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ビジネスに役立つ俳優の技術!


こんにちは!山野です!


僕は職業として俳優をやっています。舞台で演劇をするのが主な仕事です。

演劇が社会の役に立つのかどうかは、正直なところよくわかりませんし、「役に立って/立たない」の評価軸で演劇を考えるのもあまり意味がないよなーという思いもあります。

ただ、ひとつ確実に言えることがあって。

俳優が身につけているさまざまな「俳優的な技術」というのは、確実に役に立ちます。

なんの役に立つのかというと、俳優をしていない、演劇に携わってもいない、他の多くの方々の生活にとって、めちゃくちゃ役に立つのです。

特に僕としては、会社勤めだったり自分で事業を興したりしている、ビジネスパーソンの方々に向けて大声で「俳優の技術、めっちゃ役に立つよ!!!!」と言いたいです。


今日はざっくりですが、俳優の技術のなかでもたとえばどんなことがビジネスパーソンの皆さんにとって役に立つのか書いてみます。


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身体操作を身につけよう!


端的に結論から言いますと、俳優が身につけている「身体操作」の技術が確実に、ビジネスの場で役に立ちます。

身体操作とはその字の通り「身体=じぶんのからだ」を「操作=コントロール」する技術のことです。

デパートや販売店などで接客業をされている人なら、お辞儀の角度やお客様を迎えるときの立ち方、笑顔の作り方や接客時の声の出し方などを研修で学んだり朝礼で確認したりすることがあると思います。

この

・お辞儀の角度
・お客様を迎える立ち方
・笑顔の作り方
・声の出し方

はすべて「身体操作」の技術によってもたらされる結果です。

こういった「どんな姿で顧客の前にいるべきか」というのはなにも接客業だけでなく、プレゼンを控えたビジネスパーソンにも、大事な商談に臨む経営者にも必要な視点です。

僕たちはふだん生活している上でたくさんの人に会いますが、その都度、瞬間的な印象で「この人は社会的なステータスが高そうだな」とか「この人はなんか信頼できそうだな」とか、あるいは「この人はちょっと注意しておこう」とかの判断を下しています。

その判断がのちのち合っていることもありますが間違っていることもあるでしょうから、第一印象で相手のことを決めつけてしまうのも一長一短です。

ただ確実に言えるのは「この人は注意しておこう」と思った相手に対して、自分の心のなかの大切なことについての打ち解けた相談なんかはきっとしないだろうな、ということです。

重要な決定事項が連綿と続いていくビジネスの場面で、相手とどのような信頼関係を築き、その上で腹を割った話ができるかどうかというのは非常に重要な要素です。そこに、身体操作で得られる第一印象のコントロールが効いてくるのです。

しかし当然、身体操作のことだけを考えていたら必ずビジネスの大切な局面で勝てる、というわけではないのに注意してください。

最も大切なのはビジネスで提供したい価値の中身です。どんな内容を、どんな根拠で裏付けして、どんな順番で喋るかといったことが一番大切に決まっています。

ただ、どれだけ研ぎ澄まされたビジネストークの内容を持っていたとしても、それを発する人の身体の使い方や状態がその場に相応しくなければ、トークの効果も半減してしまうでしょう。

身体操作は、自分のアクションを顧客(ときには同僚)に受け取ってもらうときのラッピングのようなものです。相手から自分に対する印象の土台を作るのが、身体操作の技術です。

そして、身体操作の技術に親しんでいればいるほど、その印象の土台を底上げ(=自分の望んだ印象付け)することができるのです。

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俳優は身体操作のプロ


俳優という人間たちは、その日常のほとんどの時間を使って身体操作について考え、試行錯誤しています。

役を演じるということは、「その役の人物の身体的特徴を見つける」こととほとんど同じ意味だからです。

セリフの言い方の工夫や役の感情の解釈もしないわけではないですが、役そのものになるべく近づけるような身体性を見つけることがとても重要です。

たとえば、とても几帳面で神経質な身分の高い人物を演じるときに俳優がだらしのない立ち方をしていると、きっとその人物らしさはかなり薄れることでしょう。

逆に、生まれながらに足が不自由で、さらに戦争に出て大きな怪我を受けた経験のある人物を演じる俳優がまっすぐ綺麗に立ってスタスタと歩いたら、役の特徴が全く表現されない演じ方になってしまいます。

いまの世の中で広く使われている「リアリズム」という演技の方法論があるのですが、その源流を作ったロシアの演出家スタニスラフスキーは長年の演技研究の後半で「身体的行動」という観点に理論を集約していきます。

