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好きを語らう至極の時間

次女が幼稚園に入って、落ち着いたら、バイトをはじめようと思っていた。

しかし、思いもよらぬいい求人に、無計画にもフライングで飛びついてしまった。

私の興味のある分野の、フルリモート、時間自由の事務仕事。

これを逃したら、こんなに私のやりたいことにはしばらく巡り会えないだろう。

次女入園まではもう少し。入園までは夜中に仕事することでなんとかこなせそう。応募してみよう。

いつもの山へ向かう道中、車の助手席で急ごしらえの履歴書を作った。シートベルトを締めたままの自撮りが写真の欄に貼り付けられた。

そもそも車の中で超特急でこしらえた履歴書を見てもらえるかどうか。多数応募があったらしいし、私は大雑把な元営業さんで事務の経験はない。
ダメ元で応募したが、あっさり採用されてしまった。

そこからは大変。
実に6年ぶりの仕事に気合が入った。
採用して良かったと思われたい。早く仕事を覚えたい。役に立ちたい。

今まで通り、次女入園まではたっぷりと午前中の外遊びを一緒に満喫したいし、午後はいつも通り長女を習い事に送迎するために自転車で走り回る。

こどもたちが寝たら、そこから仕事。
今までは疲れて朝まで寝ることも多かったのに、毎晩起きて仕事をする。
21時から24時過ぎまで納得いくまでやって、朝は6時過ぎに起きる。

あれ、これ気がついたらすごいキツイことしてないか?
金曜日の夕方くらいからひとかけのチーズと一杯の白ワインを嗜むのを楽しみにしていたのに、それもなし。

若干頭がくらくらして来た。



週末、いつもの我が山に車を走らせる。
今夜の仕事はお断りして、一泊キャンプを楽しむことにした。
思ったより早く着いた。まだまだ明るいうちにテントの設営も終えて幸先がいい、もみじの葉はもう全部落ちてしまって残念、なんて言いながら、お気に入りの手作りのウッドデッキの上でゆったりしながら乾杯だ。

お気に入りの場所

2週間のバイト生活を見ていて、ネガティブなことを言わずにそっと家事を加勢してくれていた夫との乾杯。

乾杯、の瞬間に久しぶりにしっかり目を合わせたように思う。
私ひとりバタバタ動き回った2週間だと思っていたけれど、この人は言いたいことグッと堪えて見守ってくれていたんだろう。

かなり欲張りだが、子どもとの時間や関わり方、作る食事のクオリティや部屋の掃除の具合は変えずとも、1日のうち2-3時間、アルバイトをねじ込むことは簡単だと思っていた。

より生活にメリハリがついて、詰め込めば詰め込むほど、1日でいろいろなことができるものだなぁと感心すらしたほどだ。

思えば以前は多くの21時から24時を夫と一緒に映画を見たり、お酒とお菓子を片手に語り合ったりしていたのに、すっかりそんな時間を蔑ろにしてしまっていたのだ。
なんだか悪いことをしたな、と思いつつ、缶ビールのひんやりとした飲み口に唇を当てる。冷たいのがくるぞ、と心躍る。体は身構える。

ゴクっとビールが喉を通っていく時、ぷつんと張り詰めていたものが切れたような気がした。

お酒を飲んでいる時はいつも、好きなことについて語らう。

次は山でこんな料理を作りたいね。
ピザとアヒージョの組み合わせ、最高すぎた。
今度仕事でいよいよこんなことが実現しそうなんだ。
この前あの場所をジョギングしたらすごく綺麗だった。
フルーツの木をたくさん植えたいな。
あの切り株でこどもたちの遊び場を作るのはどうかな。

バタバタしていた現実は一旦置いておいて、好きなこと、やりたいことを朗々と歌うように呟く。
ちゃんと会話のキャッチボールが成立している時もあれば、それぞれ好きなことを好き放題、ただ口に出している時もある。
お酒を飲んでいる時の会話なら、好きなことの話なら、どっちだって楽しい。

お酒を飲んでいる時は、好きを語らい、自分の中の好きを掘り起こす。
好きなことを語る夫はいい顔するし、おなかが捩れるほど笑わせてくれる。
つくづく、この時間は大事だなと思い直す。忙しさに流されてしまいそうだった夫への尊敬の気持ちや愛情が、戻ってくる。

バージョンアップした忙しい日々が始まってしまったけれど、夫婦の好きなお酒の時間はしっかり、確保していきたい。


#いい時間とお酒

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