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【映画感想文】劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCEで、推し・須郷徹平への理解が深まった

 近未来SFアニメ『PSYCHO-PASSサイコパス』は好きですか? 私はとても好きです。
 じゃあ、地獄が服を着て歩いているような男は好きですか? 私は、(コンテンツの中に限っては)とても好きです。


『PSYCHO-PASS』の概要

 舞台は、人間の心理状態や性格傾向を数値化する〈シビュラシステム〉が導入された西暦2112年の日本。『PSYCHO-PASS』でのサイコパスとは〈シビュラシステム〉によって計測される数値を示します。(巷でよく聞く“感情の一部が欠如している人間”を意味する“サイコパス”とは別物です。)
 特に、犯罪に関しての数値は〈犯罪係数〉として計測され、罪を犯していなくても規定値を超えれば刑事によって〈潜在犯〉として執行される(低殺傷弾による無力化、または殺傷弾を撃たれて体が爆ぜて死ぬ)……という結構な世界観。

こちらの銃型の武器〈ドミネーター〉が〈犯罪係数〉を計測、数値に応じた執行モードに入って、対象者への処置を決めます。(公式PVより

 『PSYCHO-PASS』は、こんな世界で生きる厚生省公安局刑事課の刑事たちを主役にした近未来SFアニメです。
 2012年のTVアニメ第1期から始まり、2023年までに全3期のTVアニメが放送され、総集編を除く劇場公開作品は3シリーズに渡ります。長年愛されているだけでなく、新作が製作され続けているというのがとても嬉しいですね。


 今回のエッセイは、2023年公開の『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』をきっかけにして書きました。

 そのため、過去作で須郷徹平が関連した部分について話題にしている箇所があります(逆に言うとそれ以外の話はしていません)。メインストーリーの結末に繋がる致命的なネタバレはしていませんが、須郷徹平の人生についてのネタバレは存分にしていますので、その点ご了承ください。

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の内容については、あらすじも何もかもすっ飛ばして、須郷徹平についてのことしか触れていません。
 ストーリー全体の結末に関するネタバレは含みませんが、須郷徹平の感情の発露については具体的に記載しています。その辺りご認識頂いた上でお読み頂ければ幸いです。

 なお、私はかれこれ10年近く『PSYCHO-PASS』のファンですが、ただのファンであって何の専門性もありません。このエッセイは丸っと私の個人的な考え方を綴ったものなので、もしご自身の解釈と違う部分があった際には、ぜひご自身の解釈を大事にしてくださいね。私は特に、何か議論がしたいわけではないので、その点ご容赦を。

1回目の鑑賞時に貰った特典は設定集でした。


私の推しは須郷徹平

 『PSYCHO-PASS』は重厚なSFであり刑事ドラマ。緊迫感のあるストーリーが魅力の作品かつ、この世界で生きる公安局刑事課のメンバーが大変魅力的です。アニメを見たことがない人でも、常守朱つねもりあかね狡噛慎也こうがみしんや槙島聖護まきしましょうごといった名前やヴィジュアルに見覚えがあるかもしれません。

 そんな中、私が特に好きなのは須郷徹平すごうてっぺい
 誰? 須郷徹平って。
 推しを聞かれ名前を言う度に、割と長い間私はそう言われ続けて来ました。(今、ここに何の画像も貼り付けていないのは、ぜひ顔を自力で思い出していただきたいからです……。)

 彼は2期1話で初登場したキャラクターで、所属は公安局刑事課。〈潜在犯〉の中で適性があると判断された人が就く職〈執行官〉として登場します。
 生真面目で物静か、表情もあまり変わらず、いつももさっとした緑色のジャケットを羽織っていて作画もあまり力が入っていなそう……。とにかく地味で目立たない須郷徹平。(この頃の姿を、思い出していただけるでしょうか……。)
 
 そして、TVアニメ2期でちょっと目立ったと思ったら……。

第4話『ヨブの救済』
 複数の執行対象者の犯罪係数のみが見える環境の下で、「犯罪係数が高い方を撃った」という理由で上司・青柳を執行(無力化ではない方の執行)。

第6話『石を擲つ人々』
 元職場の軍事ドローン工場で事件が発生。軍事ドローンの特徴を知っている彼が立案した作戦を実行する際、「(失敗しても)自分が死ぬだけです、損害とは言えない」と自己犠牲の極みな発言をしたのち、怪我をして退場。次に登場したのは第11話。

 私は、この『ヨブの救済』と『石を擲つ人々』で須郷徹平のことが好きになったのですが、どちらも作中屈指のグロさ&エグさを誇る話なので、あまり見返したくないんですよね……。

 まるで、地獄が服を着て歩いているような男……意図せず地獄を生み出し飛び込む男、無自覚な死神……(そういうキャラクターが私は好きです)。作中では、辛い役回りになることが多い人です。


出番が増え始めた推しに喜びと戸惑いを隠し切れないオタク

 無事に2期を生き抜いた須郷徹平ですが、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』でもほとんど出番がなく、口数が多くないし印象も薄いです。
 でも、必ず居る。
 そんな須郷徹平が、なんとその後公開された映画三部作『PSYCHO-PASS Sinners of the System』の『Case.2 First Guardian』で主役の一人として登場します。

 👆ほら、サムネに居る!