簡単に言えば、演技のときに「感情をコントロール」しようとするよりも「身体の行動をコントロール」することの方が、よりリアルな芝居に結びつきやすい、ということです。

これは一般に言われる「楽しいから笑うのか、笑うから楽しくなるのか」という話に近いです。

楽しさ(=感情)があるから笑う(=行動)という順番でなく、笑う(=行動)から楽しくなる(=感情)というアレです。

感情と行動の順序は「感情→行動」だと思われますが、じつのところ「行動→感情」としても成り立つのではないか、ということです。

この話を掘り進めると演技論になってしまうので話を戻しますが、俳優にとって身体性を自由に操作できることは、議論されるまでもない基本的な技能なのです。

だからこそ俳優たちは、そのほかの人たちよりも細かな目盛りで「身体操作」のチェックポイントを持っています。

この細かい「身体操作」のチェックポイントを知ることで、ビジネスパーソンの対面シチュエーションにおける印象のコントロールの精度も格段に上がっていきます。

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少し前置きが長くなりました。

では具体的に、どんな身体操作のチェックポイントを持っていたらビジネスの局面で優位に振る舞うことができるのでしょうか。

基礎的な技術としてまず、以下の3点に注目してみます。

・立ち方
・声の使い方
・視点の距離感

もちろん、具体的なケースでどんな身体操作がベストかを考えていくと、この項目のなかでもチェックポイントは細かくなりますし、項目自体ももっと多岐に渡ってきます。

でもまずはこの3つをコントロールすることから全てが始まります。

詳しくみていきましょう。


・「立ち方」が全てのはじまり

立ち方を指南する本や動画は世の中にたくさん溢れています。そのどれも、それぞれに目的意識があって作られています。

モデルを目指したい人のためのポージングやウォーキングのやり方を学ぶための教材なら「モデルになるため」の立ち方が紹介されているでしょうし、プロボクサーを目指す人には「相手に勝つための立ち方」が必要でしょう。

ビジネスパーソンには、モデルになるための立ち方も、ボクサーになるための立ち方も必要ありません。このふたつの立ち方を身につけることが無駄とは言いませんが、モデルの立ち方は「お高くとまってる」、ボクサーの立ち方は「威嚇的だ」という印象を与えかねません。

そういう印象を与えることが必要ならば、この立ち方をするべきでしょう。でも、ビジネスの場面でこの印象を与えることが必要なときって、ほとんどありませんよね。


ビジネスの場面で必要な立ち方は、基本的にはこのふたつです。

①リラックスしているが緊張感も帯びていて、自信があるように見える立ち方

②相手より自分の立場が下だと認識していて、けれど過剰にへりくだってはいない立ち方

このふたつを身につけて、場面によって使い分けることができたなら、その時点でほかのビジネスパーソンよりも一歩前に進んでいることになります。


ちなみに、俳優的な身体操作を身につけることの有意な点は、いろいろな立ち方を「場面によって使い分けられる」ようになることです。あるひとつの「綺麗な立ち方」を身につけることが重要なのではなく、相手に与えたい印象に合わせて、自分の身体を操作し、そのときに適切な立ち方を選べるようになることがとっても重要です。

では、じっさいにこのふたつの立ち方を身につけるには、どうしたらいいのか。

まず、①の立ち方の参考を見つけます。僕がおすすめするのは世界の王室や皇族の方々です。有名なCEOなどを参考にすることもできますが、過度に威圧的な立ち方をしている方もいるので避けるのが無難です。

また、ヨーロッパの政治家を参考にもできますが、それよりも自然体な立ち方を身につけている王室や皇族が参考として最高です。

具体的にどんな身体操作が必要なのかは、人それぞれの身長や骨格によって調整が必要なのでここでは書けないのですが、対面でのアドバイスができますので気になる方はお問い合わせください。

チェックポイントとしては

・大腿骨の外転(内転)がどれくらいか
・骨盤の立ち方がどれくらいか
・肩甲骨の寄せ方がどれくらいか

この3つを試行錯誤しながら、王室や皇室の人たちの立ち方と自分の立ち方を照らし合わせてみると、ずいぶん印象が変わってくることがわかると思います。


①の立ち方を身につけたら、②の立ち方はすぐに習得できます。①の立ち方から少しだけ、肩甲骨と肩甲骨の距離を離し、肩が前に出てくる状態にすればいいだけです。

どちらにしろ、自分で鏡を見ながら調整できてしまう人もいるでしょうし、ひとりではなかなか感覚が掴めない方もいるでしょう。

自分だけでは難しそうだなと思ったら、ぜひご連絡ください。対面セッションでアドバイスいたします。

このベースとなる2つの立ち方を身につけたら、あとは細々とした調整をしていくと、さまざまな印象を作り出すことができます。

絶対に負けられない商談でスーパーヒーローのようなオーラをまとった立ち方をしたい、とか、新人研修の担当になったときに出来るだけ親しみやすそうだと思ってもらえるような立ち方をしたい、とかも調整が可能です。

