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司書を辞めて読む 漫画「税金で買った本」 マジで沁みた

漫画「税金で買った本」

私は司書として働いていた時にこの漫画に出会い、その面白さ・絵のかわいさに大喜び。即購入し、布教用に様々な人に貸しまくったのだが、その結果、途中で自分が一体何巻まで買っていたかを全く思い出せなくなり、ここしばらく新刊を購入できていなかった。


昨年度をもって、私は非正規の図書館司書を辞めた。
理由は色々あるが、やはり「とにかくお金がない」ことが一番大きな理由であった。

「税金で買った本」の5巻収録の「第33冊目 公務員白書 2年版」でも細かく描写されていたが「図書館司書」という仕事は、とにかく非正規雇用が多い。低い給与、保証されない立場、割に合わない仕事。それでも図書館で働くのが楽しい・図書館が好きだから続けている司書ばかりだ。
もちろん中には「図書館の仕事はラクだから」という理由で続けている人もいる(極力頑張らないように努めれば、場合によってはラクも出来てしまう仕事ではある)し、司書資格を持っていても、作中に出てくる茉莉野さんのように利用者へ向き合う気が一ミリも無い司書だっている。
でも、大抵の司書は非正規でも「目の前の利用者のために」何かをしたい、資料を求める人と資料を繋げたい、という気持ちで勤務している。

私もそうだった。レファレンスの仕事が来ると早瀬丸さんのようにウキウキで取り組んだし、困った利用者さんがいれば、石平くんのように「なんでこんなことするんだろう」と好奇心半分、理不尽な要望などには白井さんのように「力が欲しい」とカウンター裏で般若の形相をし、定期的に降ってくる上からの無茶ぶりを断り切れず、今村さんのように泣きながらもなんとかしようと格闘した。毎日苦しいけど、図書館で働けることがうれしかった。

でも、同年代の友人に比べて自分の給与が低い事実に定期的に打ちのめされ、且つ、それでいて私は司書の同僚たちのように正規雇用の司書になるための努力もできず。
結局私は図書館司書を辞め、転職する道を選んだ。

運よく正社員として入社できた現職場は、端的に言って「この世の楽園か?」と思えるほど最高ではある。これは本当に運が良かったと思っているし、転職したことそのものに全く後悔は無い。
転職したおかげで、非正規の司書として勤めていたころのように、友達に遊びに誘われる度に口座残高を気にしたり、自分の立場では責任の取れない仕事を任されて胃を痛めたり、求められた仕事に真面目に取り組んでも結局誰も幸せにならなかったり……そういう、当たり前だった「不健全な諸々」がなくなったのは、私の人生にとって良かったと思う。
でも、図書館の仕事は本当に大好きだったので、やっぱり少し悔しかった。

3月末の退職の日、図書館の同僚に貸していた「税金で買った本」が返ってきた。私はどうやら2巻までで買うのを止めてしまっていたらしい。
5月に入りようやく新しい環境にも慣れてきたので、久しぶりの何もない休みに本屋へ足を運び、「税金で買った本」の3~7巻+公式ファンブックを買って読んだ。

最初は「わ~あったあった」「わかる~」などと思いながらニコニコ読んでいたのだけど、しばらく読み進めるうちに、いつの間にか私は泣いていた。
自分でもびっくりした。

どの話でも涙腺がぶっ壊れていたので、おそらく全話の蓄積ダメージで涙が出たではあるけど、最初に涙がこぼれたのは5巻収録「36冊目 世界一美しい図書館」の『人間が好きだから本が好き』のくだりだった。

