見出し画像

ちびちびごくごくお酒のはなし 憧れのヴァンショー

私はお酒が弱い。

学生の頃は普通に飲んでいた。お酒の味というより、友だちとわいわい話すのが好きだった。あまり強くはないけど、2〜3杯なら普通に飲めた。

社会人になって、ピタリとお酒を飲むのをやめた。
会社の飲み会って、なんであんなに楽しくないのだろう。お酌をしなさい!という無言の圧力に負けて、新人の私は好きでもない上司にお酒をついで回った。上司のほうも、好きでもない私につがれたお酒は、さぞかし口当たりが悪かっただろう。

この頃から私は、「お酒は一滴も飲めません」という嘘をつき続けた。
こういう嘘をついている人実は結構いたりする。昔のバイト先の社長はめちゃくちゃ酒豪なのに、「飲むと二次会で風俗に行かないといけなくなるから。」と、一滴も飲めない設定を通していた。男は男で本当に大変だ。

妊娠出産期間を経て、かれこれ5年は一滴も飲んでいない。
だけど今、私はものすごく飲みたいお酒がある。

ヴァンショー。
赤ワインにスパイスを加え、弱火で温めたもの。
伊藤まさこさんの「ちびちび ごくごく お酒のはなし」というエッセイに登場する。私が望むお酒の飲み方は、全てここに書いてある。

紹興酒やビールに合わせる「海老の黒酢炒め」のなんと美味しそうな事か。
6月の果実酒づくりの多幸感、クリスマスシーズンの「きのこのソテー」の万能感。それらに合わせるシャンパン。
二日酔いの時に食べる、「黒米ともち米のお粥」。このお粥が食べれるのなら、二日酔いになってもかまわない。

この本の最後の方に出てくるのが、ヴァンショーだ。赤くて、暖かくて、なんて幸せな飲み物なのだろう。シナモンスティックをくるくる回して、飲みたい!飲んでみたい!

冷えた体が少しずつ緩むようなお酒の飲み方をする、というのが、この冬の目標だ。一杯だけでいいの。
お酌をしたりされたりする必要のない、自分のペースで飲ませてくれる誰かと、美味しいお酒を少しだけ飲みたい。
あるいは自宅でひっそりヴァンショーを作る。

自分でもすっかり忘れていたけど、ワインは結構好きだったな。ジントニックも好きだった。
この本のひたすら幸せそうなお酒の席を想像すると、今まで私があきらめてきたのはこんな時間だったんだとゾッとしてしまう。
好きなものを、それに付随する小さな不便を理由に見ないふりをしてしまうのは、私の悪いクセだ。

これからは、少しでもやってみたいことはやってみようと思う。車を運転出来なくなる不便さに負けず、例え一杯だけでもきちんと美味しい想いをしよう。

でもまずは、家でひっそりヴァンショーを作る。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?