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雪の言の葉の庭

何年かに一度、東京に大雪が降るようになった。最初は上京してすぐの2014年。30センチ以上の積雪を記録した「平成26年の大雪」。これが登山家との出逢いを産んでくれた。大雪が降るたびに代官山の夜を思い出す。数年前から雪が積もったら行こうと決めていた場所があった。

2024年2月6日の新宿御苑は一面の雪景色。開苑は1時間延びて10時。ガラガラだろうか、それとも美しい雪原を見る観光客が多いだろうか。答えは後者だった。

雪を泳ぐ子ども。火曜日なのに小学校は休みなのだろうか。青春はいつも純白だ。

フリーランスの物書きになったことで、お金は無くなったが時間だけは自分で決められる。収入とトレードオフで自由を手にした。借金があるのに働かずに遊んでいる。これじゃあ子どもと同じだ。ナイキの靴をビショビショにしながら雪を泳ぐ。

ひとりぼっちのベンチ。雪の布団をかぶっている。

藤棚で雨宿りしながら、孝雄と雪野が見た旧御凉亭。目指す場所はもうすぐ。

変わらない東屋。いつ来ても、ここには孝雄と雪野の鼓動がある。息吹がある。温度がある。

孝雄は手紙と靴を持って、雪野(雪の)日に東屋を訪れた。 あえて雪の日を選んだのか、手紙を届いた日が雪だったのか分からない。だが、この風景には孝雄の一途な想いが宿っている。

孝雄が靴を置いたベンチ。雪野のために作った靴。孝雄は心の靴を渡した。言の葉の庭は、15歳の孤悲が愛に背伸びする物語。

孝雄にとって、新しい人生をはじめる純白のキャンバス。ここに新しい靴のデザインを描く。新海誠は「風景」を「情景」に変える。次に東屋に来るのは梅雨。雨の言の葉の庭。

藤棚の横を通って千駄ヶ谷門へ。

駅から5分ほど歩いた場所に孝雄がアルバイトした中華料理屋『猪八戒』がある。

孝雄おすすめの『鶏肉カシューナッツ炒め』1,280円。甘いピリ辛の不思議な旨さ。恋の二股は断罪されるが、味覚の二股は正義。愛の二股も正義。名物の小籠包や刀削麺じゃなく、鶏肉カシューナッツ炒めを勧めるところが靴職人。ちょっと子どもでオトナな味に孝雄が宿っている。

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