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仕事、働、職、生業、労働、勤労

「社会的健康のなりたち」のうち、「社会」に続く2番目の項目は「仕事」すなわち「働く」ことです。
「仕事」「職」「職業」「生業」「労働」「勤労」など、「働く」ことはいろいろな言い方で表現されますが、ある人物が社会の中の特定の位置にあって特定の役割を果たすことを言い、その人物の「社会的健康」にとって大きな意味を持つ行為です。
社会の中においての居場所やあり方が定まることで、初めてその人は「健康」な状態になることができるのです。
 
しごとの「し」は動作や行為することを表すサ変動詞「す(為)」の連用形で、「ごと」は「事」なので、本来「仕事」は「すること」という意味でした。
もともとは「為事」という字が当てられていましたが、やがて生きていくためやお金を稼ぐために「すること=すべきこと」という意味の「生業・職業」を指すようになり、「仕事」と書かれるようになったようです。
「仕」という字は「仕える=従う」という意味を持つため、「仕事」とは「与えられた役割に仕える」ことだと言えるでしょう。
 
「働く」の「働」とは人偏に動くと書き、「人が動く」こと、つまり身体を動かすことです。
もともとは旗が急にはためいて動く様や、人が「はた!」と気づいて動き出す様を表現する「はたらく」という和語がありました。
そして「はたらく」が「努力して事を為す」という意味を持つようになった中世の頃、その意味を表すために日本で作られた国字が「働」でした。
つまり「働く」ということは単に人が動くだけでなく、何かの目的に向かって動くことで何事かを為すことを言います。
 
「職」という字は耳偏に「識」のつくりを当て、「耳でよく聞き識別すること」を意味しましたが、それが転じて「各人が一定の仕事を持ちそれに応じた地位や責任を負う=つかさどる」という意味となりました。
シナの王朝では古くから多くの職官・官署が定められ、『周礼』では天地春夏秋冬の六官にそれぞれ60職で、計360の官職があるとしています。
平城・平安時代には日本の朝廷にも隋・唐の職制が取り入れられました。
「官職」の「官」とは職務の一般的種類のことを指し、「職」は担当すべき職務の具体的範囲を示す呼び方だとされています。
 
「生業」は、「なりわざ」「なりわい」「すぎわい」「せいぎょう」などいくつかの読み方がありますが、どの読み方にしても、「暮らしを立てるため、生活するための仕事」という意味で使われます。
大多数の人が田畑を耕して暮らしていた時代には、生きていくために農作物を育てる技術を必要とし、それを「なりわざ」と呼びました。
この「農耕に従事する」という意味が転じて「生活をしていくための仕事」をあらわす言葉になり、読み方も訛って「なりわい」になったようです。
「生業(すぎわい)は草の種」という慣用句もあり、「暮らしを立てるための職業は草の種ほど多い」という意味です。
「せいぎょう」と読むのは、「生業」という漢字が当てられてからのことだと思われます。
 
「労働」の「労」は「熒の省略形+力」の会意文字で、篝火のように力を燃焼させるという意味をもっており、「つかれる」そしてそれを「ねぎらう」ということです。
江戸期には漢語の「労動」という言葉が「身体を動かすこと」という意味で用いられていましたが、明治初頭に英語のlaborの約語として「労働」という熟語が作られ、「働く」という意味で使われるようになりました。
Laborの語源はラテン語のlaborareで「体に負担をかける仕事」を表します。
ユダヤ・キリスト教社会では「labor=神が人間に与えた罰」であると考えられています。
 
「勤労」の「勤」は「菫+力」の会意兼形声文字で、力をこめて粘土を練り込む様を表します。
「労働」がlaborの約語であるのに対して「勤労」はworkの訳語です。
Workは「仕事」という意味以外にも「作品」「効果がある」「機能する」「上手くいく」「都合がいい」などという使い方もされ、総じてポジティブな意味を持つ言葉です。

「強制労働」という言い方はしても「強制勤労」とは言わず、逆に「勤労に励む」ことで「勤労感謝」されたりします。
日本国憲法第二十七条一項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」としています。

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