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【108回死んだ僕ら】を観て

【atto(6)scrowll】


読み:アトロクスクロールル
6人組映像制作ユニット
自主制作の短編映画、映像作品を配信している。

『108回死んだ僕ら』


監督・脚本・編集 浅井日向

登場人物
迎井夢言 平成最大のベストセラー作家

長男 阿川元(会社員)
長女 高梨逢瀬(ネイルサロン経営者)
次男 千崎縫(小説家/脚本家)
三男 佐倉周(小説家志望)
五男 阿川幸(大学生)

物語は、お葬式のシーンから始まる。

平成最大のベストセラー作家、迎井夢言は5人の妻たちと一緒に暮らしていた。
それぞれ母親がちがう兄妹たちは、ある事件のせいで離れて暮らすことになり、何年も会っていなかったのだが、父親の死をきっかけに再会する。

そして、再会からお葬式に向かうまでの時間を五人の視点から描かれる。

始まりは兄。よく煙草を吸っている。まるで地道に自殺行為をしているのかと思えるほど、喫煙する。
趣味はギャンブルらしい。そして離婚したという。
父親と、そのスキャンダラスな私生活に拒否反応を示した妻が出ていった、と。

二人目は長女。会社を経営していて、序盤では常識人らしい振る舞いが多く見える。しかし、明るい髪色と活発な声では隠せないほどの漠然とした生への絶望を感じるシーンが訪れる。生きることへの倦怠、逃れたいものから逃れきれないむなしさ。

次は次男。脚本家として成功している。自らの出自を皮肉りつつ、父親譲りの才能を受け継いで"しまっている"。弟からは羨望されている。そして、断ち切れない何かを燃料に、死に急いでいる。
途中、兄妹を巻き込んで絵を探し始める。
誰が書いた何の絵なのか。
それがこの物語の一つの肝になっている。

そして三男。金髪で奔放な小説家志望の大学生。不敵な笑みを浮かべ、悪ふざけをし、短気。何かと兄に食って掛かる。それが何故なのかは見ていれば分かる。痛いほど伝わってくる。
彼はある事件を引き起こすのだが、満たされない心の爆発を象徴しているような気がした。

やがて末っ子(五男)。彼はもっとも台詞が少ない。表情も乏しい。なのに、醸し出す雰囲気がこの物語全体を支配しているとさえ思えた。皆が一様に彼には優しい。それが何故なのか。僕の思い違いなのか。
いや、ちゃんと理由は用意されている。

五人の視点で描かれるシーンの最後で明るみになった真実。その後、前述した三男が引き起こすとある"事件"を機転として兄妹たちは心を開き始める。
探していた絵が見つかり、彼らはある種の解放を求めて、やがて団結する。
前向きに、悲しみから悲しみへと線をつなぐ。
それが切ない。苦しい。なのに温かい。

そして、冒頭に戻る。
お葬式を終え、ラストシーンにつながる。
スッキリした表情で、彼らははじめて兄妹になる。
僕は結末に圧倒された。
「えーーー!」と語彙力を持っていかれた。
心ごと。


と、いうわけで。
要約するには難易度高杉君な作品でしたが、一応自分なりにまとめてみました。
二度観て(一度目は素 / 二度目は字幕付き)、気付いたことや感動した点について書きます。

要約だけ読むと暗そうな話であるにもかかわらず、まず前提として美しい画面にうっとりしちゃう。
一人ひとりのシーンは確かにダークに映るけれど、兄妹揃ってのシーンは何故か明るい。
食卓、花火、懐中電灯。
意図せず演出しているのであれば、作り手がよほどこの作品の奥深くにまで潜水しているということ。

また、登場人物たちは言葉足らずで不器用に見える。なのにみんな憎めない。むしろ愛せる。
自分の欠点を突き付けられ反抗しても、想いを伝えきれなくても、真実に接し慟哭しようとも、「人間らしさ」が溢れ出し、魅力に拍車が掛かる。
その魅力が作中の父親譲りなのだとすれば、それはそれで切ないのだけれど。

非現実的なストーリーなのに、描写が細かくて感情移入できることも特徴だった。
カレーが完成するまでの過程で時間軸の動きを見せたり、食事中の「お茶とって」という台詞で日常が描かれたり、葬儀場で仕事の電話をしていたり。

ネタバレなしで書くのってこんなに難しいのね。
映画ライターの方たち尊敬。笑

続けます。

そもそもタイトル「108回死んだ僕ら」。
文字通り死生感が滲み出ますよね。
あと、タイトルの意味気になりますよね。
僕なりに解釈したけれど、それこそネタバレになるので書かないでおきます。
一度目観たときには「え、煩悩の数?ちゃうか?え?なんなん俺。読解力無さすぎ君なん?」とムズムズした感情に苛まれましたが、二度目を観たあとは「ははーん、なるほどにゃ」としたり顔でした。

大体考察目的で作ってない作品を勝手に邪推するのって、隣の家から漏れてくる生活音だけで隣人の日常を推理するような厚かましさ感じちゃうから苦手。
しかし、同時に「好きな人のことはなんでも知りたい!」的な観念も渦巻くから困る。
人間って矛盾に満ちてる。
あ、矛盾。
そうそう、矛盾!

父親の存在を起点として、彼らは全員自己矛盾を抱えている。言い換えれば"同志"なはずの兄妹なのに、分かり合えない時間が続く。
登場人物のところに「 ? 」と書いたけれど、あれは入力ミスじゃないです。
父親とは別にもう一人登場人物がいます。
僕はその人物にまつわる事情がいちばん堪えた。
満腹になるまで食べた後、こたつに寝転がってたら突然胃を思い切り踏まれた時ぐらい「ウググッ」ってなった。

最後に彼らが選ぶ未来は、世間的には賛否両論案件よなあ〜と思うけど、あまりにも完璧に物語の世界観が仕上がっているから、異論を唱える余地がない。
彼らの生活や人間性に浸り、穏やかな空気と切迫する心情に右往左往し、「ウググッ」となり、やがてキラキラしている新年の澄み切った空のもと、僕らはこの映画を観終わることになるだろう。

ちなみにこの作品を制作した"アトロク"の皆さんは他にも様々な物語を拵えていらっしゃいます。
別作品で同じ役者さんが出演しているけれど、気付かないぐらい役に馴染んでいる。
ついこの間は「死神が憑いてもう11年になる」という作品を拝見したけど、見終わった後にようやく「えー!幸?!えー!死神は?えー!」と、一人でニヤニヤしていた。

たとえば舞台でも小説でも発表する術はあるのに、どうして映像作品なのか。
それは観始めてすぐに解った。
言葉ではなく微妙な表情で見せる、風景や家屋の佇まいで生活をあぶり出す、幻想的なシーンをコンタクトを付けていない兄の目線で"ぼやけて"見せる等。
映画という道具を使って表現したのではなく、映画にしか表現できない世界を作っていたのだった。

ちょっと待って、note史上一番長文。
オタク全開。絶対引かれる。やばたにえん。

とにもかくにも、こんな殺伐とした世界に於いて、作品作りに情熱を燃やし、心血を注いでいる若者達がいるというだけで、現世も悪くないなって思えた。
(観ている間はそんな悠長なこと考える暇ない笑)

素敵な作品を作ってくれてありがとう、と云いたいし次回作楽しみです!

皆さま、是非ご覧くださいね!

今週のオマケ(来週あるか知らんけど笑)

序盤の三男に注目。
二回目観て気付いた。
あ!あ!あ!ってなるからよ。


無許可でURLを貼る尖った手口(笑)

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