見出し画像

【出版 Tips】 印税率や部数を下げれば企画は通る

以前、「本を出したい人のための、出版エージェントまとめ」という記事を書きました。

実際に自分でエージェントをつかったので、その経験から導き出した出版のコツについて軽く書いておこうと思います。

最初に結論を書いてしまうと、

  • 売れそうなネタを持っていない限り、エージェントを使うのは時間の無駄

  • 印税率や部数といった条件を下げれば、企画は通りやすくなる

ということが分かりました。


●売り込みは大変。だから外注に出してみた

僕はノンフィクション作家です。
いままで3冊著作を出しています。

いままでは自分で売り込んで出版を実現させていました。しかし売り込みは大変です。就活みたいなイメージといえば伝わりやすいでしょうか?

4冊目を出すのにあたり、この大変な作業を外注に出すことを考えました。出版エージェントに売り込んでもらおうという訳です。

コミッションは安くありません。ですからお金のことだけ考えると、あまりいい手ではないかも知れません。ただエージェントを使った売り込み体験は情報が出回っておらず、未知数です。自分でやってみない限り分からないので、半分ネタのような感じでお任せしてみることにしました。


●仕事を放棄したエージェント

具体的な名前を出すと差し障りがあるので、仮に A 社としておきましょう。
A社のことは名前だけは知っていました。この会社に任せようと考えた直接のきっかけは、複数いるエージェントの一人がオンライントークイベントに登壇していたからでした。
このエージェントのことは、仮に T さんとしておきましょう。たまたまですが、 Tさんは僕が Twitterでフォローしている方の出版を実現したことがあり、信用できると踏みました。

エージェント業は印税からコミッションを徴収するビジネスモデルです。ですから大手を中心に売り込みを掛けます。大手から出した方が売れるからです。ただ世の中の本は売れ線狙いばかりではありません。

売り込みが難しい企画であっても、エージェントには売り込みのノウハウがあるのではないか?

あるいは

売れるように壁打ちの相手をしてくれるなどして、企画のブラッシュアップに貢献してくれるのではないか?

そんな期待を持っていたのですが、幻想に過ぎませんでした。
詳しい経緯は省きますが、結局エージェントがやっていることは「売れそうな企画を形にする」ことなんだと気付かされました。

結局 T さんは大手中心に10社強売り込んだようですが、結果を出せないまま、ミッションを放棄しました。

A社にお願いして勝ち得た唯一の収穫は、数社に売り込むときのタイミングでした。
webで見ると「出版社は月1度か2度のペースで企画会議を開いている。この会議を通さないと企画が動き出さない。だから売り込みは1社ずつ、他社にも働きかける場合は1ヶ月以上間を開けるように」と書かれているのですが、Tさんは半月の間に数社同時に働きかけていたようです。

実現が難しい企画の場合は、同時に複数の会社に売り込んでしまっても構わないことが分かりました。


●「売れる企画を売り込む」のがエージェント

T社と決裂した後、某エージェントの「出版企画書作成マンツーマンセミナー」を受講しました。
これが本当に使えませんでした。

失望したことを具体的に書くと

  • 「もっと売れる企画で挑戦しろ」と言われたこと
     僕は「自分の書きたいことを本にしたい」人間です。3冊出して気持ちが一段落したので「売れそうな企画をやってもいいかな」という気になってきましたが、基本は書きたいテーマにだけ取り組みたいと考えています。
     「売れる企画を売り込む」って、誰にでも出来ますよね?
     まるで高度経済成長期の営業と同じです。
     いまは長くつづく不況の時代なのです。
     売れる企画だったら、労せずして著者が直接出版を実現できます。
     「売りづらい企画をどうするか?」というノウハウをエージェントは持っていません。

  • 「一度重版掛からない本を出してしまったら、二度と本は出せない」と言われたこと
     先方曰く「『紀伊國屋パブライン』という売り上げのデータベースにアクセスすることで、著者の過去の本の販売部数を確認することが出来る。重版の掛かっていない書き手は売れない人なので、企画を通してもらえない」とのことでした。
    僕の本は3冊とも重版が掛かっていません(爆
     しかし4冊目の企画が通りました。

     おかしいですね? 出版できないという話はどうしたんでしょうか?
     もっともらしいデマを吐く人は信用を落とします。


●エージェントには質問力が不足していた


 相談時間が1時間しかないにも関わらず「売れる企画を書け」と説教が始まったので、途中で壁打ちメインの内容に変えてもらいました。
そこで本の内容に関して、1点だけ良い着眼点を得たのですが、これも僕がしつこく食い下がってあれこれ質問をぶつけたからで、壁としての精度もねぇ……という感じでした。
壁打ちの相手を務めるには、かなりの質問力が要求されます。
なんだか相手ではなく、こちらの質問力が試されているようでした。

この方は出版プロデューサーとして、企画の立案もしているそうです。
このとき先方が出してきた「過去の実績」が薄っぺらなノウハウ本ばかりで、げんなりしました。
この方はおそらく閃き型の人で、企画を煮詰める力は弱いと思います。


●結論

いま手元にはお蔵入りしたものも含め、9本の企画があります。

某出版社に一番新しい企画を売り込みに行きめでたく採用されたのですが、その場の雑談で「こういう企画も考えたことがあります」と T社にお願いした案件の話をしたら、こちらも無事採用されました。1社に対し2本の企画を通せたのです。

プロのエージェントが投げ出した案件を自力で通したのです。
心の中でガッツポーズしました。

なぜ通ったかといえば、実に簡単で

印税率や部数といった条件を下げた

からです。

売り込みに関する記事に目を通すと「印税10%以下の版元が増えていますが、できるだけ良い条件の所を選びましょう」と書かれています。
確かに正論ですが、これをやめたのです。

条件は悪いのですが、【印税8% 2千部】という条件を呑みました。

ここまで下げれば、割と企画は通るようです。
(逆にエージェントからみた場合、この条件では話にならないので、ここまで下げて交渉できません)

18社に売り込んで全敗。半ば諦めていたので「出せれば良いか」という謙虚な気持ちになっていたのが、逆に良かったのかもしれません。

「ヒット作を出して印税生活」という夢を見たい向きにはがっかりな話でしょう。
しかし世の中には、自費出版してでも本を出したい人が大勢います。
条件を下げればハードルが下がる。
当たり前の話ですが、どうしても出したい本があるとき、そしてそれが売れ筋の本ではないとき、中小の版元に条件妥協の覚悟で当たってみると道が開けるかも知れません。

いまのこの記事を読んでいるあなたの参考になるか分かりませんが、こういうぶっちゃけ話は見かけないはず。多少なりともヒントになれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?