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100 アンパンマンが好き

『アンパンマンが教えてくれたこと』

1.
 皆ご存知かどうかわからないが、2019年は江戸時代ではないので、侍ではない我々も名字を名乗ることが許されている。

 名字が皆にあるということは、他人から見たその名字の響き・字面などに対してのイメージがある。
響き・字面以外にも、同姓の有名人から連想するイメージを当てはめられることもあると思う。

 武井ならスポーツできそう、立川なら毒舌そう、坂東なら金にがめつそう…みたいな。
一度「清原」という名字のAV女優を見て、そのネーミングセンスにキレそうになったことがある。(しかもギャルかよ!という)

 安藤なら安藤美姫、橋本なら橋本環奈、のように、名字に対して「その名字の代表」とされている人に当てはめてイメージを付けられがちだと思う。

 僕の場合は、やなせ姓なので、ずっと「やなせたかし」のイメージを付けられていて、初対面の人に名字を名乗るだけでアンパンマンいじりをほぼ毎回されてきた。
一度、飲み会で会った30代の公務員の人に、2時間でアンパンマンいじりを25回ぐらいされた時は流石に胸焼けしたし、終盤は「ええ、はい」ぐらいのリアクションしか本当に取れなかった。ああいう、ずっと一つの切り口でしか話してこない人って感情ぶっ壊れているのだろうか…

2.
 そんなわけで、人生でその名前を口にする・されることが多いこともあって、やなせたかし先生は他人とは思えない。
 更に、おじいちゃんが両方共に早くに亡くなってあまり接点もなかったので、勝手に、遠い親戚のおじいちゃんのような親近感を抱いていた。

 ずっとそう思い続けていたわけではなくて、8歳ぐらいになると「アンパンマンなんて子供の見るもんだよ」とココアシガレットを口にしながらマセたいガキの季節が訪れてから、20何歳までは何となくアンパンマン・やなせたかし先生とは疎遠だった。
大人になるにつれ、死を持ってなお語られる先生の功績や、偉大な仕事の数々を目にする度に、「いつかしっかりとやなせたかしの作品に触れたい」と思っていた。

 そして去年、氏の自叙伝『アンパンマンの遺書』を読んだ。
 文体の軽妙なテンポとほどほどに差し込まれる自虐・青年期から中々自分のやりたい”漫画”で芽が出なかった時代の苦悩・アンパンマン成立までの経緯や、そこに込めた哲学・奥さんとの死別、友達以上恋人以上夫婦以上の信頼関係などが非常に濃密にかかれていて、期待を上回る感動に打ちのめされた。
 いい映画を2本ぐらい見たような読後感だった。去年見た聞いた、映画・ライブ・音楽・お笑い・落語・本など全ての中でもマイベスト10に入るぐらい素晴らしい作品だった。

 何にでも影響を受けやすく更に中々冷めにくい僕は、やなせたかし先生を、心のおじいちゃんから、勝手に心の師と決めて、エッセイを書くときや作曲のときのペンネームの「柳瀬」を、師匠にあやかってひらがなにしたのだった。

3.
 - アンパンマンが嫌いな子供は、ジョニーデップが嫌いな女ぐらい居ない -

 これはカントの思想の根幹を体現する名言であるが、僕も全くそう思う。
アンパンマンを嫌いな子供を見たことがない。日本全国押しなべてアンパンマンフリークの子供たちで埋め尽くされている。日本列島は、アンパンマン好き子供列島である。

 かく言う自分も、自らの名字がやなせであることを認識する以前からアンパンマンが好きな子供だったし、母親の話では、初めて喋った言葉も6ヶ月のときの「アンパン」「バイキン」だったという。(2つ目に喋った言葉は「年金制度はいずれ崩壊する」)

 20代で自らに訪れたアンパンマン再評価の季節から「何故子供はアンパンマンが好きなのか?」と、ずっと考えていた。
加えて、「アンパンマンの遺書」を読んでの感動をもっと近くで感じたいという気持ちが日に日にましていたので、映画やドラマの聖地巡りのつもりで、横浜にあるアンパンマンミュージアムに足を運んだ。

 平日の昼間だったが、場内は親子連れで溢れかえっており、子どもたち、そしてお父さん・お母さんたちまでグッズを見たりしてキャッキャと楽しんでいた。

 くり抜かれた床に作られた、ガラス張りのアンパンマンのジオラマを、しゃがんで食い入るようにずっと眺めている子もいた。
まるでトランペットが飾ってあるショーケースを物欲しげに眺める黒人の少年のようだった。俺が黒人の大富豪だったら、彼にこのアンパンマンのジオラマを買ってあげるのに。でも他の子たちが見られなくなるからダメか…我慢してくれ、少年。そして俺も大富豪でもないし、めちゃくちゃに黄色人種だった。

少年は、「ほら、早く行くよ!」とお母さんに言われ、数分の耐久の挙げ句、腕を引きずられズルズルと何処かへ帰った。

4.
 そして僕も、改めてグッズや原作の絵本を見直して、魅了された一人だった。

 アンパンマンのフォルムの可愛さ・色々なキャラクターの多様性が受け入れられ皆が好き勝手生きている世界観・暖色やビビットな色でまとめられた色調…子どもたちが皆押しなべてアンパンマンフリークである、そのからくりが少しわかった気がする。
 絵本も、大人になって改めて見ると、予想を裏切られる展開が面白く、師の映画好き・漫画からの影響の蓄積を感じた。

 と、大人になった僕が出来るのは、その構成要素について拙い分析をするぐらいであった。

 アンパンマンのヘビーユーザーである子どもたち(ブックオフのヘビーユーザーは清水國明)にとっては、そんな分析は関係なく「ただただ好きだから!」が魅了されている理由だろう。
そして、そんな子どもたちにとって最強の「ただただ好き!」を作ったやなせたかし先生は、本を見る限り、人生の端々で、いつも色んな物に感動しながら生きておられるようだった。

 日々の、積もり積もった莫大な感動こそが、子供という”世界一率直な批評家”に届く「ただただ好き!」を作ったのだろう。
僕の拙い分析も、後から来たもので、アンパンマンミュージアムでグッズや作品を目にした時は、ただただ「かわいいよなあ」「良いよなあ」という感想が第一に訪れた。
自分も、やなせたかし先生の”生涯感動”の姿勢に倣って、今年も毎日のようになにかに感動したり笑ったり泣いたりしながら過ごしていけたらと思った。

そして、一生のうち1個ぐらい、誰かにとって「ただただ好き!」な物が作れたら嬉しいと思う。

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▼アンパンマンをかぶっているばいきんまんと、ばいきんまんをかぶっているアンパンマン。何となく「和解」感が漂う。かなり可愛いと思う。

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▼ジャムおじさんのパン工場でパンを買った。マイナーキャラ二人だけどめちゃくちゃ美味しかった。子供向けにパン生地が甘くなっているけど、しょっぱいパンの風味も邪魔していなかった。

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▼他にも種類がたくさんあって、キャラクターにちなんだ味になってる。こむすびまんの「おはぎ入りパン」は、地方のサービスエリアとかで売ってそうだなと思った。

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▼アンパンマンの顔が書いてあるたまごボーロ。たまごボーロといえば赤ちゃん御用達のお菓子。それとアンパンマンの組み合わせは最強だろう。


うれしいです。