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渡邉泉『世界をめぐる会計紀行 新たな地平を求めて』税務経理協会

会計の誕生とその進化の歴史をめぐって、著者自らが世界各地を訪ね歩いていたことに基づいて著わされたもので、ページの左上に飛行機が描かれている。

13世紀、イタリアのフィレンチェで始った複式簿記から始まり、世界各地を訪れたときのお話とともに、会計の歴史が書かれている。会計に関係している人にとっては、これだけでも興味深い。

日本のことも書かれている。江戸時代の伊勢富山家、出雲田部家、近江中井家の和式帳合は、わが国固有の簿記法であるが、秘伝とされ、広く使用されたものではなかった。しかし、17世紀後半には、京都、江戸、大坂の三都で活躍する商家は、複式決算を行っていたという。

日本で、本格的に複式簿記が採用されたのは、福澤諭吉訳『帳合之法』からである。本書には著者所蔵の『帳合之法』の写真が掲載されている。本書には、風景などのほか、会計に関する資料の写真が多数掲載され、その中には著者自身の蔵書が含まれているので、それを見るのも良い。

しかし、本書で一番読む必要があるところは、エピローグであると思う。著者は、会計の原点に立ち返り、新たな地平の先を求める必要があると主張する。会計の原点は信頼性だと言う。

現代の国際会計基準は、投資家の意思決定の有用性を求めているという。そのため、短期的な利益を目的とした一部の大株主のために役立つものとなっているという。

しかし、今日の会計の求められているのは、正確な意思決定のための客観的で正確な信頼性であるという。また、会計情報の中心は、損益情報であるともいう。これがないと、付加価値の適正な分配、配当と役員報酬や、一般社員の給料の配分比率の問題もわからないという。富の偏在や、貧困と差別の元凶の問題でもあるという。

最も大切なのは、民主主義と倫理観を携えた自由主義であり、社会秩序をわきまえた自由と肌の色や宗教や障害を超えた平等は、人にとって社会にとって何にも代えがたいともいう。会計の歴史紀行かと思っていたが、最後に著者の強い思いに同感してしまった。



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