マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』早川書房

東大生の親の60%が年収950万円以上であることは、いまでは周知のことである。親が裕福でなければ、一流大学には入学できない。

米国では、さらに極端であり、ハーバード大学の3分の2は、所得規模で上位5分の1にあたる家庭出身である。小学校の時代から選抜があり、裕福な家庭の子は、たとえ公立であっても特別な学校に入学する。一方、貧困家庭は、その選抜システムがあることも知らない。

人種や性別、出自によらず能力の高い者が成功を手に入れることができる「平等」な世界を理想としてきた。しかし、いまやこのような能力主義がエリートを傲慢にし、敗者との間に未曾有の分断をもたらしているという。著者は、新たな階級社会を真に正義にかなう共同体に変えることはできるのかという難問に挑む。

グローバリゼーションから取り残され、能力主義から排除された白人から支持されたことにより、トランプ氏は当選した。エリートから見下された「白人特権」を持つ下級労働者たちによる反撃であった。

著者は、能力主義的な信念は、連帯をほとんど不可能なプロジェクトにしてしまうという。われわれはどれほど頑張ったにしても、自分だけの力で身を立て、生きているのではないという。また、才能を認めてくれる社会に生まれたのは幸運のおかげで、自分の手柄でないことを認めなくてはならないという。

なお、本書の解説で、本田由紀東大教授は、meritocracyは、日本では「能力主義」と訳され通用しているが、英語の世界では「功績主義」という意味でも用いられており、「能力の専制」と言える日本の方が、より深刻だとする。

公共の福祉による支援が、劣った者への援助であってはならない。だれもが、同じコミュニティをつくる仲間である。

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