言えないと思いますし、多変量解析でわかるのは因果関係ではなく相関関係であり、接種したから死亡が少ないというのは論理の展開が飛躍しているように思います。

まとめると、散点図からは一部相関がないというのと、説明変数が少ない(他の要因が無視できない)、相関があるとしても弱い相関であってワクチン接種が超過死亡を下げたと結論づけることはできないということです。

ぜひ、統計知ってるよ!という方のご意見をお聞きしたいです。


参考文献

  1. Oliver Mendoza-Cano et al. Assessing the Influence of COVID-19 Vaccination Coverage on Excess Mortality across 178 Countries: A Cross-Sectional Study. Vaccines (Basel).2023 Jul 28;11(8):1294.

  2. 杉本典夫.「医学・薬学・生命科学を学ぶ人のための多変量解析入門」. プレアデス出版.2009.

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