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楽しい観察調査 アンケートやインタビューにない学びについて -現場感-


過去のシリーズはこちらからどうぞ。

さて、突然ですがマーケティングやリサーチをされている方に質問です。

現場の人たちとの関係は良好でしょうか?

「あいつらは現場の苦労をわかっていない。机上の空論を語るだけ」

現場を見ずに、統計データの数字だけ見て、何の役にも立たないが上のウケだけは良いレポートをまとめて仕事をした気になっている。
業績が上がったのは、さもそのおかげであるように取り沙汰される。そんな「仕事もどき」の尻拭いは、全部現場がやっているのに。

残念ながら、現場の人たちからこんなふうに思われてしまうケースも耳にします。
(実際にそうであるマーケターやリサーチャーもいますが…)

これは当然、良くありません。単なる感情的な軋轢にとどまらず、必ず意思決定にマイナスの影響を及ぼすからです。
それは顧客にマイナスの価値を発揮する、という意味でもあります。

この状況をなんとか改善したい
そんなときこそ、観察調査の出番です。


観察調査により、現場の人たちとの関係を劇的に改善し、現場の知恵を意思決定に反映させていくことができます。
加えて、それはあなたに「現場感」という、何ものにも代え難い能力を身につけさせてくれます。

では、具体的にどのような取り組みをすればよいか。
現場の人たちとの関係が良好になり、自分が現場感を身につけるプロセスはどういうものか。

今回は、そのお話をしていきます。

観察調査は、現場に出る調査

顧客の観察をするためには、現場に出なければなりません。
このごく当たり前のことは、実はとても重い意味を持ちます。

こう言っては何ですが、アンケートやインタビューは現場に出なくても成立する調査ですし、現場の知見がなくてもそれっぽいカッコいいことは言えます(薄っぺらい内容はすぐに見抜かれますが)。

しかし、観察調査をやるなら、絶対に現場に出なければなりません。

現場に出るということは、あなた、つまりリサーチャーの姿が、現場で働いている人たちの目に入るということです。
これが現場の人たちの感情的な側面に及ぼす影響は、想像以上に大きい。
それをまず自覚する必要があります。

あなたが現場側の立場になったときのことを想像してみましょう。
「どうせ現場のことなんかわかってくれない」と思っていた人が、現場に足繁く通っている。どうやら現場の思いを汲もうとしてくれているようだ。

そんな人に対する感情がプラスの方向に変化することは、納得いただけると思います。

とにかく、現場に出ましょう。

一回や二回ちょろっと出るのではなく、継続的に出る。
ポイントとなる場所、ポイントとなる時間には何回でも出る。
深夜だろうが早朝だろうが、地理的に近くだろうが遠くだろうが、とにかく出る。

「ポイントとなる場所/時間を教えてください」と、現場の人たちとコミュニケートできれば、なお良いですね。現場の勘所を知ろうとしている、と思ってもらえるかもしれません。

「あの人、いつもいるよね」

現場の人たちからこんな声が漏れ始めらたら、私は勝ちだと思っていました。現場の懐に入り始めることができたサインだと思っています。

観察調査は、現場の人たちと同じものを観る調査

現場に出るということは、現場の人たちと同じものを観るということです。

これも当たり前のことですが、アンケートやインタビューのローデータは、基本的にリサーチャーしか見ません。
報告は集計表や報告書など、整形したもので行いますよね。

そしてそのローデータも、リサーチ独特のメソッドで取得したものです。
どんなにフェアな手法で収集したとしても、必ずしもフェアとは認識されません。むしろ、あやしい手法と思われることもあります。分析以前にデータソース自体があやしいと認識されうるのです。

まして、近年ではアンケートやインタビューは悪用されうるもの、あやしいリサーチはそこかしこにあるもの…という認識も、そこそこ一般的になってきたと思います(完全に私の感覚ですが)。

アンケートやインタビューなんて、いくらでも操作できるよね、とか。

一方、観察調査は観察対象そのものがローデータです。

リサーチャーも現場の人たちも、同じローデータを見ることになります。
そして、そのローデータはまさに目の前で起きていることです。リサーチャーが何か特殊なことをして集めたものではありません。

そういう意味では、観察調査は現場の人たちから見ても、データソースの透明性が非常に高いと言えるのかもしれません。

つまり、納得感を持ちやすいのです。

観察調査は、現場理解が身に付く調査

その認識をベースに、リサーチャーはリサーチャーとしての特殊技能を活かして分析に取り組みましょう。

分析プロセスには、絶対に現場の人たちを巻き込むべきです。
分析が終わってからアウトプットを共有するのではなく、分析そのものを協同で行いましょう。

現場の人たちが発揮する、現場解釈の厚みや質の高さは圧倒的です。
分析を協同で行うことで、そのような「現場の知恵」を全身に浴びることができます。
これは、リサーチャーの事業解像度や顧客解像度を一気に高めてくれるものです。

