「ノリ良く歌う」ってどうしたらいいのよまったく、の疑問に答えてみた。
歌をうたってて、誰かから「なんかノリが悪いよねー」って言われた経験、ありますか?
僕はあります。笑
「クラシックの人にポップスはわかんないよね笑」と言われたこともあります。
自分ではすげえノリノリで歌ってるつもりだから、そう言われると「ムッ」とすることもありますが、僕の身体の外で聴いている人がそう判断するのだから、その評価は真摯に受け止めねばなりません。
でも、人からの「ノリ悪い」のひと言をキチンと受け止めるのは、僕が歌を生業としているいわゆるプロだからであって、歌は好きだがあくまでも趣味だ!っていう方は、
「そんなの知ったことか!こちとら楽しく気分良く歌っとるんじゃい!」
ってことで、ガンガン無視しましょう。人からの言葉を真に受けて「ええ、俺、ノリ悪いんだ。そんな歌を人に聞かせるの恥ずかしいな」とか感じちゃって歌をうたうことが楽しめなくなるなら、どんどん無視しちゃった方がいい。
ですが、世の中には、歌がうまくなりたいと思う方がたくさんいるようで。
そんな志を持った人が、どうやったらノリのいい歌を歌えるようになるのか。
「クラシックの人にポップスはわかんないよね笑」と言われた悔しさをバネに、僕が試行錯誤した「ノリ良く歌うためにめっちゃ重要な要素」についてシェアさせてください。
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そもそも、ノリってなんなんじゃい!って話なんですけど。
これは、曲の持っているテンポやリズムにどれだけ柔軟に対応できるか、っていうこと。
まず原則として、ロックやポップスだったら楽曲が持っているテンポは基本in tempo(インテンポ)、つまり、曲頭からお尻まで、一定のテンポで進みます。
バラードとかなら途中でritardando(リタルダンド/だんだんゆっくりになること)を含んだりすることもあるけれど、それも含めて曲の持っているテンポやリズムにどれだけ柔軟に対応できるかだと思う。
ノレてないときに、いちばん起こりがちなのが「テンポやリズムに遅れる/走る」という現象。
遅れる、ってのは文字通り、楽曲が持っているテンポやリズムよりも、自分が出している音が遅いって状態。
走る、ってのは、楽曲が持っているテンポやリズムよりも、自分が出している音が早い状態。曲のテンポに対して演奏がどんどん早くなってっちゃうことを音楽家たちは走るといいます。
基本的には、楽曲が持っているテンポやリズムに対してはジャストで音を出せた方がいい。これがスタート地点。
なんだけど、それだけだと音楽ってつまんなかったりして、ジャストで音を取れる人がよりカッコいい表現を目指すために、わざと自分が出す音をジャストよりも微妙に遅らせたり、微妙に早めたりすることもあります。
こういう積み重ねが、いわゆる「グルーヴ」っていうのを作っていくんだけど、これについて話し出すと一晩とウィスキーひと瓶じゃ足りないから、また機会があったらってことで。
楽曲のテンポやリズムに対して自分がジャストに反応できているか確認するには、手拍子とか、ステップを踏んでみるっていうのが簡単に試せる方法。
そもそも身体的に一定のリズムを刻めないとか、鳴ってる音のテンポに合わせられないっていう場合は、
「一定のリズムを刻む訓練」や「聴いた音のテンポに合わせて身体を動かす訓練」ってのが必要になってくる。
訓練って聞くと難しく感じるかもしれないけれど、なんのことはない、クラブに行ってとりあえず3日も小さなヨコ揺れで踊れば身につく。僕はクラブ、行ったことないけど。
あるいは、ウォーキングをするときにイヤホンで曲を流して、その曲の速さに合わせて歩けたらそれでOK。僕、ウォーキングとかしたことないけど。
いちばんいいのは踊れるようになることだと思うけど、これはいきなりハードルが高くなるのでそんなに気にしなくてもよいです。
そうやって、ひとまず一定のリズムを刻めるか、や、聴いた音のテンポに合わせて身体を動かせるか、が確認できたとします。
でも、これができても「ノリのいい歌がうたえるか」はまた別の問題だったりする。
それに大きく関係するのは、ズバリ、発音です。
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ここで質問です。
僕たちが歌をうたうときに、その歌に「リズム」を与えるのは、身体のどんな機関でしょうか。
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どうでしょう。なんとなくイメージがつきましたか?
