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vol.36 変わり続ける財務諸表

記事の全体像

はじめに

会計の専門家でなくとも、「財務諸表」 (e.g. 貸借対照表や損益計算書など) という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。株式会社という組織は世界中に存在しており、多くの国で経営を定量化すべく財務諸表が作成されています。財務諸表を作るにあたって様々なルールが設けられており、これを一旦会計ルールと呼ぶこととします。

この会計ルールですが、各国がそれぞれのルールを持っており、経済のグローバル化と共に、会計ルールもグローバルで統一しよう、という動きが出てきました。この流れ、今では国際会計基準審議会という団体が、国際財務報告基準 (「IFRS会計基準」) というグローバルな会計ルールを設定しており、実際にIFRS会計基準は多くの国で利用されています。

2024年4月9日、この国際会計基準審議会が、新しいIFRS会計基準であるIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表しました。今回の第18号はIFRS会計基準を適用する限り、基本的にはすべての会社で対応が必要な内容であり、今後日本の会計ルールにも少なからず影響を与えるものと想定されます。

そこで今回は「変わり続ける財務諸表」ということでIFRS第18号をとりあげてみたいと思います。


なぜいまさらルールを変えるのか?

会計には長い歴史がありますが、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表はすでに十分な時間の洗練を受けてきたものとも思われます。一方でIFRS会計基準は多くの国を束ねるべく、財務諸表をどう表示・開示すべきかについて、大原則のみ定め、あまり細かなルールを設定していませんでした (原則主義)。この結果、例えば以下のような弊害が段々と気になるようになってきました。

  • 損益計算書の小計を様々な形で表示しており、比較ができない。例えば「営業利益」という名称に対し、いくつか異なる内容が認識された。

  • ある取引の数値を一つの科目にまとめた結果、中身がよく分からない。例えば「その他」という科目に色々な項目が集計されすぎている。

  • 財務諸表とは別に業績指標を開示しており、本表との関係が分かりにくい。例えば「調整済EBITDA」という項目を開示しているのに対し、どのように算出しているのか、監査済みの損益計算書との関係が分からない。

そこで今回新しい会計ルールを導入することにより、財務諸表の表示・開示方法に関する従来の多様性を統一し、比較可能性を向上させることがIFRS第18号のねらいとなっています。

結局何が変わるのか?

IFRS 18号では、以下主に三つの内容を要求しています。

1 損益計算書

損益計算書を5つの区分 (営業、投資、財務、法人所得税、及び非継続事業) と三つの小計 (営業損益、財務及び法人所得税前純損益、純損益)によって表示する。

2 集約と分解

単に「その他」という科目を安易に用いることはできず、事前により追加の情報を提供できる名称はないか、あるいは集約された数値に関する追加説明を付すべきではないか、等を考慮する。

3 経営者が定義した業績指標

何が経営者が定義した業績指標 (Management-defined Performance Measures, 「MPMs」) となるのかを明確にした上で、MPMsに関して開示すべき事項を定め、一カ所で注記を行う (結果、監査対象になる)。

いつから適用になるのか?

2027年1月1日以降開始する事業年度からの適用が強制されます。若干専門的な話とはなりますが、IFRS第18号の適用に際しては、比較する前年度についても遡及的な適用が要求されるため、会社は適用開始前に準備を進める必要が生じてくるものと思われます。

記事の全体像 (再掲)

おわりに

今回は「変わり続ける財務諸表」ということでIFRS第18号の概要をまとめてみましたがいかがでしたでしょうか?

今回IFRS第18号が公表された後、会計ルールそのものに加え、様々なメディア (文書、音声、動画等) にあたりました。

「英語」というユニバーサルな言語に「インターネット」というテクノロジーが組み合わさった結果、IFRS第18号の情報が瞬時に世界中を駆け回り、グローバルレベルでこの新しい会計ルールへの対応が始まっていくという事象を目の当たりにしました。例えばYouTubeでIFRS第18号の解説動画を検索し、ある動画を聞いていたところ、一つの解説動画が終わると、様々な言語の解説動画が次々と再生されていくという状況になっています。

世界で会計ルールを統一しよう、とする野心的な試みは、我々が日々直面している情報革命により一層加速していくことでしょう。今後もIFRS第18号の導入が各国において進められ、グローバルな市場での財務諸表の比較可能性や透明性が高まることを期待したいと思います。

この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。


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