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年内最後の依頼者の感想~「回復」と「癒し」

12月28日仕事納めの日、
今年最後の依頼者のご感想が届きました。

自転車同士の衝突事故により
後遺障害が残ってしまったという案件で、
最初の相談から1年半以上かかって
裁判での和解に至りました。

依頼者には右鎖骨の骨折等による後遺障害が残っており、
労災では併合9級の後遺障害等級の認定が出ていたのに、
相手方保険会社は12級しか認めず、
話が平行線となっていたというのが、
私が関与する前の状況でした。

後遺障害の慰謝料だけみても
9級は690万円が(裁判)基準となるのに対し、
12級は290万円なので、
3等級の差は大きいと言えます。

訴訟の中でわかったのは、
同じ病院から出されているのに、
労災に提出した診断書と
保険会社に提出した後遺障害診断書とで、
肩関節の可動域の数値が異なっていることでした。
症状固定日、診察日は変わらないのに!  です。
さらに、医師のカルテに手書きで記載されていた数値も、
これら、症状固定日後に作成された診断書のいずれとも異なる状況を示しており、
依頼者にとっては最も不利な内容が書かれていました。

被害者と保険会社のトラブルは、
病院の不正確な記録、記載によってもたらされたものだったのです。

しかし、
訴訟は証拠によって判断されるものですから、
裁判所からは、
裁判所としては、
被害者に最も不利な医師のカルテの記載を重要視せざるを得ない
と言われました。

また、休業損害について、
就労状況や家族状況から、
裁判所の判断として、判決を出すとすると、
訴訟前の交渉で双方合意していた金額より、
大幅に低くなる、と宣言されました。

こうした中、
判決が出されるとすると、
訴訟前に保険会社が認めていた約620万円の金額すら
確保されない可能性が示唆されていましたが、
裁判官が最初に口にした和解案は800万円、
そこから、820万になり、
最終的には850万で和解が成立しました。

出てくる証拠に驚きながら、
対抗できる証拠獲得の努力をし、
智恵を振り絞って勝ち取った和解でした。

一方で、本件は、
被害の「回復」とは何か、
深く考えさせられる案件でもありました。

交通事故によって一生治らない後遺障害を抱えることになった被害者が
事件から回復するということはどういうことなのか、
ということです。

金銭的な回復は含まれますが、
それに限られません。

事故で失うものは、
時間、機会、これまでの生活、人に対する信頼、
その他様々あります。
「次に向かう」には何が必要なのでしょうか。

実は、
今年、私が関わったある刑事事件をつうじて、
このことを示唆する考え方に出会いました。

刑事事件の手続の中には、
被害者が公判手続に参加する「被害者参加」という制度があり、
ある刑事事件の「被害者」の代理人として、
公判に関与することがあったのです。

その中で、調べるうちに、
「修復的司法」という考え方に出会いました。
("Restorative Justice"。"RJ"とも略される)

従来の「応報的司法」というモデルに対して、
「修復的司法」は、
被害者の損害やニーズに重点を置き、
その「回復」「修復」を図ろうというモデルです。

現行の「応報的司法」は
どの法律に違反したのか、
誰がそれを「行った」のか、
加害者はどのような報いをうけるべきなのか
という「加害者」に対する問いに焦点があてられていますが、
そうではなく、
誰が傷ついたのか、
彼らは何を必要としているのか、
誰の義務であり責任であるのか、
この状況の利害関係者は誰なのか、
解決策を見つけるために利害関係者が関わることのできる手続とはどのようなものなのか
という「被害者」を中心とする問いに焦点を当てて考えようという考え方です。

「修復的司法」の考え方は
すでに北米やヨーロッパを中心に、現実に取り入れられており、
様々な制度やプログラムに具体化されて、
加害者と被害者が直接対面して行う被害者加害者調停
という制度まであるということに
大変驚きました。

被害者にとっては、
物質的な損害、精神的な損害が賠償されるということも大切ですが、
それだけではなく、
さまざまな疑問に対する答えや情報が必要であることもあります。
話を聞いてもらい、肯定されることが必要なこともあります。

こうした発想は、
刑事事件のみならず、民事事件にも当てはまります。

これまで、
「司法」と「癒し」は全く別の問題であって、
相反するとさえ考えられてきたという印象を受けています。

しかし、
修復的司法では
個人レベルでも社会レベルでも、
司法が「癒し」を促すことは可能であり、
促すべきであるという考え方が取られています。

世界的な潮流の中で、
司法を人間的なものにしていこうという取り組みがあることを知りましたので、
今後の自分自身の実務活動の中でも
参考にし、活かしていきたいと思っています。

この一年、
コロナ禍の中でも様々な案件に関与し、
多くの学びを得ることのできた一年となりました。

来年も、学びと実践を繰り返しながら、
ご縁あって関わる依頼者、相談者の力になっていきたいと思います。

1年間、お世話になりました。

来年もまた、どうぞよろしくお願いします。

追伸:
この依頼者の感想は日付は12月25日のクリスマスの日となっていました。
私にとっては最高のクリスマスプレゼントになりました。

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【70代・女性・交通事故】

私は、相手方弁護士との間で解決に向けてお話しを進めておりましたが、
大きな壁にぶつかってしまい、
私もヘトヘトとなっていたところに
田口先生と巡り合い、応諾頂きました。
「私でよろしければ…」そんな空気感を漂わせ、
そのお人柄と私のいわんとすること以上を的確に捉えて文章にして下さり、
感動したことを覚えております。
その後も沢山の難題に突きあたり、
法律的は勿論、多面的視野にて糸口を引き出し
時として落ち込んだ私を慮って
常日頃考えていらっしゃる見解をお話し頂き
立ち直れたという経緯がございます。
今こうして結果を受け入れることが出来ているのも
そのことあればこそで心からお礼と感謝を申し上げます。
先生の今後のご活躍とご健康をお祈り申し上げますと共に
何か私共に問題が生じました時には
是非お力添えをお願いします。

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