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『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』

『新人世の資本論』で資本主義の限界と脱成長という新しい理想を説いた東大准教授で思想家の斉藤幸平氏が、2年間かけて日本の「現場」をめぐり、実際に「コモン」を実践している人々に出会ったり、自ら体験してみたりした記録。 毎日新聞に連載されたものを加筆修正して出版したとのことで、一つ一つのエピソードが読むのにちょうど良い長さで構成されており、肩肘張らずに読める本になっています。 本のタイトルになっているように、実際にウーバーイーツの配達員になってギグワークを経験してみたり、コロナ禍時

    • 『1100日間の葛藤』

       読書の魅力は様々ありますが、期せずして想像を絶する試練を余儀なくされた人々の心中を追体験できる手記の類は私の好きなジャンルです。これまでも、STAP細胞騒動の小保方晴子さん、在任中のスキャンダルで辞職に追い込まれた元都知事の舛添要一さん、麻原彰晃の娘に生まれたというだけで特異な人生を運命づけられた松本麗華さん、脱北後に独学で英語を学び世界中で講演活動をしているパク・ヨンミさんの本などを読んできました。  今回は、コロナ禍のあの頃、毎日のようにテレビで見たあの「尾身さん」の3

      • 『菜の花の沖』

         ひとつ前の読書感想文をポストしたのが8月。実はこの間、司馬遼太郎の長い長い小説を読んでおりました。  江戸時代後期に北前船の海運業を営んだ高田屋嘉兵衛の生涯を題材にした物語です。  淡路島の小さな村の水呑百姓の子息として生まれた嘉兵衛は、船員の最下層であった炊事係から身を起こし、やがて船頭となって北前船の海運業で大きく成功する一方で、しだいに商売よりも船乗りとして蝦夷からその先の千島列島に向かう未知の航路を開拓していくことに対し抑えがたいロマンを抱いていきます。そんなある日

        • 『The Climate Book』

           スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんと、彼女と志を一にする様々な専門領域のアクティビストの共著による、気候変動に関する本です。  いつも激しく怒っているグレタさんのイメージもあって、大人の事情を理解しない少女の喚きと侮り、好感を持っていない人も多いかと思います。実際、本書の内容はどれもこれも、エンジンメーカーで働いている私のみならず、資本主義体制の先進国の多くのビジネスマンにとっては恐らく愉快なものではありません。しかし、地球市民としての自分の思考のバランスを

        『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』

          『ベルトーニのデザイン活動の軌跡』

           この世で私が一番好きな車とその次に好きな車、シトロエンDSと2CVをデザインしたフラミニオ・ベルトーニの生涯について、長男レオナルド氏やシトロエン社での一番弟子ロベール・オプロン氏への取材などをもとに、自動車ライターの大矢アキオ氏が一冊の著書にまとめたもの。ある日なぜか会社の売店で無造作に売られていたのを見つけて衝動的に買ってしまいました。  そう。あのフランス車の中でも最もフランス的な車を手がけたのは、名前から分かるように実はイタリア人なんです。ベルトーニが雇用された時代

          『ベルトーニのデザイン活動の軌跡』

          『うちの父が運転をやめません』

           書店で何となく題名が目に留まり、題名だけで選んでみた小説です。  私は車と車の運転が何より好きで、元気でいる限り死ぬ前の日まで運転し続けたいと思っていますが、現実はそうはいかないんだろうな。そんなわけで、果たして何歳まで運転を楽しめるんだろうか?というのはずっと関心事です。  東京で暮らし、共働きの妻と高校に通う一人息子を持つ50歳代のオジサンがこの小説の主人公です。過疎化が進み、自家用車以外の交通手段がほとんど無い地方に年老いた両親がいて、テレビで痛ましい事故のニュース

          『うちの父が運転をやめません』

          『アマゾンが描く2022年の世界』

           立教大学ビジネススクールで教鞭を取る著者によるこの本、実は2018年に上梓されたもの。2023年に読んでみたら、なかなか面白い頭の体操になりました。  2018年当時といえば、アメリカでスマート店舗のAmazon Goが開店したり、アレクサを搭載したAmazon Echoが発売されてスマートホーム時代の幕開けといった時代でした。既にAWSは世界最大のクラウド事業に成長していたし、Fulfillment Centerというスマート物流拠点の展開でも圧倒的な存在になっていました

          『アマゾンが描く2022年の世界』

          My Honda Beat is now carbon neutral thanks to web3

          My Honda Beat has been with me for almost 30 years now. I think I would continue to go with her for as long as possible. However, now is the time for decarbonization, and that has become a problem for old car enthusiasts.  Recently, th

