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vol.27 ワークとライフの一体化

はじめに

かなり古いですが、先日1936年の映画「モダンタイムス」を見ました。

チャップリンは、労働者の苦悩と希望をユーモアで表現して、技術進歩と人間性の葛藤を描き出しています。

この映画が作られてから数十年が経過していますが、日本社会を含む世界中の働き方はその後大きく変化しており、働くこと、つまり「ワーク」について考えさせられました。

そこで今回は日本の働き方を振り返ると共に、私がフリーランスになって日々直面するワークとライフの一体化という状況についてとりあげてみたいと思います。


1 働き方の変遷

(1) サラリーマン (大正)

今から約100年前に「サラリーマン」の原型が生まれたと言われています。1918年 (大正8年) に第一次世界大戦が終わり、その後工業生産が急激に拡大しました。ちなみに1919年 (大正9年) に日本初の労働争議が神戸であり、8時間労働発祥の地の記念碑が建てられています。

(2) 終身雇用 (昭和)

1954年 (昭和29年) 以降、日本が高度経済成長期に入ると、長期的な人材育成目的で労働力強化を図るべく「終身雇用」が生まれました。この時代は「会社人間」として深夜まで働くことが美徳とされる時代でもありました。

ちなみに「終身雇用」というと日本固有の労働慣行のようにも思いますが、米国でも似たような時代があったようです。

オーガニゼーション・マンは、当時のアメリカの典型的な労働者だった。そのほとんどは男性で、大組織のために個性や個人的目標を押し殺した。この禁欲の代償として、組織は定収入と雇用の安定、そして社会における居場所を提供した。

人々は会社に言われた通りに働き、会社の方針に疑問を差し挟むことはほとんどなく、転職することもめったになかった。一方、会社は事実上、終身雇用と安定した給料、それにある程度決まった額の企業年金を従業員に保障した。

Daniel H. Pink フリーエージェント社会の到来

(3) ワーク・ライフ・バランス (平成)

1989年 (平成元年) に39,000円に迫る勢いだった日経平均株価が1990年 (平成2年) に暴落し、日本経済は急速に悪化しました。このバブル崩壊は多くの企業の倒産を引き起こし、デフレ経済へと突入。企業は生き残りをかけてコストカットに全力をあげた結果、労働者の負担は急激に増加し、働き方改革が必要とされるようになりました。

ワーク・ライフ・バランス (「WLB」) はこのような時代背景から生まれた概念であり、以下のように定義されます。

働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外の生活でやりたいことや、やらなければならないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現できる状態のこと

厚生労働省 男性が育児参加できるワーク・ライフ・バランス推進協議会

(4) ワーク・ライフ・インテグレーション (令和)

2020年 (令和2年) のパンデミックの際、日本でもテレワークが爆発的に普及しました。在宅勤務中にワークとライフが複数回繰り返され、だんだんと両者の区別が曖昧になりました。

ワークとライフを対立させそのバランスに着目するのではなく、両者の統合、つまりワーク・ライフ・インテグレーション (「W&LI」) のほうがより実態に近くなってきているものと思われます。

なお、W&LIは以下のように定義されます。

会社における働き方と個人の生活を、柔軟に、かつ高い次元で統合し、相互を流動的に運営することによって相乗効果を発揮し、生産性や成長拡大を実現するとともに、生活の質を上げ、充実感と幸福感を得ることを目指すもの

経済同友会 21 世紀の新しい働き方「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して

WLBとW&LIは言葉のひびきも似ていて混同しやすいですが、以下の経済同友会資料の図を見るとその差異が分かるかと思います。

経済同友会 21 世紀の新しい働き方「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して

労働者の働き過ぎが社会問題となった平成における「過労死」という言葉はそのまま英語にもなりました。そこでワークとライフを二項対立として捉え、ワークからのストレスを軽減する手段としてのライフと位置付けたものがWLBでした。

その後女性の活躍、育児や介護、定年延長、副業、およびリスキル等、労働者が人生のライフステージによって直面する課題が飛躍的に増えている中、テクノロジーの活用と共にワークとライフとの統合が進んだものがW&LIという位置付けとなります (パンデミックによりこの動きをさらに加速)。

以上、日本における働き方の変遷を見てきました。次のセクションではこのような時代のうねりのなかで私が感じてきたことをまとめてみます。

2 監査法人および独立後の働き方

(1) 監査法人 (平成と令和)

