見出し画像

がんばれ冷蔵庫(2023.07.05)

今のこの家に越してきて新しい冷蔵庫を買った。

そしてこの冷蔵庫には優秀な製氷機がついていて、タンクに水を入れて製氷をオンにしておけば、自動的に製氷してくれる。皆が寝静まった深夜にガラガラガラーッと大きな音を立てて氷が出来ても私はうるさいとは思わない。逆に「仕事してるな」と嬉しくなる。そして翌朝氷がたくさん出来ているのを見てほくそ笑むのだ。

さらにこの冷蔵庫には「一気製氷」なるモードがあり、「製氷」モードからさらにもう一回タッチパネルを押して「一気製氷」モードにしておけば、いつもより高速で製氷してくれる。多分冷蔵庫には多少大きな負荷がかかっているのだろうが、皆が大量に氷を消費するので、我が家はだいたいいつもこの「一気製氷」モードで冷蔵庫は稼働している。

たまに一気製氷モードにし忘れていると妻からチクッと言われる。特に朝、水筒に入れる氷が足りない場合は軽くキレられる。なので深夜、真っ暗なキッチンで冷蔵庫のタッチパネルに「一気製氷」という表示が灯っていない場合、私は慌てて製氷タンクに水が入っているかどうかを確認し、その上で一気製氷モードをオンにする。

そんな、我が家にはなくてはならない冷蔵庫とそれに付随する製氷機だが、さっきふと、この家から突然人がいなくなったらどうなるだろうかと想像した。

しばらくは良いだろうが、そのうち電気の供給が止まり、冷蔵庫は機能を停止する。冷蔵庫は製氷どころではなくなり、氷は全部溶けて冷蔵庫の中の食物は全て腐って食べられなくなってしまう。さらに時間が経過するとあらゆる水分は蒸発してしまって、製氷タンクやアイスボックスはすっかり乾き、腐った野菜や肉は干からびて黒い灰のようになってしまう(以前どこかで長らく放置された冷蔵庫の中身を見た時、確かそんなふうになってしまっていた)。誰にも気に留められることなく、長い時間放置された冷蔵庫のなんと悲しい事か。

かつてその内側にたくさんの瑞々しい食物をぱんぱんに詰め込み、アイスボックスから子供が氷をつまみ食いしていた頃、冷蔵庫は生き生きとして働いていた。皆が眠ってしまってからも一生懸命氷を作り、食べ物が痛まないように一定の温度に保ち続けていた。しかし冷蔵庫は幸福だった。冷蔵庫は皆が何度もその扉を開けて中を覗き込むのを楽しみにしていたに違いない。

そういうふうに考えると、真夜中に扉を開けると明るい光で歓迎してくれる冷蔵庫は笑っているように思えてくる。真夜中の製氷によるガラガラガラーッは歓喜の声のようだ。

愛しい冷蔵庫。「全然容量足りねーじゃねぇか。もっと大きなのにしておけば良かった!」とか言ってごめんなさい。大事に使うからね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?