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ちいさな文庫で

友人が私設文庫をオープンしました。開館日では無いけれど、特別に開けてもらいました。

ちいさな文庫には素敵な木の本棚があって大きな窓があります。そして彼女の好きな本がならんでいます。息子は寝転がって本を見ています。私たちはお茶を飲み お喋りをしました。

ちいさな文庫は思いの他、居心地が良い場所でした。私たちはこの空間で、午後のひと時を過ごしました。

・・・

私は子どものころから本が大好きでした。ものごころついてから1冊も捨てることはしませんでした。お気に入りの本もそうじゃ無い本も、両親の本も、漫画も家中の本は、私の宝物でした。新しい本に蔵書印を押すことが、とても嬉しかったです。

たくさんの本が私の血となり肉となり、わたしというものに育って行きました。

そんな私はある時、この本たちで図書館を作りたいと思うようになりました。歳をとって仕事を辞めたら、図書館司書の資格を取りに行き、本格的に本を整理したいと思いました。〇〇大学で司書講座のチラシを見つけました。

いつかすべてのやりたいことを終えた最後の最後に図書館をつくり、私の生まれた日から一緒に過ごした本の背表紙を眺めて暮らそうと思いました。

・・・

夫が亡くなり、私の人生の価値観がひっくり返り変えるような経験をしました。わたしの図書館の夢など粉々に砕けました。

大事な宝物であったはずの本の重みに潰されそうでした。

こうして私は本棚の全ての本を手放してくことにしました。あまりに本が多すぎて何年もかかりましたが、本棚はポッカリをした空間だけになりました。

寂しいかって?

意外にもそうは感じませんでした。身体が自由になり、羽が生えたよう軽く感じました。

次に押し入れに溜め込んでいたもの。幼い頃の宝物。気に入っていたワンピースを捨てて行きました。本当に大切な物は、物ではないことを知ったのです。

そして私はどんどん身軽になりました。

・・・

本が失くなり自分の図書館をつくる夢は叶わなくなりました。でも友だちの小さな文庫がその夢を叶えてくれたような気がしました。文庫の中の彼女が、その場所にしっくり合っていたからです。私ではなかったのです。

じゃあ私は何をしようか。

それに変わる夢はなにかしら・・・

一生に1冊のわたしの本をつくってみたい。

ちいさな文庫や図書館、誰かの本棚に私の本が並ぶのを想像してみました。なかなか悪くはない感じでした。

・・・

ようやくわたしは新しい夢を見つけました。












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