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やっぱり生の演奏は最高!ピアノリサイタルに行ってきました。

「”帰ってこいよ”が来るよ。生の演奏が聴いてみたいね」と夫が私に一言。

”帰ってこいよ”とは、ピアニストの小山実稚恵さんのことです。

テレビで演奏を聴く機会が度々あり、
力強いのに力みの無い明瞭な音と、ピュアでシンプルな演奏に心惹かれるものがありました。

それもそのはず、小山さんは人気・実力ともに日本を代表するピアニスト。
1982年チャイコフスキー・コンクール第3位、1985年ショパン・コンクール第4位と、二大国際コンクールに入賞した唯一人の日本人。

また、演歌歌手の松村和子さん(「帰ってこいよ」が1980年にヒット)に、顔とヘアスタイルが、似ているのです。
知っている人(芸能人ですが)に似ていると、妙に親近感が湧くもの。

テレビで演奏を聴くたびに「”帰ってこいよ”のピアノ、いいよね~」と、
いつの間にか、夫婦共に好きなピアニストの一人に。

我が街で、小山さんのリサイタルがあることを知った私たち。
でも、ピアノリサイタルは未経験。
ピアノの演奏だけで、飽きずに長時間、座って聴けるのか不安です。
リサイタルのプログラムを調べてみると、

小山実稚恵ピアノシリーズ
「ベートーヴェン、そして・・・」
第3回〈知情意の奇跡〉
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第30番 
バッハ:ゴルトベルク変奏曲

タイトルは知っているが、聴いたことのない曲です。ハードル高そう。
でも、やっぱり小山さんの生の音を聴いてみたい!とチケットを購入。

リサイタルに行くにあたって、私は心配事がありました。
私はコンサートで幾度も「寝落ちした前科者」だからです。

長い曲になると、中盤は、もやもや~っとしか憶えておらず、
うっとりと聴きながら・・・いつの間にか、ウトウト。
朦朧とした意識の中で音楽は進行、クライマックスの大音響で覚醒。
そして、大後悔するのです。

ベートヴェンは約18分前後ですが、「ゴルトベルク変奏曲」は1時間超。
また、寝落ちするに違いない・・・いや、今回は寝ないぞ!
曲を知っていれば大丈夫。「ゴルトベルク変奏曲」を予習だ!と一大決心。

そういえば、村上春樹氏の愛聴盤が、
グレン・グールド演奏の「ゴルトベルク変奏曲」だと何かで読んだ記憶が。
私も「ゴルトベルク変奏曲」を語れる、アカデミックでインテリジェンスな女になれるかも、と新たな企みも芽生えます。

まずはWikipediaの「ゴルトベルク変奏曲」のページを読み、対策を考慮。

30の変奏曲のうち、長調(明るい曲調)の中に、
いくつかの短調(暗い曲調)があることがわかりました。
全部憶えることは不可能。ならば目印になるところだけでも憶えよう!と、
短調の曲と、盛り上がりのある曲を、目印とすることに。

♬ やんそんさん 「ゴルトベルク変奏曲」目印フロー ♬

曲はアリアでスタート

15番目の短調の曲が、前半の締めくくり

後半スタートの16番目「フランス風序曲」はゴージャス

21、25番目は短調

クライマックスの30番は、懐かしい感じのする曲

そして最後は最初と同じアリアで終わる

空いた時間に、小山さんや他のピアニストの演奏を繰り返し聴く毎日。

意外にも「ゴルトベルク変奏曲」は聴きやすく、
何よりも良かったのは、日常生活の様々な場面でベストBGMとなったこと。
通勤途中に聴くと、街の緑がいつもより青々と美しく見えてきます。
外でお昼を食べながら聴くと、何だか充たされた気分に。
コンビニのおにぎりとからあげクンも、最高のランチになるのです。

そんな毎日を続けているうちに、予習効果を実感する出来事が。

歯医者さんで治療中、壁掛け時計のアラームの音楽が鳴りました。
なんと「ゴルトベルク変奏曲」の3番変奏曲ではありませんか!
「アラームの音楽、バッハですね」と、私の歯を削っている先生に、知ったかぶりしたいのですが、一言も発することのできない治療中の身。
しかし、「アカデミックでインテリジェンスな女」に近づきつつある!と、
心の中でほくそ笑んだのでした。