立ち方が与える印象は大きいです。イギリスの名優ローレンス・オリヴィエがシェイクスピアの「オセロ」を初めて演じるときに、最も苦労したのがオセロという人物の立ち方を見つけることだったといいます。

立ち方は、全てのはじまりなのです。

立ち方をコントロールできるようになれば、座り方も簡単に操作できるようになります。


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・声の焦点をコントロールしよう

声を遠くに届けるように。明るい声で話しましょう。落ち着いた声で話しましょう。声についてのアドバイスはいろいろあります。

僕がおすすめするのは「声の焦点の位置をコントロールできるようにする」という技術です。

光のように自分の声で実際に焦点を作ることはできません。あくまでもイメージの領域の話です。しかしこのイメージの力は身体操作においてなかなか侮れません。


声についての悩みで多いのが

「声が小さくて、よく聞こえないと言われます」
「声が大きくて、うるさいと言われます」

というもの。

これは声という音声現象の「音量」にフォーカスした悩みなのですが、これもまた「声の焦点」を調整できると自然に解決することが多いです。

小学生のときに理科の授業で習った「焦点」のことを思い出してみましょう。自分がレンズで、自分から発せられた声が自分より前のどこかの地点に生じます。

話しかける相手をひとり想定するとすると、「声が小さい」という人は自分の声の焦点が話しかける相手よりも手前にあることがほとんどです。逆に「声が大きい」という人は声の焦点が相手よりも向こう側にあります。

まずは目標として「自分の声の焦点と話しかける相手の鼻を重ねる」ことを目指しましょう。別に、焦点の位置は鼻じゃなくてもいいのですが、耳はふたつあるし、みぞおちとかだと位置が低すぎるので、やはり鼻ぐらいがやりやすいと思います。

いきなり人間を相手に訓練してみるのはハードルが高いので、まずは自分の部屋で、ペットボトルなどを対象にして練習してみるといいです。ペットボトルならキャップを焦点の目標にするのがいいですよ。

まずは話しかけやすい距離にペットボトルを置いて焦点を探ってみます。なんとなく声の焦点をしぼるイメージができるようになってきたら、ペットボトルと自分の距離を変えてみます。

自分がペットボトルから遠ざかると当然、焦点距離も変わるわけですが、これだけで声を出して話しかける難しさも変化することが理解できるはずです。

ペットボトルと自分の距離をどんどん大きくしていき、それに合わせて声の焦点を調整していくと、声量が自然に変化することに気づきます。また、ペットボトルと自分の距離を近づけていき、それに合わせて声の焦点を調整すると、声量もこれに伴い変化していくのです。

「話し方を改善しよう」と考えると、まず声量を調整することが思い浮かびやすいですが、じつは声量というのは副次的な要素です。

声の焦点をコントロールすれば、それに伴って声量も自然と変化していくものなのです。

逆に、「声が小さい」といわれる人が声の焦点は相手よりもすごく手前になったまま声量だけを大きくすると、これはこれでおかしな話し方になってしまいます。声は大きいのに何を言っているのかわからない。声は大きいのに言葉の意味が届いてこない。そんな人、皆さんの周りにももしかしたらいるかもしれません。


立った状態で声の焦点のコントロールがある程度できるようになったら、次は座った状態でとか、ペットボトルを2個や3個に増やしてとか、さまざまな訓練の展開ができます。

俳優という職業は声の焦点を自在にコントロールすることを求められます。

相手役と面と向かって話すシーンなら焦点は相手ですが、もしそれが舞台で横向きになった状態だとするとそのままでは客席に声が飛んでいきません。なので目の前の相手に声の焦点を合わせつつ、声の届く範囲を自分の側面にいる観客の範囲まで拡大したりします。

演説をするシーンを演じるなら、演説の対象がどれくらいの人数なのか、その空間がどこなのかなどを考慮して声の焦点を決めます。

もちろんビジネスの場面ではここまで仔細なコントロールは必要ないかもしれませんが、声のコントロールにもこのような視点があるということに気づいていただけたら嬉しいです。

ちなみに、さいきんだと大きな会議や講演、イベントだとマイクを使うことも多いですね。自分の口元にマイクがあれば声量を拡張してくれるので、そのような状況では声の焦点のことなんか考えなくてもいいと思われる方も多いと思います。

けど、声の大きさはマイクで十分聞こえるのに、なんだかあの人の話し方だと話の内容が耳に入ってこないなぁみたいなシチュエーションって出会ったことありませんか?

