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車争図屏風

 豊臣秀吉の側室淀殿が、嫁ぐ養女の完子(さだこ)と新郎のために新築した九条御殿の襖絵で引手跡がみえます。『源氏物語』の葵の上と六条御息所の行列見物の場所争いで、乱闘場面を表わす円環状の構図が見事です。この仕事で山楽は九条家から信頼され、庇護を受けることになります。

4枚のパネルがつながった屏風です。右半分は人物や馬の行列が整然と進んでいますが、左半分は人や牛車(ぎっしゃ)が入り乱れ、混乱した様子です。何が起こっているのでしょうか。 これは「源氏物語」の一場面です。一番右のパネル、立派な黒い馬に乗り、ひときわ目立っているのが光源氏(ひかるげんじ)です。ここは京都の賀茂神社。賀茂祭(かものまつり)の行列に参加する光源氏の晴れ晴れしい姿を見るために、人びとが集まっています。 左から二番目のパネルの下、光源氏の行列をさえぎるように並ぶ3台の牛車は、源氏の正妻、葵の上の一行です。後から来たにもかかわらず、すでに集まっていたほかの牛車を立ち退かせようとしたため、お供の者たちがもみ合って乱闘になっています。実はこの中に、源氏と恋愛関係にあった六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の牛車がありました。見物場所の争いは、光源氏をめぐる二人の女性の争いになってしまったわけです。 今は屏風の形になっていますが、よく見ると、もともと襖絵であったことを示す、引手の跡があります。屏風に仕立てられた際に切り縮められた部分があったのでしょうか、各パネルの絵がつながらないところもあります。もとは、もう少し横にゆったりとした配置だったのでしょう。 作者の狩野山楽は、はるか昔の物語なのに、見物人たちの姿を新しい同時代の装いに変えて描きました。屏風を見た人びとには、現実感あふれる、生き生きとした場面にうつったことでしょう。

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