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俳優エピソード本「Barで声かけてきた集団に付いて行った話。」(現役編)

その日はなんだかちょいと一杯呑んで帰りたいなぁという日で、柄にもなくBarとか行ってみようと思ったんですが、行きつけ みたいのは持ち合わせてないし、広めのスポーツBarに入ってみました。入りやすそうだったものの、そんな陽気な場所には、みんなグループかカップルで来ていて、1人で来るなんて場違いだったなぁと、不慣れをした事を後悔しつつ、さっさと一杯飲み干して帰ろうとしたら、1人のめっちゃ笑顔な男性が話しかけてきた。

「よく来るんですか?」

クラブのナンパ師みたいな台詞だったので一気に警戒したのですが、これがBarってことなのだろう、僕は今Barをしているのだと現状を受け入れて、そのまま話していたら、その人が他の場所にいた仲間を呼び始め、あれよあれよと男女5、6人くらい対自分という僕の知らないBarなる状況になった。

男「何してる人ですか?」

僕「会社員です。」

全く素性を知られてない、全く接点のない人たちと飲むのが妙に非日常感があって、割と楽しく呑んでいた。

「今度さ、俺らタコパするんだけど、来ない?」

リア充たちは他人を仲間にするスピードがエゲツない。行きたくなさが凄いけど、この頃の私は、芸人を辞めたてで、危険そうな香りのするものには、飛び込めという謎のセオリーを捨てきれずにいたので、行く約束をしてしまった。

当日、指定された場所に行くと、そこは暗がりのビルだった。外でたむろしている若者も何人か居る。誰かの家なのだろうか。

狭いビルの階段を上がっていくと扉があり、開けてみると無数の靴が脱ぎ散らかされており、中にはおびただしい数の人がタコ焼きの煙に包まれている。廊下に対して割と広めなその部屋には、丸テーブルが3つ置いてあり、それぞれにタコ焼き焼きキッドがセットされていて、それを取り囲むように数名がタコ焼き作りに励んでいる。奥にはソファー席があったり、パラソルと海の家で使うようなテーブルもある。

想像したタコパと違う。

はい、タコパです。はい、どうぞ。という感じがする。

しかも声をかけてきた人たちはいない。

どうしたらいいんだと思ったが、タコパに呼ばれたのだから、タコパしようと思い、まだ作り始めと思わしきテーブルを選び、ちょっと手伝ってみる。隣にいた若者が話しかけてくる。

若「何してる人ですか?」

僕「アパレルです。」

若「へぇ〜そうなんだ」

僕「何してる人ですか?」

若「学生学生!」

僕「へぇ〜。これみんな学生なんですか?」

若「違うよ〜。学生が多いけど、色んな職種の人がいるよ。あれっ、ボブさんには会った?」

僕「(ボブさん??)会ってないです。」

若「奥に居るから、後で会った方がいいよ。凄い人だから。」

若者ひしめく中、パラソルの下に50代のアロハシャツを着たボブさんらしき男性1名を目視。ラスボス感ハンパないのでボブさん一旦スルー。

若「てかさ、今週末何やってんの?暇?」

僕「いやぁ、なんか予定あったかもしんないです。なんでですか?」

若「今度、みんなでクルージングに行くから行かない?」

僕「(クルージング)…」

若「行かない?」

僕「ああ、やっぱ予定あったかもですねぇ。」

若「そうなんだぁ。」

そこで会話は途切れ、若者は作ったタコ焼きを食べずに別テーブルへ移っていった。

そこでそのまま生焼けのタコ焼きをほうばっているとイケメンが話しかけてきた。

イ「ボブさん会った?」

僕「いえ。」

イ「後で会った方がいいよ。凄い人だから。」

僕「はい。」

イ「今週末クルージング行かない?」

僕「やめときます。」

イ「楽しいから行こうよ。」

僕「いや大丈夫です。」

イ「あっそ。」

僕「(あっそ??)」

それから立て続けに幾人かが話しかけてきて、必ずボブさんに会ったかを聞き、週末のクルージングに誘ってくる。断ると舌打ちが聞こえたりもした。そして遂に、ボブさんのいるテーブルに案内された。

ボブさんタバコをふかし全然目を合わせてくれない。ゴリゴリに攻めてくるかと思いきや意外だった。

補佐役みたいな人がボブさんがどれだけお金持ちでどれだけ慕われているかを解説してきて、周りの若者が凄い凄いと盛り立てる。そしてボブさん口を開く。

ボ「クルージング来る?」

僕「やめときます。」

ボブさん立ち去る。

それからもう誰も話しかけてきてくれなくなる。

沢山の知らない人達と、生焼けのタコ焼きと僕。

しばらく佇んでから、部屋を後にした。

ボブさんの執着のなさにその組織の数や出入りの激しさを感じました。周りの話などを聞いているとどうやらネットワークビジネスの集団だったようです。クルージングへの誘い方が上手な人もいれば、たどたどしい人もいた。今思えばクルージングまでは行ってみて、もう少し実態を知ってみてもおもしろかったかもしれない。いや、危ないか。それ以来、一人で知らないBarには行っていない。ボブさん元気かな。


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