銀行のDXとは

 前回の最後で銀行のDX(デジタルトランスフォーメーション)の例として住信SBIネット銀行の例を取り上げたが果たして銀行のDXとは具体的に何なのか。今回は従来の銀行とDXを実現しつつある銀行を比較しながら、銀行と金融の未来について議論する。

地銀のDX

 2021年9月、ビザ・ワールドワイド・ジャパンによる日本のキャッシュレス推進についての説明会において、VISAのタッチ決済が日本で最も普及している都市が石川県珠洲市であると明かされた。石川県珠洲市は能登半島最北端の街であり農業と漁業が産業の中心をなしている。人口の割合も50代以上の高齢者が多く、お世辞にもキャッシュレスが進んでいる地域であるイメージはあまりない。
 このVISAのタッチ決済を強く推し進めているのは北陸をベースとする地銀である北國銀行である。北國銀行は2016年からVISAプリンシパルの資格を得ることでVISAカードのイシュア(カード発行会社)としての事業を行なっている。比較的早期にVISA payWave(現:VISAのタッチ決済)を搭載したキャッシュカードとデビットカード一体型のカードを発行し、ポイント還元率をより向上させたゴールドカードを発行することで、より利用者の選択肢を多くした。デビットカードでは全国唯一のETCカードを発行可能というのも大きく、クレジットカードが必須で発行のハードルが高い人もいたETCカードを北國銀行の口座を持っていれば発行できるというのもアドバンテージである。
 一方北國銀行はアクワイアリング(加盟店業務)も積極的に行なっており、北國銀行の業務エリアでは6500件以上の加盟店をもちカード業務収益は9億4000万円にものぼる。加盟店にはVISAのタッチ決済に対応した決済端末を無償で配布することで加盟店の初期投資負担を抑えながらタッチ決済普及に成功したというケースである。
 前回の冒頭部分で私の叔父がキャッシュレスが普及する前からクレジットカードを中心に決済していたという場面があったが、キャッシュレスへの移行に抵抗があるとされる中高年層でも、クレジットカードやデビットカードでのキャッシュレス移行は比較的スムーズにいくケースがあり、あとは預貯金の管理や銀行との連携でどうお金の流れを可視化することが銀行のDX、さらにはキャッシュレス化の肝となっていくだろう。

キャッシュフローの見える化

 このようなお金の流れ(キャッシュフロー)を見える化することは個人事業主や法人などでは税務関係や決算などを円滑に行うためによく使われており、実際に銀行口座やクレジットカードなどと連携して自動で入力するサービスなどが普及していたが、現金主義の多かった個人レベルでの普及は家計簿などを積極的に入力している人などを除いてあまり普及していなかった。
しかしキャッシュレスを実現することによって、決済が確定したと同時にその記録がスマホアプリ上に表示される。それを家計簿アプリ等と連携することによって、自分が一か月でどれぐらいどの割合でお金を使用したかがすぐにわかる。また給与などの所得などと組み合わせればその月の収益がどれぐらいで、どれぐらいの赤字黒字になったが可視化されるのである。無駄遣いを減らし、その分有益なことに投資することもできるためメリットはかなり大きい。
 私が普段家計簿アプリとして使っているのは「マネーフォワードME」というアプリである。このサービスは有料会員になることで口座連携が無制限になり、銀行口座やポイント、クレジットカードやプリペイドカードなども連携できるために、自分が今どれぐらいの資産を保有しているのかが一目でわかり、節約の指標にすることができる。類似のサービスでは「マネーツリー」なども挙げられるだろう。

キャッシュレス・カードレス

 銀行のDXの要素としてもう一つ挙げられるのはカードレスである。北國銀行、ソニー銀行、PayPay銀行(旧:ジャパンネット銀行)りそな銀行、三菱UFJ銀行のデビットカードでのGoogle PayでVISAのタッチ決済に対応しカードレスでデビットカードの決済が可能である。そのほかにもiDやQUICPayなどでタッチ決済に対応するカードも存在する。Apple Payではデビットカードの対応はGoogle Payと比較すると少ないが、順次拡大している。
 日本では、いくら家計簿アプリ等でキャッシュフローが見える化したとはいえ、まだまだクレジットカードに対する抵抗感が大きいのが事実である。特にクレカ破産などがメディアなどで取り上げられ、「クレジットカード=借金」というイメージがついてしまっていると、どうしてもクレジットカードに対して不安感がぬぐえない人も中にはいるだろう。

デビットカードとキャッシュレス

 銀行が発行するデビットカードはクレジットカードと同じ仕組みで国際ブランドの加盟店で決済が可能であり、決済すれば直後に銀行口座から引き落とされるため、自分の資産以上にお金を使いすぎる心配はない。(預金残高以上の決済をしようとするとエラーが出るため)一部の加盟店やガソリンスタンド、携帯電話料金の支払いには使えないといったデメリットはあるが、リスク軽減を考える日本人にとってキャッシュレスを実現する大本命はデビットカードという意見もある。実際各国際ブランドやカード会社は銀行との連携をより強化し、デビットカードサービスを拡充するととで日本のキャッシュレスを推進する形になりつつある。

ネット銀行とデジタルバンク

 DXにおけるもう一つの形態としてカードレスやデジタルバンクなども紹介しておきたい。前回説明した住信SBIネット銀行はMastercardのデジタル・ファースト・プログラムに対応し、基本的にはプラスチックカードを発行しない。(プラスチックカードが必要な場合は別途申請する)預金の入出金は公式アプリの「アプリでATM」によってセブン銀行ATMやローソン銀行ATMで取引を行なう。またデビットカードでの取引はApple PayやGoogle Payのコンタクトレス決済で実現するといった。スマホ一台あればほぼすべての取引が可能であるという非常に画期的な仕組みを取り入れた。住信SBIネット銀行のほかふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」も基本的にはキャッシュカードやデビットカードを発行せずすべてスマホ一台で賄えるサービスを実現している。このようなデジタルバンクのサービスは今後ますます拡大してくると予想される。

基幹システムとDX

 最後に銀行を語るうえで非常に重要な要素が勘定系基幹システムである。近年。みずほ銀行が連続してシステム障害が発生したことでその銀行のメインシステムである勘定系システムに注目が集まっているが、ここでもDXを実現する要素がある。
 先述した北國銀行はBankVision on Azureという勘定系システムを採用し、日本で初めて基幹システムをMicrosoft Azureのパブリッククラウド上に構築するということを行なっている。システム自体が自社の管理下にないぶんハードウェア障害などのリスクのデメリットはあるが、地銀を悩ませる基幹システム構築管理のコストなどを抑え、システムの拡張性やWindows Serverなどのオープン系システムを使用したことによる汎用性などで優位に立っている。
 また千葉銀行では日本IBMとコラボレーションし地銀の基幹システム共同化プロジェクトとして「TSUBASAアライアンス」を結成した。中国銀行、第四北越銀行などがこの共同プロジェクトに参加し、基幹システムを共同化することによって連携強化やコスト削減に取り組んでいる。

まとめ

 DXは昨今企業活動において盛んに叫ばれていることであるが、こと金融業界においてもこのようなデジタル化を推進していくことで、利用者のキャッシュフローの見える化や効率化を図り、お金のあり方を見直すきっかけになっていくことだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?