この場合でも「誰に向けて話しているのか」「どこに向けて言葉を放っているのか」という声の焦点のイメージを持つことで、きちんと話の内容が伝わるようになることがあります。

マイクを通して話すシチュエーションでも、声の焦点の意識を持つことは有益なのです。


立ち方の項でも参考にするべきと挙げた王室や皇室の人たちは、幼少期から身につけるべき帝王学の範囲として「話し方」を徹底的に叩き込まれます。

親しみを込めて目の前の1人と会話する話し方と、何千人の大衆に向けてスピーチをする話し方は、その質が全く異なるのはきっとみなさんも想像できるでしょう。

天性の才能でそれができてしまう人もいるかもしれませんが、ほとんどはそうではありません。

しかし、だからこそ、話し方も後天的な学習でその技術を身につけ向上できる分野なのです。そのチェックポイントの重要なひとつに「声の焦点」があります。


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・相手の目の、どこを見る?


誰と話をするとき、相手の目を見て話しましょうというのはよく言われることです。

目を合わすのが恥ずかしいようなら、鼻の頭とか眉間とか、直接目ではないけれど相手からは「目を見て話しかけられてるな」と認識されるようなところを見るのもひとつのテクニックだというのは多くの人が知っていると思います。

俳優的な身体操作ではこの「相手の目を見て話す」という行動を、一歩押し進めて考えます。

考えたいのは相手の目の「どこ」を見るのかです。

どういうこと? 目を見るってことは、目を見るということでしょう?とお思いでしょうか。いや、本当にそうなのですけど。目を見るというのは、目を見る以外のなにものでもありません。

ふだんから皆さんが当たり前にやっている「相手の目を見る」という行動のモノサシを、少しだけ細かくしてみようということです。

では、どうやったら行動のモノサシが細かくなるのか。

相手の目を見るときの「深度=奥行き」を意識してみましょう。


人と話をしていて、「この人は本当に私の話を聞いているのかな」と思うような人はいませんか。逆に「なんかこの人は押しが強いというか、グイグイくる感じで威圧的だな」と思うような人はいませんか。

そういった印象はさまざまな要因が絡んでいるのがほとんどなので一概には言えませんが、その人が人の目を見るときの癖が、そういった印象を与える要素になっていることは非常に多いです。

「この人、私の話をきいているのだろうか?」という気持ちにさせるタイプの人は、目を見るときの深さが「浅い」ことが多いです。反対に、「この人、威圧的だな」という気持ちにさせるタイプの人は、目を見るときの深さが「深い」ことが多いです。

どういうことかというと。

先ほどの「声の焦点」と近いイメージなのですが、相手の目を見るときの「焦点」を考えてみます。この焦点が、相手の目に対してどのくらいの距離なのかによって「目を見る深度」が変わります。

相手の目の表面、ちょうどコンタクトレンズをのせる角膜のあたりに自分の焦点があっている状態を「深度が0」ということにしましょう。

相手の目を見ることが苦手な人はその「深度0」の状態よりも焦点が手前側にあることが多いです。自分の見る焦点が、相手の目に届いていない状態です。けれど、見る方向が相手の目に向いているから「なんとなく目を見ている?ように感じる状態」になっています。

この、見る焦点が相手の目よりも手前側にある状態を「深度がマイナス」ということにします。相手の目を見るときの深度が「浅い」ということですね。

逆に、相手の目の奥を見る人、目の奥どころか脳みそまで覗き込んでるんじゃないかくらい深く人の目を見る人もいます。この状態を「深度がプラス」ということにしましょう。深度が「深い」ということです。

この感じで人から目を見られると、見透かされてるのかなとか、睨まれてるのかなとか、いずれにせよ「怖さ」や「強さ」を想起することが多いです。


この「見る深度」は育ってきた環境やそれまでの経験から、人によって癖があります。深度を浅く見がちな人、深度を深く見がちな人、それぞれいます。また、外に出ているときは「深度がマイナス」で相手を見ている人も、家族や友人には「深度がプラス」になるなんてこともあります。

