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創作 帰り道の風景

見ろよ。病院が見えてきたぜ。夜になっても明かりが点いてるからよく分かる。ここらへんでは一番大きな施設だから。入院してる病人がわんさかいる。もう夕飯は終わった頃かな。きっと一段落付いた感じ。あー腹減ってきたな。わかってるよ。急ごう。

慣れた手つきでハンドルを操作し、夜の闇に表れてきた信号を左に曲がる。速度は巡航速度で早くもなく遅くもなく、軽口をたたくらいの余裕があった。信号は夕方から夜になる時間で、赤と青のランプがあざやかに光って見える。歩いている人は昼間もいないが、夜になればなおさらだ。車は連なって進んでいく。赤いテールランプが目印だ。

いま病院の近くを過ぎたところだ。市が運営している病院でこの地域では最大の施設だ。俺も原因不明の熱が出続けて、2週間ほど入院したことがある。しばらくすると熱も下がり退院することができた。薬も抗生剤が出ただけで、結局何で良くなったのかわからずじまいだった。医師に下がりどきだったのでしょうと、わかったようなわからないような説明を受けた。

入院してる間は退屈でしょうがない。変わったことが起きるのは見舞いに人が来るくらいで、そのほかは変わることなどない。ベッドの上が自分の私的空間で、住所はベッドの上という感じだった。逆に言えば住むとはそれだけで済んでしまうものなのかもしれない。さんざん物をため込んでも、こうなってしまっては使い道もない。

さらに道路を進んでいくとコンビニの明かりが見えてくる。闇の中をひときわ明るい照明が、闇の中に浮かび上がってくる。明るければ目立つからついつい寄っていきたくなる。ロードサイドに浮かぶ誘蛾灯だ。

違うコンビニがあらわれては消える。ガソリンスタンドの明かりもある。自然とリッターいくらか確認してしまう。ガソリンもずいぶん高くなった。次にあらわれてくるのはドラッグストアーの明かりだ。まだまだ宵の口これから来る客もあるのだろう。外食チェーンの明かりも見える。すでに車がかなり止まっている。次々に現れる電気で発光する看板は見慣れたものばかり。帰ってきたという思いを強くする。

ーどう思った。
ー見てるだけじゃわからいね。やっぱり働いてみないとホントのところは見えない。
ーそんな事を言うと思ったよ。楽しかったとか。そう無難にいっておけば良いんだよ。
ーだってわからないものはわからない。
ーあー、明日からまた同じ毎日が始まるんだ。
ー俺は同じなのは好きだよ。今のこの風景だって嫌いじゃない。どこにでもあるロードサイドの風景だけど、帰ってきたって感じがする。闇の中にピカピカ光るものがあるのはきれいだよ。
ーそんなもんかね。
ーそんなもんだ。





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