そうです、答えは
口(くち)
です。
「ノリ良く歌え!」って指示されたとして、いくら華麗なステップを踏もうが、いくらキレのある動きをしようが、それが出している声に還元されなければ歌のノリはよくなりません。
人体の中で声を発することのできる機関は声帯だけ。歌に重要な「言葉」を生み出せるのも口の辺りだけ。
ってことで、「ノリのいい歌」をうたえるようになるためには、口とか喉とか声帯とか、その辺の機関が柔軟に動き、それを適切にコントロールできているのかってのが超重要になります。
たとえば、一定のリズムで手を叩くにしても、手自体が思うように動かせないのだとしたら、いくらリズムを理解できていたとしても、リズム通りの手拍子は演奏できないってことになります。
同じように、いくら頭でリズムやノリを理解していたとしても、それを歌として表現するときに、口周りの機関がギクシャクしてたら、身体の中の音楽はぜんぜん外に表現されないってことになっちゃう。
ギタリストやピアニストが指を自由に動かせるようになるために地道な訓練を積むのと同じように、歌い手も、唇や歯や舌や喉、そして呼吸の訓練を積み上げる必要があります。
というと、またもや途端に難しい感じになっちゃうのでガチ訓練の話はとりあえず置いておいて。
かなーり前置きが長くなりましたが。
ノリ良く歌うために必要な、メチャクチャ重要な要素をご紹介したいと思います。
それはズバリ、
子音
です。
もうね、ほぼこの要素に集約されるといっても過言ではない。
もうちょっと具体的に書くとしたら、(子音を生み出すための)唇や舌や歯や喉の動き、です。いちいち書くのは面倒なので、口の辺りの筋肉、って総称しちゃうますが。
この、口の辺りの筋肉が自分の意志通りにコントロールできているかどうかで、歌で表現できるノリ、っていうのは格段に違ってきます。
そして、口の周りの筋肉で生み出せる音っていうのは、かなりの量が子音に分布しています。
だから、子音が超大事なんです。
日本語って子音と母音が癒着した言語だから、日本語圏で育つとそこまで子音と母音について考えることはないと思うんですが。でも、ノリ良く歌えるようになりたいなら、子音と母音については気をつける習慣が身についたほうがいいです。まじで。
あめんぼ赤いな あいうえお
演劇系の発声練習とかでよく使われるこのフレーズ。「浮きもに小エビも泳いでる」と続きます。
いま調べて初めて知ったのですが、これは北原白秋による「五十音」という題名の詩だそうです。なんとまあ。
で、このあめんぼ赤いなを子音と母音に分解するために、ローマ字表記をしてみます。
あ め ん ぼ あ か い な あいうえお
a me m bo a ka i na a i u e o
日本語では一文字の「め」が「me」と分解できることがわかります。小学校でローマ字を習ってるはずなので、まあ、当たり前のことですよね。
だけど、これを理解して歌をうたっているか否かが、ノリのいい歌をうたえるかどうかの大きな分かれ道になります。
なんでか。
上のフレーズ、試しに m,b,k,n といった子音を取り除いて、母音だけで読んでみて欲しいと思うんですけど。
白秋の詩は綺麗な4・4・5調になっているはずなんですが、母音だけで読むと
あえーお あーいあ あいうえお
ってな具合で、
あめんぼ あかいな あいうえお
と読んだときのような小気味いいリズムが生まれづらいですよね?
あと、母音だけで読んだときの口の動きをよくよく観察してもらいたいんですが、声帯から生まれた声や肺から送り出された息は、一度も、何にもせき止められることがないですよね?
口が、一度も閉じることがない。
それに比べて子音も加えて読むと、「め」のところで唇が閉じるし、「ん」や「ぼ」でも同じく唇が閉じる。「か」のところで舌の奥が上顎の奥にくっつくし、「な」のところで舌の先が歯茎の裏ぐらいにひっつく。
唇や舌で、声や息の流れをせき止めてることがわかりますね。
口の様々な機関で、声や息のせき止めを起こして発音されるのが子音です。
で、このせき止めを起こすと、母音だけでアオアオいっているときより、リズム的なものが生まれやすいのです。おもしろくないですか?
