バーの店主に恋バナをする

誰かに会いたくて、
よく行くバーに足が向いた。

ここは、おしゃべり好きの20代の店主が
友人のように常連客を迎え入れてくれる。
彼女は若い起業家として、知事も参加する会議に定期的に参加するらしい。

店主が仕込んだガトーショコラは
ナツメグを混ぜ込んだアイスクリームと生クリーム添えられ、パフェのように仕立てられている。

わたしはそれを写真におさめ、インスタグラムにアップした。
インスタのアカウントでは、趣味でコスメ情報を発信しつつ、他の常連客とも繋がっている。

リアルタイムで他人と繋がるアプリといえばLINEだが、
わたしのLINEでTLで動かすのは、
コスメモニター募集の公式アカウントと、
酒と男にだらしないシンママの穴モテ自慢か、
支援学校出身の50代新興宗教信者の雑なメシの画像くらいだ。

わたしはまるで仮面を付け替えるように
付き合う相手によってSNSを使い分ける。
好きな男とのそれは、X(Twitter)だ。

かつて起きている時間のほとんどを費やしたXだが、わたしは今、Xが苦手だ。

140文字におさめられた文章は
正義なのか、承認欲求なのか、誰かを貶めたいのか、ドロドロしたなにかにリボンをつけてラッピングした、
もらっても捨て場にすら困るような種々の主張が
濁流のように止まらない。
いっそアカウントを消したいが、
彼と唯一繋がる先がここなので、それをできずにいる。

わたしは、しゃべるのが下手だ。
だからXが好きだった。

ポエムに仕立てた「あなたが好きです」も
Xでなら饒舌だった。

今はなぜかそれすらできずにいる。
どうしてこうなったのかは、もう思い出せない。

木底を鳴らしながら入店したバーの店主に、
「本命チョコ渡してきた!」と息を切らしながら報告した。

彼女は、わたしに氷の入った水を差し出したあとで
じっくり話を聞いてくれた。

しゃべるのが下手なわたしの言葉を、
器用に笑ってくれる。

こんな風に誰かと話せる自分が嬉しかったが、
そのようにして上手に話せるその能力が、
うらやましかった。

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