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④「3.25」とは。

「2020年、渦中」を録り終えた僕は、「2曲目に2020って入ってるから3曲目は3から始まる歌にしよう」とあまりに短絡的な考えのもと、本曲をレコーディング。

2017年の3月25日に祖父は亡くなった。

あまりにも突然のことで、悲しみよりも驚きが先にやってきた。
その日は母と二人でとある大規模なイベントに出掛ける予定で、有名人がたくさん出演する催しに僕たちは前日から心を躍らせていた。

当日、午前8時過ぎに祖母からの一報。「おじいちゃんが危ないみたい!病院で会おう」とのこと。
実は、以前にもこういうことが何度かあり、隣町の病院に向かう車中でも「おじいちゃん~今日は止めてや~。死ぬ死ぬ詐欺でありますように~」なんて笑い合っていた。
それぐらい身内の死は遠いことで、なんなら永遠に来ないぐらいに構えていたのである。
なのに、おじいちゃんの病室に着く前に祖母がカバンを小脇に抱えて小走りで駆けて来て、息を切らしながら「おじいちゃん死んだわ!」なんて言う。
全員、キョトンとした。
「え?マジで?」 
呆然と、ほぼ独り言みたいに呟く僕に対して祖母は「ほんま、ほんま」と日常会話ぐらいのノリで答えた。
姉が看護師ということもあり、その後の病院とのやり取り、葬儀場の手配は段取り良く進んだ。
唯一母だけが「お通夜、明日にはできひんよな?」と切羽詰まっていた。冷たい人間ではない。我が母は情に厚いタイプだ。
だが、この時ばかりは正気を失っていたのか、とんでもなく不謹慎なことを言った。

悲しいはずなのに、家族一同笑った。苦笑いと吹き出し笑いのあいだ。
慣れない喪服に袖を通し、お通夜が始まるまで一旦待機となった。

朝イチで死んだ祖父を葬儀場に移してから、実家の自室に戻る。

その日は、天晴な空模様だった。

陽当たりの良い自室のカーテンを開け、光を取り込む。花粉症のくせに、空気を入れ替えたくて少しだけ窓を開ける。
なーにもやることのない僕は、なんとなく電子ピアノの前に腰を下ろした。

「天気ええし、風も気持ちいいし、おじいちゃんに聴こえるかな?」割とリアリストな僕。しかし、何故だかこの時はロマンチストだった。

ゆっくりと鍵盤に両方の手を預ける。

思いのままに旋律を奏で、心ゆくまま演奏する。

あるフレーズが、おじいちゃんとの思い出を回想するみたいに感じて、何度も繰り返す。

「不器用やけど優しい人やったよな」

-うん、そうだね。

「長いこと寝たきりやったけど最後まで頑張ったな」

-ほんとに、すごいね。

「実感ないけど、俺泣くんかな。お通夜とか葬式」

-それは分からないな。

ピアノと秘密裏に会話する。時々、こんなことが起きる。
途中、指があらぬ方向に動く。

「あれ?なにこの展開」

-おじいちゃんとの思い出を振り返ろうよ
迷宮に深く、ふかく入り込むような旋律。

時間に置いてけぼりになったような感覚。

そして、光に向かって、指が着地する。
その途端、小さく開けた窓から突風が吹き込み、カーテンを膨らませた。

「あ、今おじいちゃんに届いたな?」

ピアノは返事をしてくれず、代わりにもとの旋律に戻った。
そして、3分にも満たない曲は完成した。

生き死にが表裏一体なことを突き付けられ続けたここ数年(2023年現在)。
偶然、「3」という数字だけで収録することにした「3.25」はこのアルバムにとって意味深いものになったと思う。

悼むこと、それでも生きていく者。

忘れられない記憶、それでも取り零してしまう思い出。抱えきれないほどの感情を抱えて、祖父のいない未来を生きている。

アルバムのなかでもっとも個人的なピース。

・・・・・・

山田喜大 1st album 『I Rise』
1.変化の兆し
2020、渦中
3.25
4.斜陽
5.ハロー・ストレンジャー
6.15
7.寸劇

2023年11月9日〜
各種サブスクリプションサービスにて配信中


『変化の兆し』Music Video

https://youtu.be/AUOXiSS40w8?si=OtEcpKXTrQGOByZk

Director 杉澤亜美


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