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読んだ戯曲たち

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読んだ戯曲や台本についてのあれこれを書きます。感想だったり、分析だったり、気になることについてだったり。
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記事一覧

しっぽをつかまれた欲望 / パブロ・ピカソ

記事作成 : 2019年4月1日 3月の戯曲研究会の課題として読みました。 ピカソが戯曲を書いてたなんて、知ってました? 僕は知らなかったのです。 占領下のパリに残って創作活動を続けていたピカソが書いた戯曲は、キュビズム手法を得てからの彼の絵画と同様に、ある一点のみからの観察ではなく、ロジカルには結びつかないような要素を自己検閲なく盛り込んだ、とてもカラフルな作品でした。 いま、「自己検閲なく」という言葉をあえて使いました。 「しっぽをつかまれた欲望」に登場する言

船を見る / 小池博史

記事作成 : 2018年10月6日 8月の戯曲研究会の課題。 小池博史ブリッジプロジェクトの小池博史さんの戯曲。 身体表現を主体とした作品の台本を読むのははじめてでした。が、小池さんの舞台は「注文多い料理店」「世界会議」「世界漂流2030」と3本見たことあるので、なんとなくイメージはつかめました。 驚愕したのは、これほどまでに身体や情感に誠実な言葉がこの世に存在するのか、ということ。 ちょっと恥ずかしいのだけれど、商業ミュージカル作品の稽古に奔走していた時期に読んで

ウィー・トーマス / マーティン・マクドナー

記事作成:2018年7月18日 戯曲研究会7月の課題。 日本では2003年にパルコ、2006年に東京グローブ座で上演された作品。翻訳は目黒条さん。 かなりの暴力表現、血の表現がある。けれど、それが笑える。 原題は「The Lieutenant of Inishmore」で、「イニシュモアの中尉」という意味。イニシュモアとは、アイルランドの西にあるアラン諸島を構成する島の名前。 物語の舞台は、1993年ごろ。登場人物は8人。そのうち4人はイニシュモア島の人、残りの4人

キネマの天地 / 井上ひさし

記事作成:2018年5月18日 虹の都 光の港 キネマの天地。 あまりにも有名なこのフレーズ。 蒲田行進曲の歌い出しの一節です。 今や僕らが「映画、映画」と呼んでいるものは、ある時代まで「キネマ」とか「活動」とか「シャシン」とか「銀幕」とか呼ばれていて。なんかそこに、とてつもないロマンと憧れを感じます。 「蒲田行進曲」は松竹映画『親父とその子』の主題歌として発表され、レコード発売されて大ヒット。松竹キネマ(現・松竹株式会社)の蒲田撮影所の所歌にもなったそう。 つか

食卓㊙︎法・溶ける魚 / 竹内銃一郎

記事作成:2018年4月21日 中原和樹主催「戯曲研究会」2018年4月の題材。 こういう作品に出会うたびに、演劇の持っている自由度の高さ、そのフィールドの広大さと深遠さを痛感します。 「ウェルメイドってなに?それ、食べれるの?」ってなもんで、観客にとっての親切さとか分かりやすさとか、そんなところには優先順位がない。にもかかわらず面白い、超絶に面白いっていうのは、凄まじいことだなと思います。 -------- 劇作法としては一種の「不条理劇」的な要素を持っているのだ

楽屋 / 清水邦夫

記事作成:2018年3月29日 演劇をやっている人にとってはあまりにも有名で、あまりにも馴染みがあるテキスト。 「楽屋」という作品について何か書くっていうのは、超絶怖いことだなあといま実感している。笑 中原和樹主催の定期稽古。座学の回の題材だった。そのときには「劇中劇」についてたくさん話し合った。 -------- この作品は日本において、かなり上演回数が多いらしい。 研修生に向けて書いた作品だっていうのはひとつの要因だと思う。 上演するためのセットがそんなに煩

独り芝居 俺は担ぎ屋/劉深

記事作成:2018年3月22日 演出家中原和樹による定期稽古。台本を使ったワークショップの題材。 -------- 「現実を生きる」とはどういうことだろうと時折考えることがある。 こうして液晶の画面に向き合ってキーボードを叩き文字を打つ。インターネットは世界中のあらゆるところにつながっている。向こう側の画面の前に座っているあなたに向けて、僕はこの文章を書いている。 これは紛れもない現実だ。 けれど時々、その現実に現実味を感じなくなる瞬間がある。 あるいは、僕ら役

村で一番の栗の木/岸田國士

記事作成:2018年3月15日 岸田國士を読んだのは、「チロルの秋」から2作目。 大学生に向けての演劇ワークショップの助演のために読みました。 恥ずかしながら岸田國士が何故すごいのか、はいままでよく知らなかったので、読了後は「別段傑作ってわけじゃないけど、"こういう風景あるよね〜"って感じ」ぐらいの感想でした。 -------- 東京に暮らす男女が男の田舎へ帰る。女はどうやら身寄りがなく、田舎にはいないような気質を身につけているようである。 しおらしく男の言うこと

「アルカディア」/トム・ストッパード

記事作成:2018年3月12日 3月12日の夜に開催される戯曲研究会の課題作品でした。 語り得る言葉がとっても少ないのですが、その理由はこの戯曲が難解だからではなく、美しすぎるからです。 美しすぎるものについては、沈黙せざるを得ない。 読了後、そんな気分になりました。 とはいえ、書きます。 -------- 現代と19世紀初頭を行き来するストーリーですが、劇中に登場する「場所」は一箇所。 ダービシャーの貴族の館の庭に面した一室。 (「アルカディア」」トム・スト

「俊寛さん」/川村毅

記事作成:2018年2月28日 2月27日に開催された、演出家 中原和樹主宰の、芝居の定期稽古のシーンスタディの題材でした。 2010年に上演された現代劇の台本ですが、「俊寛さん」と聞いてピン!と来る方はどれほどおられるでしょうか? ピン!とこられた方の感性や、文学・日本の伝統芸能についての知識や興味関心、素敵だと思います。 -------- この作品は、能の「俊寛」から着想を得ています。 「俊寛さん」は「現代能楽集」というシリーズの中のひと品として書かれているの

「居留地姉妹」/トムソン・ハイウェイ

記事作成:2018年2月25日 月に一度開催される戯曲研究会の2018年2月の課題作品でした。 僕としてはかなり好きな系統の作品でした。 1986年に書かれた作品で、作品の時代設定も「1986年、晩夏」となっています。 劇作家のトムソン・ハイウェイはカナダ・マニトバ州の湖に浮かぶ島で、先住民クリー族の息子として生まれたとのこと。兄弟は11人。 「居留地姉妹」の冒頭の場所設定が「オンタリオ州マニトゥーリン島、ワサイチガン・ヒル・インディアン居留地」という架空の居留地に