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節分と付喪神

付喪神とは?

日本では昔から、年神様(正月に各家にやってくる神様、もしくは祖先の霊)を迎える準備として、年末に大掃除をします。
これは『煤払い』と呼ばれ、平安時代(1200年以上前)からある風習だと言われています。

室町時代(1336年~1573年)頃に書かれた『付喪神絵詞(つくもがみえことば)』という絵巻物があります。
当時、道具は100年経つと魂を持ち人を惑わすと言われていて、それを恐れた人々は煤払いの日に古い道具を捨てていました。捨てられた道具たちは、粗末に扱われることに怒り、妖怪(鬼)となって人々に復讐するも、退治されて悪行を悔い改める、という内容です。

人々への恨みをもった古道具たちが、神の力で、道具の妖怪『付喪神』として生まれ変わるのです。

『付喪神絵詞』では、付喪神たちがせっせと大明神を祀りつつ、最後に修行を重ね仏になったりしていて、本当に面白いです。
意訳でかなり端折っているところがありますが、ざっくりとした付喪神絵巻の内容をご紹介します。端折っても長い……。

専門家ではないので、もしかしたら間違った表現等があるかもしれません。興味がありましたら是非調べてみてください!

【ざっくりとした付喪神絵詞の内容】

100年以上経った道具には魂が宿り、悪さをするようになると言われているため、人々は新年に古道具等を捨てる『煤払い』をする。

古道具たち「こんなに尽くしてきたのに!」と怒り、仕返ししてやろうか、と画策

数珠の一連入道
は「そう言わずに、仇は恩で返すものだ」と説得するが、ボコボコにされ、弟子(たぶん仏具たち)とともに追い出される

古文先生(古文書?絵巻?)が「節分は陰陽が入れ替わる時節、その時に命を捨てれば、造化の神が妖怪にしてくれる」と説く

ここまでは喋ったり名前がついていたりしますが、まだ付喪神ではなく「魂を持った道具」の状態です!道具たち、100年近く経つと、妖怪になっていなくてもこのくらいはできるみたいですね。凄い。

節分の夜、道具たちは命を断ち、付喪神(妖怪)へと変化しました。人の姿になる者、道具に手足が生えた姿になるもの、世にも恐ろしい姿になるものと、姿は様々。

都の近くに拠点を置き、人や牛馬、食料を奪っては人々を怖がらせ、仕返しだと大満足で宴をする付喪神たち。

「これも全て造化の神のおかげ!祀らねば!」
社殿を建て『変化大明神』として祀り、神職を決め、朝夕神事を行うように。

神社といえば祭礼。神輿もつくり、付喪神たちは4月5日、行列となって一条通りを東へ向かう。

一条通りを西から、時の関白殿下の一団もやってきて、鉢合わせ!
部下たちは慌てふためくが、関白殿下は動じず、突如炎があがり、付喪神たちに襲い掛かる。逃げ出す付喪神たち。

えーっ!付喪神たちはどうなっちゃうのぉ!?と、ここまでが上巻。
いわゆる百鬼夜行(百器夜行)と呼ばれるものは、『変化大明神』という造化の神を祀る神社の祭礼(お祭り行列)だったという!
ここまで神道の気配が強いですね。さて下巻になると急に仏教の気配が強くなります。そこも面白いところ!
最初の頃に追い出された数珠も再登場します。

関白殿下がなぜ動じなかったか。そしてなぜ炎が付喪神たちに襲い掛かったか。とある僧正(偉いお坊さん)が書いた呪文のお守りが関白を護り、関白もまたそれが自分を護ると信じていたから。

その噂を帝も聞きつけて、僧正を呼び出し、祈祷は全て任せると命じる。僧正は高僧(偉いお坊さん)たちとともに祈祷を行う。

帝はある日、八人の護法童子(神霊・鬼神)の姿を目撃し、不動明王(大日如来の化身または使者ともいわれ、修行の妨げになる障害や魔物等を滅ぼして助ける)が遣わされたのだと感涙。

護法童子たちはあっという間に付喪神を退治する。
「今後人間に危害を加えず、仏教を大切にするなら、命だけは助けてやる」
「約束する!約束する!」


前半結構丁寧に描いていたのに(たぶん)、急に展開が早い。
2月3日に付喪神になる→4月5日にお祭り行列をしていたら燃やされそうになっちゃう→そこから間もなく退治される
次の所で「一連上人(数珠)に失礼なことをした」というのが「去年の冬」と言っているので、付喪神として生まれてから退治されるまでは1年くらいという感じでしょうか。
しかし、付喪神たちの物語はここでは終わりません。

というわけでなんとか命まではとられなかった付喪神たち。
「こんなに殺生もたくさんしてきたのに、懺悔の心をくみ取り、助けてくれるなんて。これからは仏教に帰依し、仏の悟りの境地を求めよう」
「しかし誰に教えを受ければ…あ!そうだ、数珠の一連上人がいるじゃないか!去年の冬は失礼なことをしたが、きっと懺悔の心を伝えれば、慈悲の心で許してくれるだろう」

その失礼なことをされた一連上人(数珠)は、世を厭い、山奥に暮らしていた。そこに尋ねてきた魑魅魍魎たち。
妖怪となった姿を知らなかった一連上人は最初は驚くが、付喪神たちから「かくかくしかじか」と今までのことを聞いて、改心している様子に「どうしているか気にしていた、改心した上に仏教に帰依したいとは喜ばしい」と彼らに教えを授けることになった。

全ての教えを授けると、一連上人は即身成仏する。その姿に感銘を受け、付喪神たちはますます信心を深め、「これからは別々に歩み、俗世との絆を断ち、深い山に入って修行をしよう」と誓う

付喪神たちは修行を重ね、ついに即身成仏し、それぞれ異なる仏になった。

さあ、この話を聞いて、真言宗の教えの深さがわかったでしょう?
古道具(心を持っていないもの)が成仏できるのは真言密教だけ!心を持っていない道具が成仏できて、心を持つ人間が成仏できないわけはない!
即身成仏を願うなら、真言の教えを信じよう!


最後、ここまでのテンションではないと思いますが、なんか面白い話を一生懸命聞いてたら最後に宗教の勧誘をされた感が強いですね!
「そこ(物すらも成仏できるのはうちだけだよ!人間が成仏できないわけないよね!)を伝えるためにこんなに長い物語を作ったの!?」と言いたくなります。でも、こういうところがすごく楽しいです。
「この方を祀ろう!大明神様だ!そうだ神輿をつくり、お祭りをしよう!」みたいな流れもとても好き。

神仏習合の考え方については、まだ勉強中なので下手な解説はやめておきますが、日本の宗教観はすごく面白いなと思います。


絵巻物はコチラで見られます。
上記の資料他、様々な貴重な資料を公開している『国際日本文化研究センター』
他、参考文献:
小松和彦氏『妖怪文化入門』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
挿絵とあらすじで楽しむお伽草子

付喪神の『百器衆(ひゃっきしゅう)』

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会えるアイドルならぬ、会える付喪神の『百器衆』
神出鬼没ですが、もしどこかで見かけたら仲良くしてください♥

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