私は図書館が大好きだが、その中でも最も好きなのは、辞書や事典などが並んでいる参考資料(レファレンス資料)のコーナーだ。
そこには、調べものに使う分厚い本ばかりが並んでいるが、その背表紙を眺めていると、私の知らない、様々な学問や分野についての資料があるのがわかる。無線用語事典、建築大辞典、川を知る事典、フィンランド語辞典、日本書画骨董大辞典、妖怪大辞典、ウイルス学事典……どれも私は一生手に取ることのないであろうタイトルばかり。
ただ、参考資料コーナーにある資料1点1点が存在しているというこの現実こそは、つまり、私が人生でおそらく極めることはないであろう様々な事象がこの世には信じられないほど沢山存在していて、それでいてそのどれもに愛や情熱をもって探求を続けている人たちがいるという、途方もない事実の証明である。世の中は、私が知らない場所でも動き続けていて、私がこのちっぽけな脳みそで想像するその何倍も豊かで、愛と情熱にあふれているということが、物理的にわかる。
そして、そんな「私の知らない知識(愛や情熱)を持った誰か」が、いつか、私のいま目の前にあるこの参考資料を使う日が来るのかもしれない。それがその人の人生にとって、すごく大事なものになるかもしれない。
それを想うと、私は嬉しくてたまらなくなるのだ。
だから、私は参考資料コーナーが大好きだ。

そんな風に参考資料を愛でる度、地球人類に想いをはせて興奮していた私だったので、石平くんの言ったとおり「本と出会うのは人と出会うのと同じ」というのはもちろん常日頃思っていたことだった。
でも、この感情を人に話しても、一部の司書以外にあまり共感はされてこなかった。
だから、この漫画で、図書館という場所がそういう「本を通して人を大事にする、人のための大切な施設である」ということが、こんなに面白くてかわいくて最高の漫画の形で、登場人物の心情に沿って不自然なく、エンタメとしてしっかり広く発信されているという事実が、染み入るように嬉しくて、思わず涙がこぼれたのだと思う。何度かページをめくる手を止めて、天を仰いだ。

やっぱり私は図書館という場所が大好きで、図書館という施設が存在していることそのものがうれしくて仕方がなくて、そこで働くことが幸せで、楽しかったんだな……と改めて思った。私の人生にとって「非正規の図書館司書」でいることがあまり良い状態ではなかったから、結果的に転職という選択をしたけど、この「税金で買った本」を読む中で、図書館司書として働いていた日々について、ちゃんと意義があったのかもしれないな、少なくともこの漫画を描いている作者さんたちやこの漫画を好きな人たちは、それを大事に受け取って「意義があった」と思ってくれているってことなんだな……と思えて、それがうれしかったんだと思う。

ファンブックまで一気に読み終えて、この気持ちを書き残しておきたくて、こうしてキーボードを叩いている。

「税金で買った本」の中で、主人公の石平くんは頻繁に「なぜ」と、好奇心たっぷりに問う。
好奇心とは知識欲であり、それそのものは本人の純然たる欲でしかない。でもその欲望を満たしていく過程、その「知ろうとする」姿勢そのものが、思いやりやコミュニケーションの原点ではないか。
図書館には、何かを「知りたい」人々がやってくるが、図書館という施設には、その「知りたい」の先にある欲望ですら、平等に受け止め、肯定する、人間のコミュニケーションそのものへの深い愛のようなものがある、と私は思う。

情報化社会となった今「情報にアクセスできるかどうか」が、生活や精神的安全性の確保により一層深く関わっているように感じる。図書館は、そうした社会で取りこぼされてしまう人たちの最後の砦であると言っていい。
でも、そうした図書館の役割はなかなか注目されない。まだまだ世間からは「小説とかが無料で読めるところ」という認識が強いように感じる。

「税金で買った本」が更にどんどん売れて、どんどん人気になって「図書館は!!!!!!!!みんなのための!!!!人間を人間として尊重するための施設です!!!!!!!」という認識が広まってくれたら、こんなに嬉しいことはない。それを出来うる漫画がこの世に存在している事実が、本当にうれしい。もっと売れろ。超豪華美麗作画と豪華声優陣でアニメ化とかしろ。ドラマ化もしろ。国を挙げて売ってくれ。頼む。

図書館という施設を、図書館で働く人を、図書館を利用するすべての人を愛する気持ちが詰まった漫画、この世に存在してくれて本当にありがとう。

そして、この文章をここまで読んでくれた奇特なあなた。もし「税金で買った本」を己の私財で買っていなければ是非買おう。おまえも人間愛の布教に加担しよう。買え!!!!!!

https://magazine.yanmaga.jp/c/zeikindekattahon/

今度の休みは久々に図書館に行こうと思う。

なお、元職場は色々と闇すぎるので怖くて行けない行きません♡非正規図書館司書の労働環境、マジで改善されてくれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

おわり

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