          My Honda Beat is now carbon neutral thanks to web3

          Web3でBeatをカーボンニュートラル化

           かれこれもう30年近く大切に乗ってきた私のビート。この先もできる限り長く乗り続けていきたいと思っています。  しかし、時代は脱炭素。旧車愛好家にとっては悩ましいことになってきました。  最近は、ヒストリックカーのエンジンを下ろして、代わりに電動パワートレーンを搭載する「EVコンバート」という技術も進んできましたが、やっぱりエンジンのサウンドや振動も捨てがたいと考える方も多いと思います。  そこで、EVコンバートよりずっと簡単に、しかも車そのものを一切改造することなくカーボン

          Web3でBeatをカーボンニュートラル化

          『一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養』

           最近「教養としての〇〇」が流行ってるんですかね。こういうタイトルを付けると本が売れるということなのであれば、皆そんなに教養がないことにコンプレックスを持ってるのかな。  日本の受験システムのせいで、文系学生の物理は中卒レベルに留まっているということに危機感を抱く著者が、高校レベルの物理を優しく再学習させてくれる本、という触れ込みです。高校時代は部活や行事にばかりうつつを抜かしていた私にとっては「再」学習とすら言えません。  胃カメラやインターネットケーブルの光ファイバーを例

          『一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養』

          『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』

           人生には笑いが必要。世界中の人を笑わせたい。笑いで平和な世界を作りたい。  言わずと知れた喜劇王チャップリンについて、研究者であり日本における権利の代理店でもある著者が解説した本です。  イギリス生まれのチャップリンがアメリカに渡った当時、映画は最新のメディアでした。今ならユーチューバーかティックトッカーと言ったところですかね。当時は無声映画しかなかったので、チャップリンは得意のパントマイムで「あの」チャーリーと言うキャラクターを作っていきました。途中でトーキーという新技術

          『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』

          『Web3とDAO誰もが主役になれる「新しい経済」』

           ビジネスマンやっててずっと感じている素朴な疑問。なぜ企業は成長し続けなければいけないのか?  資本主義経済は競争が原動力だから、皆が負けないように成長戦略を描いて頑張る。でも、競争は必ず勝者と敗者を生む。だから実際は成長を目指して頑張っても、その度合いが競争相手と同じなら結果引き分けが基本。  そうやってGDPがどんどん拡大してきた結果、もはや地球が壊れてしまうかも、というところまで来てしまった。実際は地球はびくともせず、ただ人間が住めない星になってしまうというだけのことだ

          『Web3とDAO誰もが主役になれる「新しい経済」』

          『忘れる読書』

           タイトルに心惹かれて手に取りました。  私が読書の楽しさに目覚め、習慣的に本を楽しむようになったのはかなり遅く、40歳前後の頃です。最初の頃は一冊一冊が新鮮で、具体的な内容を割と覚えていることができましたが、蓄積されてくるとさすがに覚えきれなくなってきて、さてどうしたもんかな?と考えるようになりました。ここ数年、忘備録がわりにしょうもない読書感想文をFBに残すようにしたのも、そんな動機からです。  著者の落合陽一氏は、桁違いの読書家のようですが、物知りであることの価値が著し

          『忘れる読書』

          『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』

           50歳を過ぎると、キャリアパスも自ずと「残り時間からの逆算」で考えるようになります。  日本の会社の「定年制」がある限り、会社員は何歳かは別としていずれ卒業の日は来ます。サンデー毎日にも漠然とした憧れはありますが、結構すぐ飽きちゃうような気もして、やっぱり元気なうちは働いていたいなと思います。  ということで、わくわくするような生涯現役のひとつの姿として、起業の世界を覗いて見ました。著者自身が会社員を経て起業した経験を織り混ぜながら、迷っている人の背中を押す内容です。メディ

          『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』

          『ぼくらは嘘でつながっている』

           嘘をついてはいけません、と教えられて育ってきましたよね。  でも、お元気ですか?と声をかけられて、お陰様でと言うのも嘘。  空想上の物語は嘘。会社の将来戦略も予算も嘘。  不治の病を本人に告知しないことも嘘。  誰もが履歴書に書いた志望動機も嘘。  サンタクロースも、神様も、お金に値打ちがあるというのも嘘。  事実と異なることを嘘と言うなら、私たちが事実だと思っている事柄も、実際に起きたことの中から、自分が興味があるあるいは自分に都合のいいところだけを恣意的に選び取って脳に

          『ぼくらは嘘でつながっている』

          『アイデアがあふれ出す不思議な12の対話』

          クリエイティブな人になりたいと思っても、どうしたらいいのか分からない。  クリエイティブであれと言われても、何から始めたらいいのか分からない。  そんな普通の私たちに、クリエイティブという言葉の代わりに、アイデアという言葉を多用してみましょうという提案です。  偉大な大発明ではなく、日常の不便を「ちょっとましにする」どこにでもある小さなアイデア。そのアイデアの一つ一つに「名前」をつけましょう。名前をつけることで、その小さなアイデアはレンガのように組み合わせることができる。

          『アイデアがあふれ出す不思議な12の対話』