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旅するソーシャルワーカー

「旅するソーシャルワーカー」という言葉が思い浮かんだのは、コロナ禍が始まる前、ネパールの山の中を歩いていたとき。
 私は障害福祉の事業所で管理職をしていて、かなり追い詰められていた。私は現場の人間なので、管理職なんてやるもんじゃない。
 やっとのことで12日間の休みをとって、ネパールへと旅立った。
 ヒマラヤトレッキングの起点に辿り着くまで3日。
 トレッキングの初日、いきなりの急登で、膝の上がこむら返りしながら、休んだら登れなくなる気がして、我慢しながら休まず登り続ける。足は痛むけどひどくはならず、そのまま登っていると、いつの間にか痛くなくなっていた。
 初日から3000m以上の高所で、息が苦しくなる。
 苦しいときは苦しがった方がいいと、うめきに似た大げさな呼吸をして、酸素をいっぱい取り込む。
 山を登るのに苦しいのはあたり前。苦しくても歩き続けることはできる。
 苦しくても休まず歩き続けて、その先に待っていたのは、咲き乱れる花、ゴンパ(チベット寺院)、そしてホテル・レッドパンダのチャイ(ミルクティー)。

 翌朝、ゴンパで旅の安全を祈願し、登り始めると程なくして樹林の向こうに雪をかぶったヒマラヤの峰々が見えた。
 私の頭にふと、「旅するソーシャルワーカー」という言葉が思い浮かんだのはそのときだ。
 旅とソーシャルワークは直接関係ない。私という存在の中に、旅とソーシャルワークが同居しているだけだ。それでも今こうして歩いていると、旅することが、巡り巡って私の仕事の実践を豊かにすると思える。

 私は旅するソーシャルワーカー。

 針葉樹の樹林帯に日が差して、何て美しい光景なんだろう。樹林の向こう、間近に高峰ランタンリルン(7227m)が見えた。

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