近くて遠い_星の在処__1_

【連載小説・第三回】近くて遠い星の在処・3

中学三年生の「僕」は自らを煤けた石ころと呼び、特別な存在になることから逃げ回りながら生きている。彼はある日、特別な存在である親友の手によって「星の王子様」と再会してしまった。

王子様は煌めきを振りまきながら、僕の領域を侵し、定義を揺るがしてていき――。
「シュウ、14歳」編・「僕、18歳」編から成る二人の少年が「いつの間にか奪われてしまった自分の星」の在処を探す物語。

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近くて遠い星の在処

「シュウ、14歳――蜂蜜色の宇宙③」


その後、僕は勉強をした。「悔しいからゲームの腕を磨く」と遼には嘘をついて家に帰った。

シュウと同じ学校に行けば、シュウに近づけるのだろうか。
僕もあの輝きを手に入れることができるのだろうか。
煤けた石ころじゃなくなることができるのだろうか。
僕はそればかりを考えて、多くの問題を解いた。

シュウの夢を見た。
シュウになる夢も見た。
シュウにさえなれば、遼の友達でいることも恥ずかしくないと思った。僕とシュウが入れ替われば、二人が両方幸せになれると淡い希望を抱いた。
僕は、シュウになりたい――――。

煤けた石ころなんかじゃなくって、特別な輝きを得たい。


「――、凄いじゃないか」


結果は11位だった。
僕は貰った結果票を見て茫然としていた。

家族は皆、僕を褒めた。テストの点数は、見たこともないものばかりだった。頑張った。熱く燃えるように、全て取り込もうと勉強ばかりしていた。机にかじりつくとはこのことだった。

――シュウってめっちゃ頭がいいんだぜ

そのはずなのに、こんなにかき乱され、ぐちゃぐちゃになりそうなのはなぜだろう。

僕は思わずシュウに電話をかけた。のんびりとした透明な声が、電話機をすり抜けていく。

「今回のテスト、何位だった?」

どうにかシュウに褒めてほしかった。
もしかしたら、偶然、シュウを抜けたかもしれない。
特別シュウが調子が悪くて、12位を取っているかもしれない。もしかしたら、シュウの次かもしれない。
何か間違いがあって欲しい。ぼろぼろになりそうな僕は、灰を集めて必死に祈っていた。

「え、1位だよ。キミは?」

受話器の先で、蜂蜜のように笑うシュウが見える。目にはたっぷりと光を集め、うつくしく笑うシュウの姿が。

足元から何かが崩れ落ちるような感覚。僕は、何も答えずにスマホの電源を落とし、それを壁に投げつけた。


「こんなの――俺じゃない」

俺は並べたテストをぐしゃぐしゃと丸め、丸めては拡げて何度も何度も丸め直し、声にならない叫び声を上げて引きちぎって紙吹雪を浴びた。

自転車に飛び乗り、家を飛び出す。夢中で漕いだ。わけもわからない言葉を叫んでいた。

シュウは危険だ。
アイツに近づいたら、僕が僕ではなくなってしまう。
煤けた石ころがぴかぴかに磨かれるだと? 
ばかを言うな。

それは僕が生まれ持った宿命だ。僕は生まれてから死ぬその時まで煤けた石ころのままなんだ。

シュウは違う星の生まれだから魔法がつかえる。魔法を使って、周りの人をシュウにしてしまうんだ。

雨が降っている。雨粒が僕の背を叩く。良かった。生きている。良かった。だいじょうぶ、僕は僕のまま――


「……どうしたんだよ、――」

家の玄関を開け、遼が迎える。

「今タオル取ってくるから待ってろ」

前髪から雨粒が地上へ線を引く。僕は、冷えた体で何も考えられずにいた。
遼は俺の髪に触れ、赤がにじんだ紙片を取る。

「テストさ、すっげーいい点取ってたよな」

僕は何も言うことができなかった。

「俺、12位だったんだけどさ。11位ってお前なんだろ」
「さあ」

僕は曖昧に笑う。遼にはお見通しだったが、それはいい点数なんかではない。

「勉強しねーの?」
「……俺、多分そういう器じゃねーんだ」

項垂れる僕に、遼はいつものようにおちゃらけたりせずに、黙って座っている。

「俺さ、お前がゲームでわざと負けたこと、怒ってた」
「うん。ごめんな」
「でも、本当にあの時はお前の負けだったんだな」
「うん」
「お前の心が弱かったから、負けたんだよ」
「……そだね。俺、雑魚でバカだから。…………俺じゃあ遼に、なれないから」

遼は何も言わずに隣に座っていた。なぜだかとても悲しそうな顔をしているが、理由はわからない。

遼の手には紙パックのジュース。僕は淹れてもらった緑茶をすする。

僕の定義を遼に決めてほしいと思った。
でも、遼は太陽であり王様だ。煤けた石ころなんかのために、道を示すなんてことはしてくれない。

僕は特別じゃない星に生まれた煤けた石。負けている方が似合っている。
そして、太陽ならば煤けた石も照らしてくれるが、星がそれをするのはどうなのだろうか。そんなことしたら、彼の輝きに価値が下がってしまうんじゃないのだろうか。

その時、乱暴に一階の扉が開かれる音がし、怒声が聞こえた。遼は拳をぎゅっと握り、何かに耐えるように下を向いていた。

「帰る時は裏口からな」

僕は黙って頷く。遼の兄は、少し難しい時期らしい。遼が特別だからといって、彼の家族全員が太陽や星に選ばれている訳ではない。

「それでも、俺らは――を仲間だと思ってるから、その意味をよく考えてくれよ」

遼は最後にそう言って僕を送り出した。

そんなのはとっくの昔にわかっている。
それは皆が特別で輝いているからだ。僕はその光にお情けを受けているだけ。

遼ならば僕如きに光を当てたところで何ともないだろう。だが、シュウは違う――。
石にばかり光を注いでいたら、誰にもその光を知られない場所に隠れてしまうんじゃないだろうか。

だから、これはシュウを守るためなんだ。仕方のない事なんだ。
僕はシュウを憎み、嫌うことにした。

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次回、初稿になかったシーンを付け加えるので頑張ります。

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