日常生活でも予習効果を実感した私は、更に熱が入ります。

バッハや「ゴルトベルク変奏曲」に関するYoutubeをいくつも視聴。
図書館からバッハの伝記を借りて、音楽の父たる所以も学びます。

そして、意気揚々と、リサイタルの日を迎えました。

🎹  🎹  🎹

会場は、定員約700名のホール。ロビーは華やいだ雰囲気です。

定年後の夫婦、マダムの集団、50~60代の男女グループ、
母親といっしょに来場した、小学生や中学生のピアノ少女。
もちろん、一人で見に来た方も。様々な顔ぶれです。
みんなの顔が「小山さんの演奏を楽しみにしている顔」に見えてきて、
私もワクワク、気分も高揚してきます。

会場に入ると、舞台にはグランドピアノと
それに負けない大きさの生け花が飾られています。華やか。

私たちの席は6列目。ピアノから向かって右側なので、
ピアノを弾く手元を見ることはできません。残念。

いよいよリサイタルが始まり、小山さんが舞台に登場。
小山さんの手にはマイクが。そして、会場に向かって話し始めます。

話の内容は「ベートーヴェン、そして・・・」は次回も予定していたが、
コロナ禍の影響で、この回で終了します、というお詫びと、
ベートヴェンとバッハ、そしてプログラムの曲に対する思いでした。

小山さんの話の中で、特に印象に残ったのが、
「ゴルトベルク変奏曲」の第30番変奏に対する思いです。

「バッハの人柄と、温かさを感じる、とても好きな曲です。演奏していても、胸にグッと迫るものがあります」と。
そうか~30番ね。他の変奏曲と違って、メロディーがわかりやすいし、
ちょっと違う感じがするしね・・・と同意できるのも予習の効果。
えっへんです。

いよいよ演奏が始まりました。
ピアノの音が鳴り響き、会場の空気を振動させ、
その振動が身体と心に伝わってきます。
やはり、生で聴く演奏は素晴らしい!

ベートヴェンのソナタが終わり、いったん休憩にはいります。
1時間超の「ゴルトベルク変奏曲」を安心して聴くために私もトイレへ。

休憩が終わると、いよいよ「ゴルトベルク変奏曲」が始まります。

会場に響く一音一音が、心へもダイレクトに響きます。
CDの演奏は、簡素な教会の空気を思わせる清々しいものですが、
生の演奏は、それに加えて、情感たっぷり、表情豊かで迫力があります。
めくるめく音の世界に(寝落ちすることなく!)酔いしれます。

そして、あっという間にクライマックスの30番変奏です。
小山さんの言葉を思い出しながら「うんうん。30番はグッと来るよね~」
と聴いていると、ぐすっ、ぐすん、と鼻を啜る声が。

私の斜め前のご婦人が、肩を震わせ、ハンカチ片手に涙をぬぐっています。
会場を見渡すと(といっても6列目までの様子しかわかりませんが)、
何人かの女性が、ハンカチを何度も顔に当てて、涙をぬぐっています。
きっと私の背後にも、感動で涙する人たちがいるのでしよう。
みなさんの感動の涙に、私の心も更にグッとなります。

素晴らしい演奏とみんなの感動の思いで、
会場は言葉では表せないほどの、温かく幸せな空気に包まれます。

そして、最後のアリアです。
長い旅を終えたような、人生の終焉のような、
静寂と安らぎと幸福感を感じる演奏です。

感動の拍手の中で、リサイタルは終わりました。

小山さんの素晴らしい演奏を生で聴くことができた喜びと、
たくさんの人と一緒に素晴らしい時間を共有できる喜び。
やはりライブは素晴らしい。夫婦共に感動と幸せをもらいました。

🎹  🎹  🎹

小山さんのリサイタルから約2か月経っていますが、
未だに毎朝「ゴルトベルク変奏曲」を聴いています。
そろそろ聴き飽きる前にストップした方がよさそう、と思う今日この頃。

あなたも「ゴルトベルク変奏曲」を聴いてみてはいかがでしょうか。
今までの音楽体験になかった、新しい何かが見つかるかもしれません。

自分の人生の最後は、
「ゴルトベルク変奏曲」のアリアのような気持ちで終えたい、
と思っているやんそんさんでした。またお会いしましょう。

☝小山さんの「「ゴルトベルク変奏曲」はSpotifyフリーになかったため、CD紹介記事を貼り付けました。※Amazon Music Unlimitedはあります。

☝「ゴルトベルク変奏曲」について紹介した記事です。ラン・ラン演奏のYoutubeやプレイリストを貼り付けています。

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