095 遊戯王カードが好き(だった) <下>

(↓前回、前々回からの続きです)

『にんていカードの思い出』 -3-

7.
 ある朝、学校に行くと教室に人だかりが出来ていた。
どうやら、川口の机の周りに皆が集まっているようだった。

 「すげー!!!」

 にんていカードをリリースしたあの日と同じような、高橋ゆうやの歓声が聞こえた。
何だろう?と思い、人混みをかき分けると、川口が何かカード状のものをお道具箱に入れている。僕を見つけるなり川口は、得意げに話しかけた。

 「おう、やなせ。俺、新しくカードゲーム作ったんだ。お前もやる?」

 最初は意味がわからなかった。お道具箱の中を見ると、すべてが川口の絵で書かれたモンスターになっており、ルールは完全遊戯王準拠に改正、カードのサイズはすべて統一された、新しいカードゲームが入っているではないか。
なんと、川口はにんていカードの制作から離れ「にんていカードの弱点を全てカバーした新しいカードゲーム」を、独自に開発していたのだった。

 周りでは、もう既に新しい川口のカードゲームを手に入れた、高橋ゆうやを始めとする面々がデュエルをしている。

 理解できない戸惑いと、少しの憤りがこみ上げた僕の顔を見て川口は、「どうした?やらないのか?」と続けた。(あの顔を思い出して、こいつ洋画だったら絶対冷酷に人殺してるよ!!と思う)

無言でカードを引いた僕。
たしかにカードの大きさも絵も整っている。しかも、”にんていカード”という親しみやすい名前に対し、何か妙な横文字だったのが腹たった。覚えてないけど、”ポッショフォアファビオ”みたいな響きだったように思う。なんかの医学用語、病理みたいな。

 あの大人気だったにんていカードの弱点をカバーしたカードゲーム。流行るに決まっている。(だからどちらも遊戯王カードのパクリだと言っているであろう。 声:キートン山田)
なぜこんなことを…と無常感に包まれるほかなかった。

8.
 ただでさえ下火だった、にんていカードの人気は一気に地に落ち、誰もにんていカードをプレイすることも、話題にすることもなくなった。
クラスの話題の中心は、専らポッショフォアファビオ(みたいなやつ)だった。

 やりきれない思いの僕は、高橋ゆうやと並んで、にんていカードのヘビーユーザーだった平河かずきに「かずき、お前だけは、にんていカードをやってくれるよな!」と言った。藁にもすがる思いだった。
かずきはうん、と頷いた。

 その日はサッカー少年団がなく、まっすぐ家に帰った。
川口と同じ方向に帰りたくなかった僕は、逆方向のかずきの家のほうへ遠回りして帰ることにした。
話すことは主に、川口の愚痴、略して川愚痴だった。(こういうの思いついちゃうと我慢できない)

「…なんだよあいつ!!フザケやがって。こんなクソカード!!!」
川愚痴を話しながら、感情が高まった僕は、気おされて引いた川口の新カード3枚を、ビリビリに破って側溝に捨てて流した。
「これぐらいしていいよな!」と、かずきに言うと「うん、良い良い」と笑っていた。
行き場のない気持ちが何となく収まった僕は、Uターンして家に帰った。

 次の日は1時間目から音楽の授業だった。
音楽室に行くと、いきなり川口が僕の机に乗り出して、大声で怒鳴り付けてきた。

一体何だ?と思う間もなく、

「おい!!お前俺のカード、破って捨てたんだってな!!なんでそんなことが出来るんだよ!?!?」と問い詰められたのだ。

 僕は頭が真っ白になった。何故そのことを川口が……?だってあの時いたのは、僕と……

 怒鳴っている川口の後ろを見ると!ニヤニヤした平河かずきが立っていたのだった…

 「おい!なんとか言えよ!」と続ける川口。
たしかに、ビリビリに破って捨てたことは悪いと思っているが、そもそも出し抜こうとしたのはそっちで……
普段、言い合いもケンカも出来る仲なのに、その時は何も言葉が出てこなかった。

 その場でただただ大声で泣くしかなかった。という苦い、にんていカードの思い出だ。
 この話、杏里の『悲しみが止まらない』じゃないんだから!!にんていカード終わらせられて、川口にもかずきにも裏切られて!!!!!!神様いねえよ!!!と思った小4のある日だった。
https://www.youtube.com/watch?v=O5WNjvRgifU

 その後も泣き続け、「どうしたの?」という音楽の水見先生の問いかけにも応じることが出来ず、泣きながらリコーダーで宇多田ヒカルのFirst Loveを吹いたことは言うまでもない。(水見先生が好きな曲だった)
 First Loveの悲しい失恋の歌詞に共感して泣いていた訳ではない。だってリコーダーだし歌詞ないから。

9.
 その後、川口とは絶交した。
 そして、進路が分かれる中3まで、絶交してめちゃくちゃ仲良くなってを繰り返していた。

 その都度都度の理由が、俺と川口どちらにあるかわからないが、にんていカードの話はどう考えても川口が悪いだろ!笑
どうしてこんな残酷なことが思いつくんだ!?!?洋画の冷淡な殺し屋じゃねえか!!笑
しかも、川口のカードゲームも一週間ぐらいで終わっていた。本当に出し抜くためだけにやっていたのだろうか…

 川口と最後に会ったのは20歳ぐらいのときで、その日も楽しく飲んだ。
そこから会っていないが、結婚したという話を聞いた。奥さんに、にんていカードばりに残酷なことをやっていなければ良いのだが…
次に会ったら、にんていカードの話で「絵が下手以外に何か俺に落ち度があったのか」「完全に出し抜くためにやったのか」あたりを聞いてみたいと思う。マズい酒が飲めそうだぜ!!

 そして僕は今でも、友達と何か企てて作るのが好きで、懲りずにいろいろしている。
その過程で、今の所、にんていカードより悲しい思いはしていない。

<完>

うれしいです。