みなさんが自然に身につけてきた「見る深度」の違いを、意識的にコントロールすることがここでのひとつの目標です。

訓練の方法としては、いきなり他人との交流の中で実践するのは難しいので、鏡を使うのがいいと思います。

鏡を自分の前に用意し、その鏡に映った自分と目を合わせます。

そのときに目の焦点を合わせる位置をイメージするようにします。

ぐっと、目の奥を見るような気持ちで鏡に映った自分の目を見れば「深度をプラス」にして、より深い視線で相手を見る練習ができます。鏡より手前側に目の焦点を移動すれば「深度をマイナス」に、浅い深度で相手を見る練習になります。

それがある程度出来てきた方は、ただ「プラス/マイナス」「深い/浅い」だけではなく、「1cmくらいプラス」とか「2cmくらいマイナス」など、どれくらいの深さなのかも調節できるようになると面白いです。

また、鏡を使った練習をすると、自分が見方の深度を変えれば、鏡に映った自分の状態も変化するため、見方の深度の変化によってそれを受け取る側がどんな印象を受けるのかも(完全にではありませんが)体験することもできます。


正直なところ、人の目を見て話すにしても「深度0」の状態で相手から目を見られると、ちょっと「ウッ」となるというか、威圧的に感じるという人は世の中に少なくありません。

なので、相手の目を見て話すシチュエーションでも、いつでも「深度0」にしておけば正解かというとそうでなかったりします。初対面で、柔らかい印象を与えたければ、「深度マイナス5ミリ」ぐらいにしておくのがちょうどよかったりもします。

ただ、この「深度マイナス5ミリ」は相手にとっての危険な範囲に踏み込んでいない分、自分の意見を話して相手から納得を勝ち取りたいとか、相手を説得したい場面では「消極的」に見られる可能性が高くなります。

その際には「深度プラス1cm」とか「深度プラス2cm」とか、その瞬間に適切な焦点距離を選択できるとより効果的です。

自分の意見をグッと提示するときには「深度プラス1cm」で見ておいて、次に間髪入れず「いやー、でも〇〇さんの懸念点もわかるんですよー正直」と相手に寄り添う姿勢を示すときには「深度マイナス5ミリ」の見方に変える、みたいなことも戦略的に可能になります。


じつはこういった「どれくらいの深度で相手の目を見るのか」というのも、僕たちは自然に身につけている技能ではあるのです。

けれど、それを自在に使いこなせているかというと、多くの人がそうではないのですね。そもそも「相手の目を見るときの深度」なんて考えたこともなかった方もたくさんいることでしょう。

俳優の身体操作の技術というのは、私たちが日常の中で「当たり前に/無意識に」やっていることを、言語化し、体系化し、再現性を高めていくことを目指しています。「無意識」のさまざまなボディ・アクションを「意識的に」コントロールできるようにするのが目標なのです。

こうして身につけた身体操作の技術は、いわば演技をする上での語彙や文法みたいなもので、身体操作をさまざまに組み合わせたり取捨選択することによって、自分に与えられた役をより自由に雄弁に演じていくために必要なのです。

この「役をより自由に雄弁に演じる」という要素を、みなさんの生活やビジネスの場に少しだけ応用しようというのが、俳優の身体操作をお教えする目的です。


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ひとまず、3つの要素を紹介してみました。「そんなこと、言われなくてもやってるよ!」という方もいらっしゃったでしょうし、「全然考えたこともなかった」という方もいらっしゃるでしょう。

ここまで読んでくださった上で「自分には必要ない内容だ」と思われる方も当然いるでしょう。

もしも、少しでも役に立ちそうだなと感じた方がいらっしゃったら、ぜひご自身の普段の生活に取り入れてみてください。きっと世界が変わります。


身体というのは、自分と世界とを繋いでいる、最前線の領域です。いくら自分の内側で物事を考えていても、それは身体的表現のカタチを得なければ、世界にはほとんど影響を与える力がありません。

世界や他人と直接接触しているのは、他ならぬ自分自身の身体なのです。

だから、身体を自由に操作できる力というのは、言い換えれば、「世界や他人との触れ合い方をコントロールできる力」でもあるのです。

高度な情報社会となっている2020年代では、身体よりも頭脳や精神の方に価値の軸足が置かれがちですが、いまなお僕ら人類は、自分の身体というハードウェアから抜け出すことはできていません。

ビジネスの場面も、リモートでの打ち合わせなどが増えたとはいえ、対面でのコミュニケーションの価値が一切なくなったという局面までは程遠そうです。


ぜひ、これを機会に身体操作への関心を持っていただき、より有意義な対人コミュニケーションを紡いでいっていただければと思います。



山野靖博

読んでくださってありがとうございました!サポートいただいたお金は、表現者として僕がパワーアップするためのいろいろに使わせていただきます。パフォーマンスで恩返しができますように。