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十年間「ケンスケくん派」を貫いた女の話を聞いてくれないか?――『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』感想 ※ネタバレ注意


これは、10年好きだった男の子へのラブレター。


「10年来の失恋をしてきますね」

そう言って私は映画のチケットを予約した。
2回。恋にも似た淡い想いを諦めるための2回だった。

私が10年好きだった男の子の名前は、相田ケンスケという。
エヴァンゲリオンの登場人物である。
カヲルくんでもなく、シンジくんでもなく、ケンスケくん。
私の好きな男の子は、エヴァに乗っていない。

彼のまとった自由な雰囲気が良かった。
戦争ごっこに興じるシーンがとにかく好きだった。
美しかった。痛々しさに勝る神々しさがあった。あまりにも無垢だった。

そりゃあまあ、「変」だと言われた。割とガチで言われ続けた。
エヴァでエヴァに乗らない上にNERVと無関係な登場人物が好きなのは周りの目からは奇異に見えたのだろう。
「わかるよ」と言われたことは一度もないし、それを期待した事だって一度も無い。

でも――私は相田ケンスケ――「ケンスケくん」が好きだった。

その彼への「呪い」にも似た想いを断ち切るためにも、私は映画館へ出向かなくてはいけなかった。

エヴァの呪縛とは無関係な人生だった。
「どうせ私の好きな男の子は脇役なんだ」とエヴァとろくに関わらずに生きていた。
Qで死んだもんだと確信してたし。

だが、最後の最後の最後で、その呪いは私の足元を攫った。
「Qで死んだと思っていた相田ケンスケが生きている」と。

お恥ずかしながら破とQは未見である。
だが、冒頭のどえらいテンションで終章を見に車を走らせた。
厚顔無恥とはこのことである。

で、この恋未満の感情の行方はどうなったかというと。

参った。
誰が予想しただろう。この恋は「成就」してしまったのだ。

私が2回の鑑賞の結果、失恋の代わりに得た物が、「アニメキャラへの初恋」だったのだ。

一度目は宙ぶらりんな気持ちで鑑賞を終えた。
数名の友達とLINEで「ケンスケ格好良かったね」なんて話をして、ぼうっと空を眺めていた。
痛みなんてない。悲しくなんてない。きっと私は彼に自己を託していたに過ぎなかったとか。
そんな「言い訳」ばかりを並び立てて、式波アスカという「彼が手を伸ばした存在」を必死に無視しようとしていた。

しかし、一人の友人から一通の素敵な贈り物が届く。

「矢御さんって気性の荒さがアスカに似てるよね。シンジへの態度とかすっげー似てる」と。

要するに「お前はいつも怒ってばかりいる」と。
思えばクソほど失礼な話だ。だが、それでも、私はその挑戦状に受けて立った。
そこに「希望」があると、確信めいた物があったからだ。
コーヒーを飲み干し、二度目の失恋へと挑む。

「私は式波アスカ、私は式波アスカ」と、やばい独り言を心でつぶやいて。
もちろん、「いやいや、あんな顔の良いエリートじゃないし」という葛藤はあったのであしからず。

私はずっと、「お話の登場人物に自分を重ねる」という行為ができない人間だった。
なんだか図々しくて恥ずかしい行為だと思っていたから。遠慮である。
それでも、あの瞬間だけは、思ってしまったのだ。
「お金払ってんだから、頭の中で私が何になろうと自由だろ!!!!」と。
だから、私は映画のチケット代で「式波・アスカ・ラングレー」になる事を選んだのだ。

その結果――。二度目のエンドロールで私は嗚咽を漏らすこととなった。

「アスカはアスカだ」その言葉に私の人生は赦された。
ほかでもない、10年好きだった男の子が赦してくれた。

きっと私は。
私たちは、無理に誰かになりたかった。
「無理をして誰かにならないと好かれない」と呪われていた。

だから私はいつも、怒っては泣いてを繰り返していた。
入らないヒールに足を収めたり、体に釘を打たれる痛みにもよく似た痛みに、助けて、嫌だと叫んでいた。
シンジくんのような、他人一人の力でどうしようもできない男の子に献身をして、自分を必要として欲しかったけど、失敗ばかりしていた。

そんな私の人生を赦してくれたのは、ほかでもない10年もの間に好きだった男の子。
私が私でいることを赦してくれる男の子。

いや、あの赦しはシンジのセリフである。
だが――やっぱり、ケンスケくんの祈りでもあるのだろう。

そもそも、アスカはケンスケと劇中では恋仲にはならなかった。この解釈は揺らがない。
アスカだけは、観た人に選択を委ねられている。
映画のカードだって、二枚をくっつけなければ隣り合わない二人。そういう風に作られているのだ。

シンジ【過去の献身】を選ぶのか、ケンスケ【未来の赦し】を選ぶのか。
二人の男の子はアスカに「どっちだってあなただよ」と微笑んで手を差し伸べてくれるのだ。

私は――迷わず「未来」を選ぶ。

それに、私は式波・アスカ・ラングレーなどではない。
1800円の魔法が解けた後の私は「私」。矢御あやせだ。

私は過去ですら、相田ケンスケを信じて相田ケンスケに好意を持っていたのだから、そんな未来、選ばずにはいられない。

ありがとう、ケンスケくん。
私を助けてくれて、私を赦してくれてありがとう。

これからもずっとずっと、あなたが大好きだよ。


【追記:カバー画像について】

「ただ少し、手を伸ばせば届く救い」を表現したくてこのようなカバー画像にしました。

そして、すぐにカードをくっつけました。

お幸せに。そして、幸せです。


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