一方でリサーチャーは、現場で起きていることを解釈するための引き出しを、現場の人たちとは別に持っています。
そう、アンケートやインタビューで培ってきたものです。

それを駆使する。
目の前で起きていることと、アンケートやインタビューで得た知見を結びつけていく。

そうすることで、目の前で起きていることの新たな意味を掘り起こせるようになります。

それは現場の人たちがまったく気づいていなかったことかもしれませんし、なんとなく気づいてはいたけれど、言語化されていなかったことかもしれません。

リサーチャーがそんなことを現場の人たちに投げかけることで、その人たちが「あっ!」と気づく。
現場の人から投げ返されたものを、またリサーチャーが咀嚼する。
こんな繰り返しも起きてきます。

現場の知見を十二分に吸収しながら、リサーチャーとしての知見でそれを磨き、頑強にしていく。それをさらに現場の人たちが…という繰り返し。

このプロセスを経ると、現場の人たちとリサーチャーとの間で忌憚のない知見の交換がなされ、相互に耳の痛い話もできるようになります。
それがまた双方の知見を磨いていく。

結果、あなたの分析は現場に根差した、現場理解に基づいたものになっていきます。
その分析に対して、現場の人たちからの支持が厚くなることは言うまでもありません。

観察調査は、現場と一緒に進化する調査

ここまで来ると、現場の人たちとの関係性の進化とリサーチの進化が、相互に影響しながら同時に起こるようになってきます。

現場の人たちが何となく気になっていることを「そういえば…」と相談してくるようになる。

この手の相談が重要でなかったケースを知りません。

これを起点に、新たにリサーチが組成されます。アンケートやインタビューになる場合もありますが、それまでと異なり、現場の人たちにしっかり受容されるものになります。

それはもちろん、培ってきた「現場の視点」が、分析結果に充分に反映されているからでもあります。

現場オペレーションに負荷がかかるリサーチができるようになる。

「こういうデータがあればもっと効果的な意思決定ができるのに!お客様はもちろん、現場の支援にも確実になるのに!」
「でも、そのデータを取るためのリサーチは、現場に負荷がかかるからできない。現場の人たちを説得できない…!」

そんな状態は、リサーチャーあるあるではないかと思います。

しかし、この段階まで到達しますと、そのような負荷のかかるリサーチの実施を前向きに検討してくれるようになっています。
ちなみに、前述の「現場の人たちが何となく気になっていること」を明らかにしようとすると、現場に負荷がかかるリサーチ企画になることも多いのです。

他の企画部門の無茶な要求から、現場の人たちを守れるようになる。

現場部門は企画部門から、現場感のない要求に晒されることがあります。

リサーチャーがそれに対し「現場理解」と「リサーチャーとしての言語化能力」をあわせて発揮し、合理性のない要求を退けたり、現実的なものに落とし込んだりする機会を持つことができます。
いわば、庇うわけですね。

これに成功すると、現場の人たちから守護神のような扱いを受けられます。
気持ちいいですよ(笑)。

当然、リサーチャーへの信頼感は増し、今まで述べてきたような関係性の進化、リサーチの進化を加速することになります。

結果、どうなる?

こうして「現場理解」を身につけますと、リサーチに血が通う感覚を持てるようになります。

例えば、アンケート調査で満足度の上がり下がりや、インタビュー調査で「満足とはどういうことか?」の解を得たとして、それが目の前で起きているどんな現象で、どう引き起こされているかがわかります。

つまり顧客や事業の解像度が上がり、その上がった解像度の詳細にガッチリハマるようなリサーチを企画したり、分析できるようになるのです。

私個人としては、設問作成のセンスや、集計・分析時の設問間クロス集計のセンスなどに如実に表れる感覚があります。

また、ある問題に対し「こうすればいいのではないか?」という解決策、それも精度の高いものが直観的に思い浮かぶようになります。

「こういうリサーチをすれば良い」ではなく「こういう対応を現場ですれば解決する」という案が浮かぶ、という意味です。

私はこの「現場の問題について精度の高い解が直観的に思い浮かぶようになること」を現場感と呼ぶと思っています。

通常、リサーチはテーマの構造を可視化し、そこから解決策を演繹的に導き出すものと思います。
しかし現場感を身につけることで、解決策から逆算することもできるようになるのです。

これは「具体と抽象」の行き来のレベルが上がるということです。
リサーチャーの洞察力を大いに高め、より適切な意思決定支援につながるものになります。

まとめ

観察調査は、リサーチャーが現場に出て、現場の人たちと同じものを観ることを皮切りに、現場理解を身につけていく調査です。

それが現場の人たちとの関係性を進化させ、リサーチの進化と相互に影響し合います。

その過程で、リサーチャーは「現場感」を手に入れることができ、高い顧客解像度と事業解像度に基づいたリサーチ・分析ができるようになります。

当然、これは意思決定の質を上げるものです。

観察調査、やらない手はありません。

ぜひチャレンジしてみてください。モチベーションも上がります。

次回

次回は観察調査を語るときには絶対に外せない偉人、フローレンス・ナイチンゲールの著書「看護覚え書き」を少し紹介します。

それで「楽しい観察調査」は一区切りとなります。
楽しみにしていてくださいね。


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