そんなん、言われたら当たり前のことなんだけど、よくよく考えてみないとなかなか普段は意識しないですよね。
子音を生み出すために動く部位ってのは
・唇
・歯(顎)
・舌(先、中央、奥)
・喉
だけなんですが、これらの動きが鈍かったり遅かったりすると、当然、発する言葉のタイミングとかもヌルっとしちゃうので、それに伴って歌もヌルッとしちゃうってことなわけです。
ヌルッとした歌にノリもクソもあったもんじゃないわけで。
子音の発音を柔軟にコントロールできればできるほど、歌をノリ良く歌う準備が整っているってことになります。
たとえば歌詞に「好きです」というフレーズがあったとして。
す き で す
su ki de su
母音や子音、それぞれにかける時間を伸び縮みさせるだけで、リズムの表現が多彩になります。
s-----す--- き で す------
s-----u----- ki de su------
最初の「s」の子音を伸ばして「好き」っていう言葉に重きを置いたり。
s きで s
s ki de s
「す」の母音を無声化(母音を言わないこと)しちゃって、「s」の音だけで「す」を言うことにして、軽めの印象のフレーズにしたり。
す き で す
su k---ki de su
早めに「k」の子音に移っちゃって「k」の時間を引き延ばすことで、聞こえ方的には「すっっきです」みたいになる。それによって「めっちゃすっきゃねん!!!感」を出したり。
あと、「s」の子音は、上下の歯を閉じてそこに細く息を流して生じる空気の摩擦で発音するんだけど
s-----す--- き で す------
s-----u----- ki de su------
ってやった最初の「s」の音を、
ゆっくりしたスピードで流した「s」の子音にするか
はやいスピードで流した「s」の子音にするかで
「好き」っていう言葉のイメージや内容も変わってくる。
前者だとほんわりと柔らかな「好き」になるし、後者だと強くて意志のハッキリとした「好き」になる。
子音のタイミングだけじゃなくって、そういう強弱でもリズムの変化って生まれるから、子音に対するアンテナの高さがどれだけ歌のノリに関係しているか、ここまで読んでくださった方は理解してくれると思います。
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今日はざっくりとしたことしか書いてないんだけど、「ノリ良く歌う」ためにはどれだけ口の周りの筋肉を有効活用しないといけないか、わかってもらえたでしょうか。
あの、これは是非ためしてみてもらいたいんだけど、「お前、歌のノリが悪いよ」って人に言われた場合、「ノリってなによ?」って聞き返してみてください。
9割5分の人はぜったい明確な返答、できませんから。
だいたい、「あれだよあれ、雰囲気!センス!笑」みたいにしか答えられない。(稀に、本人はノリとは何かを明確に理解しているのに、意図的に「センス」という言葉を使って、説明する手間を省こうとする人もいる。)
要は、外から聴いて「カッコいいかどうか」がノリがあるか否かだと思う。
ダンサーだったら、手の先、足の先まで神経が行き渡ってるかとか、首の切り方やキメのタイミングとか、そういうところでカッコいいかどうかが分かれてくると思う。
絵だって、細かな輪郭や影、色彩についての知識、構図や物の配置のリズムみたいなところに、カッコいいかどうかの大きな分岐点が生まれるはず。
歌にとって、いい声が出るとか大きな声が出るとか、そういうことも大事なんだけど、
プロは気にしているのに素人はあまり気にしていないっていう点に「子音」っていう要素がある。それを知っているかどうかで歌のカッコよさがぜんぜん違ってくる。
ノリのいい歌をうたいたいなら、ぜひ、自分の唇や舌の動きを観察して、子音に対するアンテナを、グググっと高くしてみちゃってください!
もっと具体的に知りたい方は、個人レッスンも承っております。
読んでくださってありがとうございました!サポートいただいたお金は、表現者として僕がパワーアップするためのいろいろに使わせていただきます。パフォーマンスで恩返しができますように。