私は前節 (3)で述べた平成の時代に某監査法人の門戸を叩きました。その後25年間お世話になりましたが、バブル崩壊やその後の急激な景気後退を受け、様々な不適切事例が相次ぎ、その結果、会計基準や監査基準等の改訂が継続して行われた時代です。

監査法人やそこに勤める会計士の方は真面目で高い志を持っており、会社でインシデントが発生したり、基準が改訂されたりする下でも、みなさん本当によく働いていました。また、当時は日中は監査現場、夜は事務所に戻ってまとめ、という作業を繰り返すことが多く、育児を抱える専門家が定着しづらいという課題も抱えていました。

監査法人側はWLBの対策 (i.e. テクノロジー導入による働き方支援、育児サポート) をタイムリーに立案・導入し (世の中の平均的な動きよりも早かったと感じます)、少しずつではありますが、状況は変わっていきました。

前節(4)で述べたパンデミックが起こった後も速やかに原則在宅勤務体制になり、一気にビジネスチャットツールやWeb会議によるコミュニケーションが普及していきました。当然結果は求められますが、オンラインでチームとコミュニケーションがとれ、関与先の理解も進みましたので、同じ1日の中でワークとライフを交互に繰り返すスタイルとなっています。

(2) 独立後 (これから)

WHO=世界保健機関は2023年5月5日に新型コロナ「緊急事態宣言」終了を発表し、日本では同年5月8日から新型コロナは季節性インフルエンザと同じ「5類」へと移行しています。

私は、マスクなしで外出したり、食事をとる日常が戻りつつある同年9月末に前職を退職し、10月からはフリーランスとして活動を開始しました。

フリーランスになるといつ起きてもいつ寝ても私次第、つまり良い意味でも悪い意味でも「自由」となるわけで、今まで以上にワークとライフの切り替えが頻繁に起こり、時に区別することが困難と感じることさえあります。

このような状況の下、以下のようなことを考えることが多くなりました。

(a) どうすれば本当に取り組むべき内容に集中できるか? 

(b) どうすれば自分が没頭するアイデアに出会い、他者と差別化できるか?

  • アートに触れる

  • 色々な人と話す

  • 場所を変える、など

これら私が体感していることをふまえ、次のセクションではこれからの働き方「ワーク"アズ"ライフ」に触れてみようと思います。

3 これからの働き方 「ワーク"アズ"ライフ」

テクノロジーの進化や働き方の多様化と共に、ワークとライフの融合はさらに加速し、一体化していくものと考えます。

例えば落合陽一さんが提唱しているワーク"アズ"ライフ (「WAL」)、つまり今後は仕事とプライベートを分けず、全てが仕事であり趣味という考え方に向かっていると思います。

今の時代であれば、1日4回寝てもいい。1日4回寝て、仕事、趣味、仕事、趣味、仕事、趣味で、4時間おきに仕事しても生きていける。仕事か趣味か区別できないことを1日中ずっとやってお金を稼いでいる人も増えてきた。クラウドファンディングで、レジャーと仕事の中間のような行動をして、それで対価をもらっている人も増加している。

落合陽一 超AI時代の生存戦略

現代のように新しいアイデアが求められ、失敗を恐れず試行錯誤を繰り返すような世の中になると、ワーク、ライフの区別はなくなっていき、今まさに取り組んでいるものから面白いアイデアはないか常に自分が考えることが重要になってきます。

WALという文字を見ると、「一生仕事なの?」 とうんざりする方もいるかもしれませんが、仕事 = 苦行という概念自体は古くなりつつあり、人生は自分が心から楽しめるものを探す旅と捉え直すことが必要なのかと考えます。

4 まとめ

ワークとライフの相対関係を日本の働き方と共に振り返り、「ワークとライフの一体化」としてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

一体化の考え方の一つであるWALですが、サラリーマン以前の時代に逆戻りしているようにも思え興味深いです。実際工業化以前の人類の働き方を調べてみると、ワークとライフが一体化していた実態が浮き彫りとなります。

産業革命以前の社会では、労働空間や労働時間などがきちんと決まっておらず、労働と余暇の境目はあいまいでした。例えばアメリカの鍛冶屋を例にとると、家の敷地内で仕事をしながら、合間に少し休んだり酒場に行ったりしていました。ただ「この地域の鍛冶屋=自分」という労働によるアイデンティティの形成は容易でした。

板津 木綿子 労働の変化とともに変わってきた余暇の過ごし方

テクノロジーの進化と共に仕事がなくなることを危惧する記事をよく見かけますが、実はテクノロジーとの共存を通じ、より人間らしい、工業化以前の生活に回帰しようとしているのかもしれません。

おわりに

この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。


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