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「ファンの目線」と「プロの目線」


大学のころ、歌の先生に言われていまだに鮮明に心に残っている言葉があります。

なにを聞くにも見るにも、俺らは「ファン」になっちゃいけないんだ

という言葉です。

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僕は、東京芸術大学という大学に通い、音楽学部の声楽科で、クラシックの歌手になるための勉強をしていました。都合、5年間。

上の言葉はそのときの、レッスンの最中の雑談で言われたことだと記憶しています。

先生の言葉、一言一句覚えているわけじゃないけれど、全貌としては

東京芸大なんかに来るような学生は、みんな歌やクラシックが好きで、勉強熱心で、CDやら演奏会やら今はパソコンのなんとか(注:Youtubeのこと)みたいなやつでいろんな歌手の歌を聞き比べたりしてるだろう。

そのときに、あの声がカッコいい、あの歌い回しがカッコいい、みたいなことだけ聞いているのは、ただのファンの聞き方なんだ。

憧れを持つのは大事だが、その歌の裏側にどんなテクニックがあるのかをちゃんと聞き分けられる専門家としての耳を持たなくちゃダメだ。

ということでした。

ファンの方達の聞き方を蔑んでいるわけではなくって、たとえ学生でもプロの道を目指しているなら、ただ「カッコいい」「凄い」「憧れる〜!」みたいな観点だけで人の歌を聞いてたらダメだ、ということをおっしゃっていたんでしょう。

いやほんと、まさしくそうだよなーって、思います。

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そもそも物事を見たり聞いたりすることには、「ファンの目線」と「プロの目線」があるわけです。

スポーツでも、武道でも、絵画や写真でも、それこそ歌でも、なんでもいいんですが、まずは「素敵だ!カッコいい!憧れる!」みたいなところから「好き」がはじまるのは当たり前

そのときに僕たちが持っているのは、「ファンの目線」です。これはこれで、素晴らしい。

ただそこで、「プロになりたい」と考えるのであれば、「素敵だ!カッコいい!憧れる!」だけの姿勢だけでは、なかなかたどり着けない境地があるぞ、ってことですよね。

やっぱり、「あのカッコいいプレイはどうやったらできるようになるのか」とか「あの素敵な写真はどうやったら撮れるのか」みたいな、そのパフォーマンスを成立させている裏側の要素について、思考を巡らせる視点をもたなきゃいけない。

それこそが「プロの目線」

より分析的にその事象を見る目、っていうのが必要になってくるわけですね。


たとえば。

オペラの歌を聞くにしても、「ファンの目線」からだと

・カッコいい
・楽しい歌
・いい声
・高い音まで出ててスゴイ

みたいな感想が出てくるかもしれません。

が、「プロの目線」に立つとすると、なぜそうなっているのかを考える、より深度ある分析まで到達できなくてはなりません。

なぜファン目線で見るとその人の歌は「カッコいい」のかというと、歌のフレージングや言葉の処理が上手く、加えてもともと声が硬質的だからカッコいいイメージと結びつきやすいからだ、みたいなことが言えるとか。

それはどんどん深く掘り下げることができて、じゃあフレージングの技術を上げるためにやるべき息のコントロールのための練習はどんなものかがわかる、とか、柔らかい声質の自分がどうやったら「カッコいい」と思われるような歌がうたえるようになるか考えられる、とか。

「プロの視点」を持つことで、ひとつの感想からあらゆる方向へ、分析的な考察を広げていくことが可能になります。


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その道のプロになりたいと思ったなら、どれだけ早く自分の感覚を、「ファンの視点」から「プロの視点」にシフトチェンジできるかが勝負だと思います。

「プロの視点」さえ持っていれば、じっさいの練習の時間だけでなく、起きている時間の全てをインプットの時間に置き換えることだって可能だからです。

同じ1曲を聞くにしたって、「ファンの目線」で聞くのと、「プロの目線」で聞くのだと、受け取る情報量に大きな差が生じます。

それが毎日、毎時間つみかさなっていくのだとしたら、同じプロを目指している人でも、「ファン目線のままの人」と「プロ目線を持った人」との1年での情報蓄積量には、相当の差がつくのは誰でも想像がつきます。


僕はなるべく早くレベルアップし続けたいから、見るドラマ・CM・映画、読む本・戯曲、ぜんぶ分析してるし、なんなら、1回見ただけでそれを作った人達の意図を可能な限り完全に理解できるようにと思って見たり読んだりしてます。

そうやって周りを見回すと、世界は本当に参考になることばかりで溢れてるなーって、感動すら覚えます。

でも、僕自身、演劇や音楽や文章についての「プロの目線」はいつも持っていようと思ってるけど、デザインやファッションやITとかの「プロの目線」はぜんぜん持ててないなーって思ってます。


他にも、僕に見えてない世界ってのはまだまだたくさんあるんだろうな。

できる限りたくさんの「プロの目線」を持てるように、考える力や物事に気づく能力を高めたいものです。



読んでくださってありがとうございました!サポートいただいたお金は、表現者として僕がパワーアップするためのいろいろに使わせていただきます。パフォーマンスで恩返しができますように。