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JB日記「ビートルズ vs. フォーシーズンズ」


ミュージカル「ジャージーボーイズ」は日生劇場での初日を迎え、あっという間に東京公演の中日を過ぎました。あっという間に!

もうすこしこまめに記事を書こうと思ってたんですけど、思ったよりも体力勝負でそんな余裕がなくこんなタイミングになっちゃったぜ。


ジャージーボーイズという作品は、フォーシーズンズというアメリカのロック・コーラスグループの結成からスターダムにのし上がり、そこから解散をして……という軌跡を、フォーシーズンズの楽曲とともに送るジュークボックスミュージカルです。

なので、全編にわたってふんだんにフォーシーズンズの楽曲が演奏されるわけですが、これがもうカッコいいし美しくって。

すこしマニアックな話をすると、フォーシーズンズの活動のさまざまなタイミングの楽曲が使われるため全編を追っていくとアメリカの60〜70年代の音楽シーンの変遷も一緒に楽しめるような、そんな仕組みになってます。

さらに言えば、物語の冒頭ではオリジナル曲ではなくカヴァーナンバーも登場するため、50年代のアメリカンオールディーズの雰囲気も含めて楽しめちゃうわけですね。



作品中で何度もフォーシーズンズと対比して言及されるグループがあります。

1960年に誕生し1962年にデビュー、1970年に実質的な活動を休止。60年代のほとんどの期間を通して世界的に人気があった、音楽の歴史を変えたあのバンド。

その名前は「ビートルズ」。


ビートルズはアイドル的な人気もありましたし、音楽的にも革新的なことを次々やっていき当時の欧米の音楽業界にどんどんと新しい風を巻き起こします。

劇中においてビートルズは「社会現象」であり、「ヒッピー」たちの支持を受けたと描写されます。

かたやフォーシーズンズは「社会現象ではなかった」と表現され、彼らを支持したのは一般大衆だったと強調されます。


1960年代のアメリカを考えると、公民権運動やヒッピーといった「既存の価値観を疑い、新しい価値観を提示する」という人々の行動は歴史のど真ん中の出来事のように思えます。

ビートルズの歩んだ軌跡は、既存の音楽的な価値観や録音技術に対して新しいアプローチを提示し続けたという意味でも、あるいはジョージ・ハリスンがインド音楽をグループに持ち込んだりジョン・レノンが東洋思想に強く惹かれていったりと、”非欧米的”ではない価値観との親和性を高めていったという意味でも、「既存の価値観を疑い、新しい価値観を提示する」という時代の雰囲気と重なっていきます。


ところが、その時代を生きている人々の生活というのは、そういった「新しい潮流」によって全てが塗り込められているわけではありません。

リベラルな思想が力を持って世界の仕組みを変え、人々の価値観を刷新していく一方で、大きな主張はせずとも粛々とそれまでの生活を維持し続ける、緩やかな保守層というのはどの時代にも確実にいるのです。

というか、その「緩やかな保守層」こそがその国の主たる構成員であるという言い方も、あるいはできるかもしれません。

ジャージーボーイズという作品ではそんな「社会現象には救い上げられない」人々こそが、フォーシーズンズをスターダムに押し上げたのだと表現されます。

トラックの運転手や、ハンバーガーをひっくり返す若者や、ダイナーで働く目の下にクマのある女の子たち。名も無い、当たり前の生活を営む彼ら彼女たちが、フォーシーズンズを支持したのだ、と。


とても大雑把で暴力的な二項対立を作るなら、フォーシーズンズ=保守層の支持を得た/ビートルズ=リベラル層の支持を得た、というような図式を描くこともできるかもしれません。

でもここで重要なのは「保守/リベラル」という名称ではなく、むしろ、目指す音楽性の違いなのだと思います。


フォーシーズンズはその結成の当初から、フランキー・ヴァリという「天使の歌声」がそのグループの中心的な軸でした。だから、フランキーの声を生かす楽曲が作られ続けた。

一方、ビートルズは、無理やりフォーシーズンズと同じ土俵で比較するならば、ジョンもポールもジョージもリンゴも、フランキーほど特徴的な声を持ってはいません。

しかし、ソングライティングの天才的な才能を持っていたジョンとポールによって、歴史に名を残す名曲が数珠つなぎにいくつも生み出されます。彼らは楽曲の素晴らしさとアルバム録音の革新性によってその地位を築きます。


ビートルズのみならず、さまざまなミュージシャンやバンドが新しいサウンドを追求していったことで、60〜70年代の音楽スタイルは目まぐるしいほどの変化をしていきます。

フォーシーズンズはメンバーの脱退や新しいメンバーの加入などを経ながら60〜70年代を生き残り、リリースする楽曲のスタイルも時代に呼応するように変化していきました。しかしそのなかでもヴァリの歌声がそのアイデンティティの中心という姿勢は70年代の半ばまで変わりませんでした。


フォーシーズンズもビートルズも、歴史に名を残す偉大なバンドです。そして、どちらのグループにも今なお聞かれ歌い継がれる楽曲がたくさんあります。

しかし彼らをそれぞれに支持する層はゆるやかに異なっていて、当時の音楽シーンとしても「ビートルズ vs. フォーシーズンズ」のような見方があったというのも事実のようです。



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