スクリーンショット_2018-09-29_19

ふたりぼっち

 私の名前は玉江。友達からはたまちゃんと呼ばれている。私の通っている小学校は静岡県A市にあった。潮のかおりがするこの街は、漁業がとても盛んで港には船がいくつも停泊している。海辺に行くと貝殻が転がっている。綺麗な貝殻を集めて水道水で消毒して、家に持ち帰り並べて遊ぶくらいしか楽しいことがこの街には娯楽がなかった。

 通っている小学校は、一つのクラスに30人ほど生徒がいた。特別な事なんて起きない。このままこの街で進学して働いて暮らしていくものだと思っていた。

 あれは小学六年の二学期だった。朝のホームルームで生徒たちがさわいでいると、先生が入ってきてシンとした。先生の後ろには、さくら色の頭巾を被った女の子がいた。女の子は、両親の仕事の都合で転校して来たと話していた。頭巾は病気のため、外せないが皆仲良くするようにと、先生は釘をさしていた。朝のホームルームが終わるとみんなで、頭巾の女の子のまわりに集まった。

「ねえ、何処からきたの?」

「なんでそんな頭巾をしている?」

「お父さんはどんな仕事をしているの?」

 いろんな質問が殺到して、彼女は一躍教室の中で時の人となった。クラス中の注目が彼女に一気に集まった。総勢30人ちかく瞳が彼女の動きを常に監視していた。

彼女はふつうの女の子と同じように勉強したり、体育の授業で走ったりしていたが一つだけ出来ない事があった。

それは給食が一切食べられなかった。

 偏食なのか知らないが、彼女は給食を完食する事はなかった。給食の時間がおわっても、一人で給食をずっと食べていた。それを見ていた、クラスの意地の悪い男子たちが彼女が給食を食べている間、うしろから周りこみ頭巾を奪ってからかっていた。頭巾を取られた女の子はその場にうずくまり、わんわん泣いていた。彼女の後頭部からは、もわもわと白い煙が吹き出している。教室中が騒然とした。叫んでいる子もいる。私は急いで、男子達から頭巾を取り上げ彼女の頭に巻いて上げた。頭巾を彼女の頭に巻くと白い煙はぴたりと止まった。

 その日から、彼女はいないものように扱われた。教室ではみな、彼女に聞こえるように化物と蔑んでいた。転校初日の時のように、喋りかける生徒はいなくなった。どんどん孤立していく彼女をみていたたまれない気持ちになってきた。先生に相談しても、差別はやめましょう。とありきたりな事しか言ってくれなかった。どうしよう。ドス黒いものに支配されそうだ。気持ちが悪い。反吐が出そうだ。私は、傷ついた彼女のために何か力になりたかった。

 そして、一緒に行動することを考えた。朝の登校やトイレ、昼休み。移動教室。放課後。常にふたりで一緒に過ごした。彼女と一緒にいるようになり、いつも仲良くしてくれた友達とは疎遠になった。でも、彼女が笑ってくれるなら私はそんな事どうでも良かった。

 学校が終わってから海辺に行き、うみの中に入り一緒に貝殻を拾う遊びをしていると、無数の水クラゲに囲まれていた。怖い。体中刺されて、ぶくぶくと醜い水死体になるのだ。私はこの世の終わりだと悟った。すると、彼女は頭の頭巾を脱ぎ捨てた。頭から白い煙が大量に吹き出し、わたし達の周りを囲んでいた水クラゲは何処かに消えてしまった。

「すごいね」

「…ふたりだけの秘密だよ」

私と彼女は抱き合って、いつまでもわらっていた。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?