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はまり役


 ◆『動物王国捕物控』事情

 私が初めて書いた小説『動物王国捕物控』(文芸社刊)は、盲導犬ユーザーの山谷鍼灸師が主人公だった.。過疎化で消滅した村の跡に、土着の動物たちが王国を建国する、などという荒唐無稽な話である。
 当然のことながら、動物がたくさん登場する。人間社会同様、トラブルも起きる。一種の推理小説で、どんな推理、方法によって解決していくかが見どころである。主役をどの動物にしようか考えた。迷うことなく抜擢したのが、犬だった。

 猫や猪、猿、鹿、山羊などが事件を捜査し、解決していく、というのは不自然、非現実的である。「犬のおまわりさん」として童謡にも歌われている犬をおいて、適役はなかった。それに、優れた嗅覚、冷静・沈着な性格、凶暴な犯罪者に立ち向かえる体格など、三拍子・四拍子も揃った動物はほかにいない。 

 ◆好演する三頭

 物語では、王国の動物病院東洋医学科にさまざまな動物が受診する。その中に、犬の親子がいる。父親はかつて動物村の巡査だった。めったに事件が起きない、のどかな村だったので、迷子の仔猫の世話をするくらいが主な仕事。「警官くらい楽で安全な職業はない」という父親の言を真に受けて、息子も警官になった。息子は現在、警察署長に出世し、警察学校時代の同級生が副署長となって補佐している。

 一読していただくと、捕物帖ファンなら、父親は岡本綺堂作『半七捕物帖』の半七親分、息子は野村胡堂作『銭形平次捕物控』の平次親分、副署長はガラッパチの八五郎のパロディとすぐ気づく。副署長のような天然の慌てん坊はともかくとして、父親にも息子にもならではの味付けをしている。

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