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降り落ちる雨は、黄金色#5

佳代は鞄から一冊の本を取り出した。

超訳ニーチェ。

「えっ誰?」 

「偉人。この本によると、苦悩を越えた人間は超人になれるんだって」

「超人て何?」

「人でない存在」

 佳代はニーチェを信仰している。彼女の哲学は理解できないが、とても尊い。私も、ニーチェの本を斜め読みした事があるが、難しい単語が多くて読む気をなくした。ページをめくると気になる単語を見つけた。 

虚無主義。ニヒリズム。  

 私のことだ。世界に絶望し流される様に生きているくせに、同じ様なクラスメイトを心の中で軽蔑し見下している。見下すことによって、崩れそうなプライドを支えてきた。お前らとはちがう。私は特別なんだ。 何も作れない。何者にもなれないくせに、他の人間とは違うと言う自意識が肥大していき、 私の中の怪物がどんどんと育っていく。

私は傲慢だ。

 ニーチェの本を佳代に借りてから、私達はお互いを深く理解する為に自分の好きなものを貸しあった。私は闇が深い昭和文学の私小説を何冊か佳代に貸した。「暗い」と笑われた。

「太宰どうだった?」

「死にたくなるね」

「太宰の書く人間て可笑しくね」

「...そうかな」

 私たちは、まったく趣味があわない。佳代は笑うことが好きだ。少年ジャンプのギャグ漫画。年末特番のダウンタウンの笑ってはいけないシリーズ。日曜日の笑点。佳代は病気のせいで家に居る事が多い。お笑いは気分を高揚させ、精神を健やかにしてくれると教えてくれた。それに薬と違い依存性がなくコストパフォーマンスがかからない。

 彼女はカラフルな錠剤をキティちゃんの ケースに常備している。その錠剤を見た時に 私は無神経にも「綺麗」と言ってしまった。

つづく

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