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読書録:新版 地形の教室

中野尊正・式正英『新版 地形の教室』(古今書院)
考古学の中でも特に考古地理学に関心を持っていたワイは、積極的に地形学や地理学の本を読むようにしてきた。考古学で遺跡を研究する場合、その立地の考察は重要な位置を占める。地形には居住に適した地形と適さない地形があり、そうした地形を微地形レベルで勘案して集落などは造られている(ヴェネツィアのように無理矢理造った例もあるが)。
本書は代表的な地形について、問答形式でまとめた入門書である。概ね、すべての自然地形を網羅していて、地形学の教科書として最上の作りである。内容は基本的に様々な地形の解説だが、最後に一章を割いて地形と人間の関係に触れているのが高評価。人工的な地形改変は考古学でも重要な部分なのだが、これに触れてくれている地形学の概説書は意外と少ないのである。
考古学で特に地形が重要になるのは古墳と城の研究で、古墳は自然の山や丘陵を使って墳丘を構築していることがあり、城は自然地形を巧みに防衛機能として取り込んでいる。それ以外の遺跡については地形との関わりは重要でないかといえばそうではなく、例えば港であれば船が出入りしやすい入江を選んで造られているし、村落や都市は水害や土砂災害を極力回避できるところに造られている。こうした、遺跡と地形の関係を見ていくことは、現代の防災にも役立つはずである。開発時に遺跡に当たる場合が多々あるが、それは人々の考えが昔から変化していないことの表れで、つまるところ、遺跡のある場所はだいたい安全なのである。
NHKの『ブラタモリ』が人気を博しているが、普段、我々が意識することがない微地形を実際に歩きながらクローズアップするのが興味深いからだろう。
地形は我々が意識する以上に、生活と密接に関わっている。地形を知れば、それは防災にも役立つ。そう考えると、昨今の地学軽視が歯痒くて仕方がない。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784772212151


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