 この辺りから完全に作画が美男子になり、全体的にシュッとした雰囲気になった須郷徹平(上記公式Twitterの画像、2枚目のアップの顔が該当します)。国防軍の元パイロット(しかも腕利き)である過去、軍人時代に青柳・征陸という刑事課の2人と出逢っていたことが明かされ、公式からの須郷徹平に関する情報開示が一気に進みました。
 特に、〈シビュラシステム〉による適職診断で職業が決まる『PSYCHO-PASS』の世界で、須郷徹平が軍人に割り振られていたことが大変興味深かったのです。彼は「人を殺してもサイコパスが濁らない(数値が安定している)ので軍人に向いている」と判断された訳ですから。

 地味で真面目で誠実、軍時代の仲間ともよい関係を築いていた男が、そもそもそんな風に〈シビュラシステム〉に認識されていたのが意外でした。刑事課の青柳・征陸両名との出会いが、彼の正義感に大きく影響を与えたのも、須郷徹平が素直で実直な人だったからと言えるでしょう。(でも、須郷徹平が入局時点で征陸は殉職。青柳は……と思うと辛いですね。)

 こんな風に、出番が増え考察が出来るほど情報量も増えた須郷徹平を眺めながら、私は思いました。

 須郷徹平、死なないよね?

 国防軍パイロット→軍事ドローン工場エンジニア→外務省行動課、という結構華麗なキャリアを積みながら、幸いなことに須郷徹平はTVアニメ第3期を生き延びました。出番が多かったわけではないので、それはそうなのですが。
 出番が増えると推しが死ぬ確率が上がるからほどほどにしてほしい、しかし活躍はしてほしい。
 複雑なオタク心。私のようなオタクとは、そういう面倒くさい生き物なのです。

自宅にあった『PSYCHO-PASS Sinners of the System』関連グッズの一部。アクリルスタンドって人生で初めて買いました。現時点で、所有するアクリルスタンドはこちらの2枚だけです。


『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の須郷徹平

 2023年5月公開の本作、内容については色んな方が知的な考察をしてくれています。人間模様のエモさや〈シビュラシステム〉への懸念などについては、皆さんの素晴らしい考察をぜひご参考になさってください。
 私がここで書き残しておきたいのは、我が推し・須郷徹平についてです。

予告編に一瞬×2回くらい写っていたのを見た私の最初の感想は、「死ぬなよ!」でした。(公式予告編より

 私は、本作を見て須郷徹平についてやっと少しだけ理解が深まったと思いました。初登場から早幾年月、ついに、(作中で言う)現在の彼が心底嬉しそうに笑いガッツポーズをして、「Yes!!!」と叫ぶ姿が見られたのですから。
 須郷徹平、こういう時に笑って、そんな風に笑うのね……。感慨深さったらありませんでした。
 
 今までずっと、とにかくお腹が痛そうな表情ばかりを浮かべて来た須郷徹平。彼が先述のような感情の発露を見せたのは、「戦闘機に乗ってパイロットとして敵の設備を破壊する」という命懸けの任務が達成出来た瞬間。敵を無力化出来た瞬間です。
 『PSYCHO-PASS Sinners of the System/Case.2 First Guardian』で語られた国防軍のパイロットだった頃の飛行スキル、そして人脈を生かした任務で、須郷徹平の任務失敗=メインの作戦の失敗という立ち位置でした。
 それを見事達成し、戦いに勝利した瞬間に眩しい笑顔を見せた須郷徹平。
 控えめな彼がようやく見せたポジティブな反応に、私はやっとこさ、須郷徹平という男の本質を見た気がしました。
(余談ですが、この作戦の時サポートしていたのは雛河でした。かつて彼を潜在犯として身柄確保したのが青柳と須郷徹平だったことを思うと、この場面の趣深さが増します。)

須郷徹平は、大体いつも辛そうな表情ばかり見せる人でした。(公式予告編より


須郷徹平が「人を殺してもサイコパスが濁らないので軍人に向いている」のはなぜか

 ずっと疑問だったんです。仲間想いで優しくて誠実な人が、どうして〈シビュラシステム〉にそう判断されたのか。でも、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』を見てやっとわかりました。

 須郷徹平は恐らく、「殺人行為への罪悪感」よりも、「組織への忠誠心」や「自分のスキルを最大限に発揮して与えられた役割を全うする充足感」更に言えば、「任務を通して仲間/誰かを救う喜び」の方がはるかに上回るのでしょう。
 だから、「誰かを救う」の究極の職業である軍人に適性があった。医者や政治家や保育士ではなく、軍人に。

 素直で実直な性格は、「何らかの組織に加わり仲間と共に任務を遂行すること」、「上官命令に自分のスキルを持って応え、喜びを覚えること」に向いています。恐らく彼は、快楽や好奇心のために殺人をするタイプではなく、自分で組み上げた理想の下で大量殺戮を陽動する人間でもないでしょう。彼には、自分が忠実であるべき命令・任務・上司・仲間が必要です。

 上官命令に忠実な生真面目さ、「仲間のため」と言われれば疑問を持たず前向きに遂行出来る素直さ、命令を的確に達成出来る有能さ。つまり残念なことに、須郷徹平は「上官に都合よく利用される」という役回りに向いています。
 これが、須郷徹平の地獄と葛藤の根源と言えるでしょう。

 例えば、『PSYCHO-PASS Sinners of the System/Case.2 First Guardian』で彼は支援物資だと聞かされてある荷物を投下します。それが周囲の人間を殺傷する毒ガスであることを知らされたのは、須郷徹平が任務を無事遂行し終えた後でした。
 任務としては成功。軍人であればそれで十分です。しかし彼は喜びませんでした。須郷徹平にとって最大と思われる「任務を通して仲間/誰かを救う行為」とは真逆の役割を果たしてしまったからです。

『PSYCHO-PASS Sinners of the System』のパンフレット。軍人時代の須郷徹平は緑のつなぎを着ています。

 過去の須郷徹平と、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の様子を見比べ、私は思いました。
 須郷徹平は人殺しに向いているのではなくて、人に対して誠実であること・忠誠を誓うこと、与えられた役割を全うすること、そしてその結果誰かを救うことに明確な喜びを感じて生きられる人なんだと。それが罪悪感を遥かに上回るから、軍人に向いていたのだと。
 これは、TVシリーズで彼が言った「(作戦が失敗しても)自分が死ぬだけです、損害とは言えない」にも通じる考えです。でも、今の彼は任務を達成してガッツポーズが出来るまでに自分を取り戻しました。

 『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の須郷徹平がピンチに陥りながらも死ななかったのは、自分が死ねば作戦に参加している多くの人が危機に瀕するとわかっていたから。だから彼は死にませんでした。
 もしかしたら、これからの彼も「自分が死んでも損害とは言えない」といった精神構造で動くことがあるのかもしれませんが。
 誰かのために生き延びようと操縦桿を握る彼の姿は、戦闘機の機影は。これまでのどの須郷徹平の戦いよりも、とても眩しく見えました。

2度目の鑑賞時に貰った特典。ありがとう、ありがとう……。この作品をずっと好きでよかった。


須郷徹平、頼むから生き延びて

 話が長くなりましたが、私の心境を一言で纏めるとこれです。
 頼むから死なないでくれ、須郷徹平。

 余談ですが、私は長年、「推すと推しが死ぬ」という体質に悩まされてきました。例えば、100以上はキャラクターが居るであろうMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)では、的確に私の推しが死んでいます。

 他にも、思い返せば色んな推しが死んできました。『PSYCHO-PASS』だって、既に……(心の中でお線香を灯しながら)。
 ですが須郷徹平は、あらゆるコンテンツをひっくるめた最推しに近いにも関わらず生きている貴重な存在です。それどころか、メインを張る映画が公開されたのを皮切りに、グッズ化される機会が増え、他のキャラクターたちと共にあらいぐまラスカルとコラボしたり、ジョイポリスでバイトしたりしています。

推しがこうした場面に滅多に出ないので記念に買ったけれど、使いどころを見失って未開封なラスカルコラボのグッズ。見えにくいですが、須郷徹平がラスカルの頭を撫でています。格好を見るに、このラスカルも軍人のようです。

 そして、2023年には書店コラボで好きな本を披露していたり……。

 須郷徹平をイメージする香水の内容が発表され、予約も開始していたり……。

 日に日に強まる存在感。こうなると、オタクが考えることはただ一つ。

 須郷徹平、死なない?

 幾度となく推しの死を見届けて来たオタクは、常に怯えているのです。
 須郷徹平、頼むから長く長く生き延びて、画面の端っこでいいから生き続けて。そして時々でいいから活躍して、死ぬ前に何とか画面の外に逃げ切って。
 それかせめて、死ぬ時はストーリーに爪痕を残す見せ場と意味を持って死んでくれ。

 いや、そうじゃないんです。
 たとえあなたが、数値に支配された馬鹿みたいに綺麗な地獄に生きていたとしても。

 須郷徹平、頼むから幸せになってくれ。
 そして頼むから、どうか生き延びて。


(👇こんなに大きくコミックスの表紙になって大丈夫……? 死なない……?)

 須郷徹平をおさらいするならこれらもおすすめです👇



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※追記
公式マガジンに本記事が追加されました。ありがとうございます。

アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』公式サイトはこちら。

その他、映画感想文はこちら。

アニメ感想文はこちら。

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© 2023 Aki Yamukai

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